第11話 「おみくじと黒塚先輩の待ち人」
昼休み、校庭の片隅。秋の涼しい風が吹く中、黒塚先輩はベンチに座りながらおみくじの紙を指先で弄んでいた。隣に座った座白がちらりとその様子を見て、静かに問いかける。
「……それ、神社のおみくじですか」
「そうよ。昨日引いたの」
黒塚は微笑みながら、紙を座白に向けた。そこには整った字で「待ち人:来ず」と書かれている。
「ねえ、座白君」
「……なんですか」
「おみくじで『待ち人:来ず』って、ちょっと酷いと思わない?」
その言葉に、座白は少しだけ目を細める。
「まあ……希望がないように見えるかもしれませんけど、現実的なことを書いているとも言えますよね」
「でもね、待ち人が来ないって、かなりズバッと切り捨ててると思うの」
黒塚は紙を見つめながら、少しだけ不満げな顔をする。座白は小さくため息をつき、淡々と続ける。
「そもそも、待ち人が来るか来ないかって、おみくじが決めることじゃないですよ」
「ふふ、そうかも。でも、ちょっと面白くない?」
「どこが面白いんですか」
黒塚は紙を畳みながら、顔を座白に向ける。
「だって、『来ない』って言われたら、逆に来る可能性を考えたくなるもの。そんな風に思わない?」
「……先輩、基本的に天邪鬼ですよね」
「そうかしら?」
彼女の言葉に、座白は肩をすくめる。
「それに、待ち人が来ないなら、自分から会いに行けばいいだけじゃないですか」
その答えに、黒塚は少し驚いた顔をした。
「へえ、座白君って案外積極的なのね」
「いや、別に積極的とかそういう話じゃなくて、効率の問題です」
黒塚はくすくすと笑いながら、おみくじをそっとポケットにしまった。
「ふふ、待ち人に会いに行くね……悪くないわね」
「そもそもおみくじで『来ず』って書かなければこの問題も起きないのに」
「確かに。でもね、座白君」
黒塚は夕陽に照らされた笑顔で静かに続けた。
「おみくじが言うのは『来ず』じゃなくて、相手が来ないことも悪くないってことかもしれないわ」
その曖昧な言葉に、座白は一瞬だけ考え込む。だが、すぐに冷静な声で返した。
「……それも先輩流の解釈なんですね」
「そうよ。解釈次第で、どうとでも変えられるもの」
黒塚の言葉にどこか不思議な説得力を感じつつ、座白は軽く笑いながら肩をすくめた。
「……まあ、先輩らしい考え方だとは思います」
二人は静かな風に吹かれながら、しばらくそこに座っていた。夕陽が少しずつ西へ沈む中、その場の空気は穏やかに流れていく。
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