第26話 美声とメロディー踊る舞踏会【歌枠】

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【重大告知アリ!】【歌枠】金曜の夜はみんなではっちゃけよう!!#さきねぇ配信中 #歌枠


 歌を歌います。ウチと俊也が好きなアニソンとボカロ中心!重大告知も、お見逃しなく!


 カメリア・佐紀音  

 4403人が視聴中 0分前に配信開始

 チャンネル登録者72.1万


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 夕飯時、「佐紀音チャンネル」にて、配信が始まった。


「あーあー、こんばんわ~さきねぇです」

「こんばんわ。みんなの俊ちゃんでーす」


 いつものように、佐紀音チャンネルでの配信が始まる。彼女のデスクトップパソコンから伸びるマイクの配線は、化粧台の鏡を越えて、俊也の部屋にも繋がっていて、そこから彼の声が届けられた。

 

 二人のマイクは、通常の配信の設定ではなく、少しエコーの入った、ライブ会場のような音響になっていた。


【こん】


【こんさきねぇ~】


【俊也もこん!】


【歌久しぶり】


【さきねぇ手振って】


 佐紀音は、リスナーの要望に応えて両手を振った。配信画面上の佐紀音も、パソコンの前のゲーミングチェアに座る【女ツバキ】も。



 最近、ケンジや俊也、さらに、Vライバーに関する技術に精通した、外部の有識者の協力のもと、画面上で手を振ることができるようになったのだ。


「見てー、ほんとに手振れるようになったの。すごいでしょ~」


 これでもかと、左右に手を振る佐紀音。・・・乾布摩擦みたいで、ちょっと面白い。



【すご!】


【さきねぇが手振ってる!】


【かわいい】


【かわよ】


【俊也もやって】



 未だにイラストは動かず、音声のみの俊也に【俊也もやって】という無茶振りをされて「俺を動かずために時間とお金をかけてる暇がない」と言っておいた。


「今日は、歌枠でーす!半年ぶりぐらいじゃない?俊也は、歌枠初めてだもんね」

「うむ」


 佐紀音は、瞳をコメント欄の方向へちらっと向けた。


【俊也は歌うの?】


【俊ちゃんの歌も聴きたいな♪】


「俊也、歌ってほしいって、リスナーから要望が来てるよ」

「俺、音痴だよ。それでもよければ」


 俊也は、少し奥手になりながらも、佐紀音に続いて、歌うのであった。




 佐紀音は、まず、アニソンを攻めた。




 ワンピース主題歌【ウィーアー!】


 鬼滅の刃主題歌【紅蓮華】


 天気の子【愛にできることはまだあるかい】


 邪神ちゃんドロップキック【あの娘にドロップキック】


 推しの子【アイドル】


 らき☆すた【もってけ!セーラーふく】


 キルラキル【シリウス】



 などなど……彼女の好きなアニメ曲が熱唱された。


 普段の声とはちょっと違う透き通った声が、リスナーたちを魅了した。



 佐紀音に続くように、俊也も満を持して、マイクを寄せた。



 オーバーロード【HOLLOW HUNGER】


 ベルセルク【Forces】


 BEASTARS【怪物】


 カゲロウプロジェクト【Outer Science】


 物語シリーズ【UNDEAD】



 などなど……彼が、耳にタコをつくるぐらい、繰り返し聴いた曲が歌われた。


 佐紀音と比較してダークな曲調で、かつ、俊也の低い歌声が調和して、リスナーたちを歓喜させた。



【さきねぇ清楚( *´艸`)】


【鬼滅きたああああ】


【お前も歌い手にならないか?俊也】


【さきねぇと俊也で、前前前世、歌ってほしい】


神衣鮮血かむいせんけつッッッッッ!!!!】


【かわいい】


【俊也うま】


【俊也歌うますぎ】


【らきすた……だと……古のヲタク、絶滅したんじゃ……】


【貧乳はステータスだ!】


【I will continue to support you, Sakine XD】


【俊也上手いじゃん】


【二人ともYOASOBI聞いてるのエモい】


【さきねぇの選曲神ってる】


【俊ちゃん馬の骨?】


【アウターサイエンスなつかしいww】



 佐紀音が幼女戦記【Los! Los! Los!】を熱唱すれば、俊也がガールズ&パンツァー【雪の進軍】で反撃する。


 今度は、俊也が【千本桜】を歌いきって、佐紀音が【グッバイ宣言】をクールに歌う。



 かと思えば、【チューリングラブ】や【うっせぇわ】を一緒に歌って共闘する。


 まるで、歌声という武器を交えた紅白歌合戦。互いの熱が画面を越えて、リスナーたちへと波及して、すべてが一心同体となって、配信に盛況の熱をもたらす。



 同時接続数は、ゆうに3万を超えた。


 主に、ネットで流行した音楽とアニソンが主となった歌配信も、いよいよ佳境。リスナーお待ちかねの、重大発表のお時間がやってきた。



「さて、俊也の喉も限界に近づいてるんで、ここらで重大発表しましょうかね」


【さきねぇ結婚報告!?】【俊也クビ】【いよいよ3D化ですか?】など、さまざまな憶測が飛び交うコメント欄に「どれも違う!当ててみなよ」と、佐紀音が喝を入れた。


 その時、【オリ曲?】というたった一つのコメントが流れた。


「サブマルさん正解!!」という、コメントを読み上げる佐紀音の声がキンと響いた。



「今宵、歌をウチと俊也が。作詞作曲を俊也が。MVをケンジが作ったオリ曲を発表します!!というか、この場で二人で歌います!!」

「わー、ぱちぱち。みんなも拍手」


 佐紀音の発表と、俊也の乾いた拍手の音に、リスナーは、様々反応を見せた。画面には、曲のMVのサムネイルである「ツバキの花」が映し出されている。



【オリ曲!?】


【MVケンジさんだって】


【俊也音楽も作れるのかよ】


【俊也なんでもできるじゃん】


【俊ちゃんも歌うの!?】


【同接3万超えてる】


【俊也万能すぎる】


【ケンジさんのMV楽しみ】


【同接4万超えた!!】



「準備、大丈夫?」


 佐紀音は、鏡の向こうに控えている俊也に振り向いた。照明の光によって、彼女の黒い瞳がダイアモンドのように輝いた。



「大丈夫。緊張ヤバイけど」

「ふふ、ウチも、緊張で心臓が破れそう」


 俊也は、彼女と視線を交えて、浅く頷いた。……正直、大学の入学試験よりも緊張している。


 いよいよ、佐紀音と俊也とケンジとの努力の結晶たるオリジナル曲の発表だ。



 佐紀音は、ふーっと、深く息を吸って、自らの胸の内に飼っている心臓の高鳴りと、不安のざわめきとを鎮めた。【がんばれ!】という、リスナーからの応援の一言が、燃料のようになって、彼女のやる気と集中力に火をつけた。


 一方、俊也は、ふーーーーと、長く息を吐いて、すました顔をした。曲の中に登場する【青年】に、完全に憑依したのだった。音楽は、歌は、心で奏でるものだ。


「それでは、聴いてください。4曲目のオリジナル曲の題名は、『カメリア』です」



 俊也が「3,2,1……」とカウントダウンして、曲の音源と、ケンジ作のMVの再生を始めた。


 メルヘンチックなイントロが流れ始めた。



――佐紀音のズッ友のリオンは、夕飯用に買ってきたアジフライを食べながら、液晶タブレットを立てて、二人の歌枠配信を視聴していた。


――イラストの依頼の仕事の手を休めて、ケンジも、配信の画面に張り付いて、佐紀音のオリ曲発表の行方を見守っていた。


――めずらしく、佐紀音の母と父も、階下で、スマホからライブ配信を見ていた。



 そんなことは、佐紀音も俊也も、知らなかった。


――――――――


『カメリア』


歌 佐紀音、俊也


作詞作曲 俊也


イラスト、動画 ケンジ



*イントロ



 理想郷ユートピアの扉が開く イチゴのショートケーキも待っている


 地獄の扉が開かれる 晩餐題目【不幸の共食い】


 かわいく愛らしい一人の少女と


 孤独で寂しい独りの青年に


 カメリアの花が歓迎のうたを叫んだ



*少女(佐紀音)パート



 草木をかき分け たどりついたお菓子の家 


 ここには 魔女も赤ずきんも不思議のアリスもいる


 今日はどんな楽しいことをしようかな



 みんなを連れて走る


 きれいな きれいな お花畑が見えてきたよ




*青年(俊也)パート



 地を這いずり 辿り着いた修羅の門 


 そこには 蛇も狼も鬼竜ジャバウォックもいる


 狂乱の行進のラッパの音はウンザリだ



 「蜘蛛の糸」を求めて走る


 静かに 静かに 黒い影の手が迫っているよ



*狂乱(2人)パート



 ああー!! なんで壊してしまうの 私はまだ心躍る夢から覚めたくないの


 大きなベットと かわいく愛らしいぬいぐるみたちは いずこへ旅立ったの?


 嗚呼、    なぜ虚しいのか    俺はすでに破滅の彗星を描いてしまった


 踊るビル群と  共感思想過剰摂取オーバードーズポスターは  夢の河のはるか向こう



 私は 俺は 威光の城のあるじあなたが羨ましい



 精神ソウルの鏡で覗き見た したたる憂い血 夕日の赤


 銀河鉄道から見下ろした    燃える金の「美し」 薔薇の花



 カメリアの花は語る 「己を顧みよ」

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