第10話 「神様と黒塚先輩の主義」
放課後の空き教室。夕陽が差し込み、机の影が長く伸びる中、黒塚先輩がふと思いついたように話しかけてきた。
「ねえ、座白君」
「……なんですか」
「神を信じる?」
唐突な問いかけに、座白は特に表情を変えず、いつもの冷静な口調で答えた。
「信じないですね」
「へえ。どうして?」
「単純に、見たことも感じたこともないので、実感が湧かないからです」
その素直な答えに、黒塚は少しだけ目を細めて微笑んだ。
「なるほど、冷静ね。でも……意外とそういう考え方の人が神に救われたりするのよ」
「いや、救われることが前提なのがよく分かりませんけど」
軽く肩をすくめる座白に、黒塚はさらに追い打ちをかけるように聞いてきた。
「じゃあ、私が『神様がいる』って言ったら?」
「……信じませんね」
「即答ね」
黒塚はくすくすと笑いながら、座白をじっと見つめる。そして、少しだけ真剣な表情で口を開いた。
「私もね、見えないものは信じない主義なの」
「そうなんですか」
「ええ。でも、見えないものに魅力を感じるのは別の話」
その意味深な言葉に、座白は少しだけ首をかしげる。
「……それって、どういう意味ですか?」
「例えば、神様を信じなくても、『誰かが信じてる』ってことは事実でしょ。それがどんな気持ちなのかを想像するのが、私は好きなの」
その答えに、座白はしばらく考え込む。そして静かに言葉を紡いだ。
「……要するに、先輩は信じてる人の気持ちを尊重してるってことですか」
「そうかもしれない。でも、もっと単純よ。見えないものって、ちょっとロマンチックじゃない?」
黒塚は微笑みながらそう言うと、窓の外の夕陽に目を向けた。光が彼女の黒い髪を柔らかく照らしている。
「座白君も、時には見えないものに心を預けてみるのもいいかもよ」
「……そういう先輩が何か信じる姿は想像できませんけど」
「ふふ、それならいいの」
彼女のその言葉には、どこか達観したような響きがあった。座白はそれ以上何も言わず、窓の外に目を向ける。二人の間に静かな空気が流れていた。
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