第44話 喜びは不安に盗まれた
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【誕生日】3Dでお祝い★ゲストたくさん!!!★一夜限りの夢をみせてあげる!#リオン配信 #リオン肖像画 #ハルカなる三期生
お呼びしているゲストもたくさんいます!ぜひ、最後まで応援してね。さらに、私のズッ友のさきねぇが、3D化して登場します!お楽しみに
蔵屋敷リオン【ハルカなる三期生】
1,2万人が視聴中 0分前に配信開始
チャンネル登録者89,7万
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「あ、みなさん、聞こえますか~!?」
配信が始まり、すでに1万人を超える人々が画面の前に集結していた。それは、蔵屋敷リオンのリスナーたち、Vライバー事務所【ハルカなる】の箱推しの人々、そして、佐紀音の3D化を楽しみにしていたリスナーたちが待ち望んだ【蔵屋敷リオン4周年記念3Dライブ】である。
3D配信用の広いスタジオで、声を張ったリオン。画面越しに、リスナーたちは、コメント欄にて歓喜の声を上げた。
【4周年おめでと~】
【聞こえてまーす】
【きたあああああああああああ】
【¥8,000:4周年おめでとう、リオン様!今日という日を一緒に迎えることができて本当に嬉しく思います】
【¥20,000:4周年おめ!! 今年もお祝い出来て本当に嬉しいです!リオン様にとって素敵な1年になりますように!これからもずっとずっと大好きです】
【¥6,500:4周年おめでとー!これからも、楽しい配信、応援してます!】
さっそく、彼女の活動4周年を祝うスーパーチャットが飛び交った。
さらに、同じ事務所所属のライバーたちが続々と3Dで登場して、彼女の記念日を祝った。
「リオン、おめでとう」
「リオンちゃん、おめでとーーーずっと大好きーーーー」
「リオンちゃーん、4周年、おめでとう~」
ステージに登場した、同期(三期生)の三人からも祝福の言葉を贈られたリオンは、金髪のツインテールを揺らしながら「ありがとー!!」と、満面の笑みをこぼした。同期の彼らは、同じ時期に事務所からのVライバーデビューを果たしたが、日付が微妙に違うのだ。
その後は、ゲストとして配信に登場したライバーたちとゲームをしたり、歌を歌ったりして、配信を盛り上げた。
――ステージの裏で、佐紀音は待機しながら、泣きそうになっていた。
「さ、佐紀音さん、大丈夫ですか……」
裏方のスタッフに心配されてしまった。
「……大丈夫です。むしろ、嬉しすぎて、泣いてるんです」
「なるほど。佐紀音さん、リオンさんと長いお付き合いですもんね。たしか、デビュー当初からコラボしてましたよね」
「そ、そうなんですよ……もう4年になりますね」
嘘だ。
リオンの記念日を無事に迎えられて嬉しいのは、事実だが、それで涙を隠しているのではない。
本当は、心の内側で「俊也に会いたい」という切実な思いと、「もう俊也に会えないかもしれない」という不安が、指数関数的に膨れ上がっていたのだ。
本来、鏡というのは、目の前のものを反射して映し出すもの。決して、別世界の存在を映したりするものではないのだ。
そう考えると、ただ単に「日常」が戻ってきただけなのかもしれない。俊也が、ある日の朝、鏡の向こうからやってくるよりも前の日々に、戻ったのだ。
――けれど、俊也が居ないのは、悔しい。悲しい。寂しい。
部屋が片付いてきれいになったのも、タバコを止めることができたのも、最近のチャンネルの急成長も、Vライバーとしての作業を分担できたのも、いろいろな配信のジャンルに挑戦できたのも、【あたりまえ】の日々を大切にしようと思えたのも、旅行に行って楽しく休暇を取ることができたのも……
全部、彼のおかげだったのだ。
「あ……」
持ち物をしまっておいたカバンを撫でていると、それを見つけた。
――ぐんまちゃんのストラップだ。
草津に、彼とケンジと行ったときの、お土産みたいなものだ。
俊也の姿を見られなくなった今、彼と私が、確かに交友を持った【証】としての意味を持っている。
「俊也みたいに、私もなりたいよ……」
そのストラップを握りしめて、思う。
俊也みたいに、常に冷静でいることができれば、こんなことで不安になって、泣かないのに……
俊也みたいに、深い悲しみを乗り越えられる心の強さを持っていたら、未来が過度に不安になったり、将来を心配しないで済むのにな……
俊也みたいに、物事をより客観的に見ることができたら、Vライバーとして、もっと成長できていたかもしれないのに……
俊也みたいに、自分のことがしっかりできる人だったら、整理整頓ができて、自分の部屋をゴミ溜めになんかしないし、タバコだって吸わなかったのに……
俊也みたいに、音楽の才能に長けていたら、Vライバーを続けられなくなっても、その才能で食い扶持を確保でいるだろうに……
俊也みたいに、資格をたくさん持っていて勉強熱心だったら、何事にも恐れる必要はなかったのに……
俊也みたいに……
俊也みたいに……
もう一人の私みたいに……
「佐紀音さん、そろそろ準備、よろしくお願いします」
「あ、はい……」
裏方をしているスタッフに呼ばれて、佐紀音はハッとした。いつのまにか、彼の意識に溺れるところだった。
「ふー」と息を整えて、背筋をぴんと伸ばす。
いよいよ、3Dのお披露目の時間だ。
「リオンちゃーーーーん!!」
心を偽って、カメリア・佐紀音は、黄色い声で、友の名前を叫んだ。
「お、その声は……わたしのズッ友の……!!」
鬱屈とした重い気分を心の底に押し込んだ佐紀音は、リオンが3Dで配信をしているステージに、ひょっこりと登場した。
リオンとの3D配信の途中、また泣いてしまったのだが「嬉しすぎて」と、また嘘を重ねた。
3Dコラボは、傍から見れば、大成功に終わった。
けれど、佐紀音の心は、黒く、淀んでいた。
次の更新予定
鏡を通り抜ける力に目覚めた俺は、もう一つの世界の【私】と大人気Vライバーになる! 猫舌サツキ★ @NekoZita08182
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