第13話 「手の大きさと黒塚先輩の提案」

夕暮れ時の屋上。秋の風が心地よく吹く中、黒塚先輩が座白君をじっと見つめていた。いつものように唐突な質問が飛んでくる。




「座白君、手の大きさって気にしたことある?」


「……あまりありませんね。どうしてですか」


「手が大きい人と小さい人って、なんだか不思議な違いがあると思わない?」




座白は少し首をかしげながら答える。


「違いって……具体的にはどういうことですか?」


「例えば、指が長い人はピアノが得意そうとか、手が大きいと力が強そうとか。そんなイメージがあるわ」




黒塚の言葉に、座白は少し考え込む。


「まあ、遺伝が関係しているって話は聞いたことがありますね。手の形や大きさも、家族で似ることが多いですし」


「そう、遺伝」


黒塚は満足げに頷きながら、ふっと自分の手を広げた。夕陽に照らされるその手は、細く長い指が印象的だった。




「じゃあ、座白君。ちょっと手を出してみて」


「……え?」


「いいから、ほら」




彼女に促され、座白は少し戸惑いながらも自分の手を差し出す。黒塚はその手に自分の手を重ねた。二人の手のひらがぴったりと合わさり、黒塚が微笑む。




「こうすると、手の大きさや形がよく分かるわね。それに……体温も感じる」


「……なんでこんなことをするんですか」


「ただの確認よ。私の手、座白君のより少し小さいわね」




彼女はその言葉を楽しむように呟きながら、目を細めて手を外す。座白は軽く息をついて冷静に応じた。


「当たり前じゃないですか。男性の方が一般的に手が大きいですから」


「でも、少しだけ触れてみると、自分とは違う形や温度を感じる。それが面白いのよ」




その言葉に、座白は一瞬考え込む。たしかに、手を合わせることで何かを感じるというのは、普段あまり意識しない感覚だった。




「……先輩は、こういうことをする理由を何か考えてるんですか」


「ううん、理由はない。ただ、手のひらを合わせるのって、どこか安心するでしょ?」




黒塚の言葉には、どこか柔らかい響きがあった。座白はそれ以上何も言わず、夕陽を眺める。二人の間に静かな時間が流れる。




「ねえ、座白君」


「はい」


「また思いついたら、手を合わせてみていい?」


「……別に構いませんけど、何の意味があるんですか」


「意味なんてない。ただ、私がそうしたいだけ」




黒塚は微笑みながら、風に吹かれる髪をかき上げた。その表情はどこか満足げだった。座白は苦笑しつつも、彼女の言葉を否定する気にはなれなかった。

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