第12話 「ブランドと座白君の価値観」
放課後の帰り道。夕陽がオレンジ色の光を投げかける中、黒塚先輩と座白はゆっくりと歩いていた。ふと、黒塚先輩が前を向いたまま口を開く。
「ねえ、座白君」
「……なんですか」
「ブランドものって興味ある?」
唐突な問いに、座白は一瞬考えるそぶりを見せるが、すぐに答える。
「特に興味ないですね」
「へえ、どうして?」
黒塚が振り返り、座白の顔をじっと見つめる。
「服とかにブランド名がでかでかと書いてあるのって、金持ちアピールみたいで好きじゃないんです。それに、消耗品にお金をかけたくないですし」
その冷静な答えに、黒塚は少し目を細めて微笑む。
「なるほど、座白君らしい考えね。じゃあ、何ならお金を使いたいと思うの?」
「……そうですね。一生使えるものとかですかね」
その言葉に、黒塚は少しだけ驚いたように首をかしげる。
「一生使えるもの? 例えば?」
「例えば……頑丈な家具とか、何十年も使える道具とかですか。そういうのには価値があると思います」
黒塚は一瞬考え込んだあと、ゆっくりと頷いた。
「ふむ……確かに、そういうものにはお金を使う価値があるかもしれないわね」
彼女は微笑みながら、自分のタイツ越しの足元をちらりと見た。
「じゃあ、私のこの靴はどうかしら。一生履き続けられそう?」
「……それは分かりませんけど、ちゃんと手入れをすれば長く履けるんじゃないですか」
「ふふ、真面目な答えね」
黒塚はその言葉に満足したように微笑むと、軽く靴の先をトントンと地面に叩いた。
「でも、一生使えるかどうかを考えて物を選ぶって、少しだけ寂しくない?」
「……そうですか?」
「だって、一生使えるものだけで揃えてたら、新しいものに触れる楽しさが減るでしょう?」
その問いに、座白は少し考え込む。そして、静かに答えた。
「まあ、先輩みたいに物を楽しむのも悪くないとは思います。でも、僕はそこまでこだわりたくないだけです」
黒塚はその答えに小さく笑った。
「ふふ、やっぱり座白君は堅実ね。でも、その価値観、嫌いじゃないわ」
夕陽が二人の影を長く伸ばしていく中、二人は再び歩き始めた。その穏やかな足音が、静かな校舎裏に響いていた。
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