第二話-4
夕方になって、スチュワート兄妹は冬雪と幽灘と別れ帰宅した。冬雪たちもそれからほどなくして家路についたが、その頃にはクリスの視線は消えていた。本当に監視が目的なら、今は魔道具屋の近辺にいるだろう。だが冬雪たちが魔道具屋に戻っても、周囲に大天使の気配はなかった。
(やはり、監視が目的ではないな)
監視するのであれば、自宅にいる今こそ目を離すべきではない。隠れて何かをするのに最も適した場所であり、視界を遮る障害物が非常に多い場所だ。極端な話、ここでギルキリア市を一瞬でクレーターに変える魔法を研究することも、冬雪にはできるのだ。そんな場所を監視から外すなど、ありえないことである。
ということは、クリスは現在別の何かを行っているはずだ。冬雪は、翌日魔道具屋を訪れた零火に、第一世界空間での情報を求めた。
「日本に、大天使が来た可能性はあるか?」
「大天使、ですか?」
零火の知る大天使は、二人しかいない。一人は、冬雪が細川だったときの傍付きの大天使、ラザム。彼女は細川の転生によって傍付きの役目が終わり、現在は《禁忌》のいる空間にいるはずだ。冬雪にも所在は正確には分からない。
零火の知る大天使のうちもう一人の方は、対照的にかなり所在がはっきりしていた。細川の転生に伴い、魔力使用者の枠は一つ空席になった。現在その席にいるのは
「少なくとも私は、リーファちゃん以外の大天使が日本に来たという話は聞いていませんね。知らないだけかもしれませんが」
「そうか。
冬雪は、幽灘やスチュワート兄妹と一緒になって公園の芝生に生えている花を採集しているクリスを指して尋ねた。冬雪が誘導した結果ではない。前日と同じように幽灘をスチュワート兄妹と遊ばせていたところ、クリスが自然な流れでその輪に加わっていたのだ。あまりにも自然すぎて、冬雪ですら違和感を覚えるのが遅れたほどだった。
しかし、零火はクリスの姿を実際に見ても、首を横に振った。
「すみません、見覚えもないですね」
「それならそれでもいい。
「何者なんです、彼女?」
「つい昨日接触した大天使だ。天使名はクリーシスだが、普段はクリスティーネ・クルーザ、通称クリスと名乗っているらしい。一応覚えておいてくれ」
「了解です。クリスティーネ・クルーザ、天使名クリーシス。耳にすれば反応できるはずです」
「優秀だな、『
『姫風』は零火のコードネームだ。三等工作員『呪風』の協力者であることを示すため、特別情報庁に届け出ている。
冬雪も魔力使用者時代に岩倉の協力者をしていたことがあるが、その当時は『
零火が帰った後、冬雪はクリスが共和国に現れた目的を探るため、契約精霊をギルキリア市内に放った。精霊との親和性を高めた彼は、精霊たちの視界を見ることができる。これにより、疑似的な千里眼や透視のような能力を扱うことができ、一時期は常に精霊を周囲に配置することで死角を限りなく減らす生活をしていたこともある。転生前の話だが。
やがて市内に放った精霊の一部が、ギルキリア市中央区の路地でクリスを発見した。クリスにはまだ精霊の存在は気付かれていない。ただし彼女は一七歳前後相当の少女の姿ではなく、身長七五ペラレイア程度の大きさの身体──天使本来の姿になって地面を観察していた。
主コメ
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次の更新予定
魔道具屋になりたかったスパイの報告 春井涼(中口徹) @ryoharui
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