第9話 「靴の好みと座白君の答え」

放課後の帰り道。木々の葉が夕陽に照らされて赤く輝く中、黒塚先輩はゆっくりと歩きながら口を開いた。




「ねえ、座白君」


「……なんですか」


「どんな靴が好き?」




唐突な質問に、座白は少し考え込みながら答える。


「……無難な靴が好きですね」


「無難?」


「はい。例えば、色なら白か黒のシンプルなもの。あとは、その人に合っていればそれで十分です」




その冷静な答えに、黒塚は軽く首を傾げてみせる。


「ふうん。じゃあ、私の靴はどう?」




黒塚は少しだけ足を前に出し、自慢げに自分の黒い革靴を指さす。その足元には、黒いタイツとの組み合わせが見事に整っている。




「……似合ってますよ」


座白は特に表情を変えず、淡々と返す。その素直な答えに、黒塚は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに小さく笑った。


「ふふ、ありがとう。でも、無難って、何も考えてないみたいに聞こえない?」


「そうかもしれませんね。ただ、靴が派手すぎると、その人の印象がそっちに引っ張られるじゃないですか。それが嫌なんです」


「なるほど。それで言えば、座白君らしい考えね」




黒塚は歩きながら自分の靴をちらりと見下ろし、少しだけ得意げな表情を浮かべた。


「ちなみに私の靴、無難に入る?」


「先輩の場合は……ギリギリ無難に入るんじゃないですか」


「ギリギリ?」




その言葉に黒塚は少し驚いたようだが、すぐにふっと微笑む。


「まあいいわ。無難っていうのも、結局はその人の基準次第だものね」




座白は肩をすくめながら、軽く息をつく。


「そういうことです。だから、先輩の靴は先輩に合っているから問題ないですよ」


「ふふ、ありがとう。それなら合格ね」




二人はそのまま穏やかな足取りで歩き続けた。靴についての話はそこで終わったが、どこか心地よい空気が二人の間に漂っていた。

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