第30話 「黒塚先輩と爪切りの実演」

放課後の教室。夕日が窓から差し込み、静かな空気が漂っている。座白冬は机に座り、教科書に目を通していた。そんな彼の横に、黒塚夏先輩がひょいと現れる。


「座白くん、その爪切り、もう使った?」

「……まだです。正直、使うタイミングが特にないというか」

「ふーん。じゃあ、試しに今使ってみたら?」

黒塚先輩の提案に、座白は少し眉をひそめる。


「ここで爪を切れと?」

「そう。せっかく私が選んだんだから、どんな感じか確認してみたいの」

「いや、爪切りって、そんなに感想を求めるようなものじゃないですよ」

彼が淡々と答えると、黒塚先輩は小さなため息をついて、鞄から例の木屋の爪切りを取り出した。


「じゃあ、私が切ってあげる」

「……は?」

唐突な申し出に、座白は目を見開いた。先輩は彼の返答を待つことなく、勝手に彼の手を取る。


「じっとしてて。私、結構こういうの得意なのよ」

「いや、普通に自分でできますから」

「ダメ。これは私からのプレゼントなんだから、私が最初に使うべきでしょ?」

黒塚先輩は一方的に理屈を押し通しながら、彼の指先を握る。その手は思ったよりも柔らかく、座白は少し戸惑った。


「……まあ、好きにしてください」

渋々折れる座白。黒塚先輩は満足げに微笑むと、彼の指先に目を凝らした。


「綺麗な指ね。でも、ちょっと爪が伸びてるわ」

「……別に人に見せる機会なんてないですけど」

「そういう問題じゃないのよ。爪が整ってると、意外と気分が良くなるの」

そう言いながら、彼女は爪切りを丁寧に当てて、カチッと音を立てて切り始めた。


「どう?痛くない?」

「……いや、大丈夫です」

「よかった。こういう作業、案外嫌いじゃないのよね」

彼女の手際は思った以上に良く、座白はただされるがままに指を預けた。


「ふふ、こうやって人の爪を切るのってちょっと楽しいかも」

「楽しいって……普通、そんな感覚にならないと思いますけど」

「座白くんの爪だから、かもね」

さらっと言う黒塚先輩の言葉に、座白は少しだけ口を閉じた。何か返そうと思ったが、妙に気恥ずかしくて言葉が出ない。


やがて、黒塚先輩は最後の一指に爪切りを当てると、満足げに頷いた。


「ほら、これで完了。どう?」

「……まあ、綺麗に切れてると思います」

「でしょう?次は自分で切れるようにね。でも……たまには私がやってあげてもいいわよ」

「……遠慮しておきます」

そう答えたものの、座白の声はいつもより少しだけ柔らかかった。


夕日の中、爪を整えられた指を見つめる座白の横で、黒塚先輩は満足そうに微笑んでいた。



本業が忙しいので趣味の小説は一旦休止します。気が向いたら再開します。

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黒塚先輩は後輩男子をからかいたい てきとう @NishioShin

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