第22話 年越し人生ゲーム1
年の瀬も年の瀬。一年を締めくくる
年越しが迫った夜に、4人の通話が繋がった。
「じゃあ、配信はじめまーす」
佐紀音が、配信開始のボタンをクリックした。時計の時刻は、ちょうど午後11時を指し示している。
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【人生ゲーム】年越しを、仲良し4人で!!佐紀音、俊也、リオン、健二 #さきねぇ配信中 #リオン肖像画 #ハルカなる
カメリア・佐紀音
7234人が視聴中 0分前に配信開始
チャンネル登録者68.8万
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配信画面の左側には、すごろくの盤面が広がるゲーム画面が。右端には、4人の姿が映し出されている。
上から順に、2DのVライバー姿の佐紀音、黒髪青年風の俊也(イラストは、ケンジが描いたもの)、インカメラで胸元のみを映すリオン、同じくインカメラで顔までを映す白髪のケンジである。
【きたあああああああ】
【リオン様公式配信お疲れ様】
【きた】
【この時を待っていた】
【¥12,000:ちょっとお早いお年玉です】
【¥6,000:推し四人が集まるの幸せ過ぎる】
【リオン様とケンジさん実写!?】
「今日は、ウチの仲良し三人に来てもらいました~」
佐紀音の声を皮切りに、立ち絵の並ぶ降順で、それぞれ各人が自己紹介を始めた。
配信前に、4人揃って、簡単な打ち合わせをしておいたから、みな、手際が良い。
「はい、こんばんわ~いつものウチ、カメリア・佐紀音だよ~」
佐紀音は、Vライバーの体を左右にふりふりと振った。
「あ、どうも。佐紀音の双子の弟、俊也です。いつもうるさい姉がお世話になってます」
俊也は、カメラをつけていないが、画面に向かって、右手を振っていた。
「こんばんわー♪さきねぇのズッ友でもあり、【ハルカなる】三期生のVライバーでもある、蔵屋敷リオンでーす。年越しまで、寝かせないぞ♥」
リオンは、自らの豊かな胸の前で、紫色のネイルが輝く両手を振った。
「……当チャンネルの主である佐紀音さんの立ち絵を描かせていただきました、イラストレーターの
ケンジは、律儀に、深々と一礼した。
今日は、大みそかということもあって、多くの視聴者が集まっていた。佐紀音、リオンのファン、Vライバー事務所【ハルカなる】の箱推しファン、俊也推しの女性ファン、ケンジが関わってきた人々のファンに、配信を見かけてやってきた一般のユーザーなどなど……
【リオン様エッッッッッッッッッッ///】
【デカい】
【リオン様でっか】
【俊ちゃんの立ち絵は動かないの?】
【¥50,000:さきねぇも豊胸して素敵な女性になりましょ】
【やば】
【上限赤スパきたああ】
【ナイス赤スパ】
【豊胸ニキ自重して】
【¥1,200:ケンジさん笑ってー!!】
【すごい4人が集まったものだ】
【¥6,500:配信初見です。美男美女ばっかりですね。人生ゲームも楽しみです。今年もお疲れ様でした】
【ケンジさん68歳に見えない】
【ケンジさんイケメンすぎる】
佐紀音は、5万円という膨大な金額のスパチャを送ってきたリスナーに対して、開口「きもい」と言いながらも「スパチャ、ありがとうございまーす」と感謝を伝えた。
俊也は、堪えられなかった笑いをクスクスとこぼして、リオンは白いセーター越しに自らの胸を持ち上げて「おっきいかな?」と言い、ケンジは、あらゆる歓喜と称賛を受けてもなお、凛とした、すまし顔であった。
「ほらほら、さきねぇのリスナーちゃんたちは、私のおっぺぇに夢中だぞ~」
「ねぇ、リオンんん!!ウチのリスナー取らないでぇぇ!!」
「さきねぇリスナー、今夜は私と、どう?♡」
「やめろおおおお、ウチのファンを寝取るなぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、ケンジさん、初めまして。俊也と申します。よろしくです」
「こちらこそ、よろしくお願いします、俊也さん。お姉さんとは対照的に、非常に落ち着いていますね」
「ははは……いつも姉には、振り回されてばっかりです」
「実は、わたくしも兄弟がおりまして……」
「え、そうなんですか?」
佐紀音とリオンは、いつもの調子で楽し気に絡み合い、そんな二人の喧噪の隣で、ケンジと俊也の【大人組】が、ちょっとした挨拶と雑談をした。
まだ、配信開始の挨拶をしただけであるが、視聴者数は、すでに2.7万人を超えており、SNSトレンドには【さきねぇ】や【人生ゲーム】、【イケおじ】などのワードが次々とランクインを果たした。
ひしめき合うリスナーと、佐紀音ファン、俊也ファン、ケンジファン、リオンファンが群雄割拠する配信画面に、【ケンジさんの後ろにあるやつって……】というコメントが上がった。
佐紀音がそれを読み上げると、ケンジは「ああ、これですか」と言いながら、背後の棚に置かれていた人型のフィギュアを手に取って、カメラの前に示した。
「あ、それって……」
リオンが勘づいた通りであった。佐紀音も「あ!」と声を上げて、気が付いたようだ。
赤いツインテールが躍る、アイドル衣装を身にまとった少女のフィギュアは、3周年記念ライブの際に販売された、カメリア・佐紀音の1/6スケールのフィギュアだった。
「ケンジ、ウチのフィギュア買ってくれたんだ」
「そりゃ、佐紀音さんは、わたしの大切な娘のような存在ですから。ほら、アクリルスタンドもありますよ」
ケンジは、背後の棚からさらに【さきねぇグッズ】を持ってきた。
【わたしの大切な娘のような存在】という言葉に、俊也も、リオンも、リスナー一同も、和やかな雰囲気を共有した。ケンジは、イラストを担当した身として、佐紀音のことをかなり大切に想っているようだ。
当の佐紀音は、首もとを掻いて「えへへ」と笑っていた。
「このフィギュアも、アクリルスタンドも、わたしがデザインしたものです。かわいらしいでしょう?」
ケンジは、アクリルスタンドとフィギュアを、カメラに、より近づけて見せてくれた。
【かわいい】
【きゃわわ】
【かわいい】
【ケンジさんもさきねぇリスナーの一人なのか】
【スカートの中みせてください】
【やめなさいwww】
【おいくら万円?】
【今売ってるのか?】
佐紀音は、コメント欄の好評ぶりを確認して、思い出したかのように、こう言った。
「今は、インターネット販売も受け付けているので、概要欄のURLから専用サイトに飛んで、買ってね~」
仕事としてVライバーをしている佐紀音は、販促も欠かさない。
……彼女の販促からわずか30秒ほどで、注文過多が起こって在庫切れが発生したことを、ここにいる4人は、知る由もなかった。
その後は、ケンジの持っている【さきねぇグッズ】の話で盛り上がった。
配信の全体のタイムキーパーを任せられている俊也の「そろそろゲームを始めないと、朝が来るよ」という言葉によって、ようやく人生ゲームのスタートボタンが押された。
「よーし、来年の副女は、ウチなんだから!絶対に一番お金持ちになってやる!」
「お金持ちは、必ずしも幸せ者とイコールではないことを俺が証明する」
「どんな人と結婚しようかな~やっぱ、イケメンかな?それともお金持ちかな?職業は、アイドルやりたいな♪」
「お手柔らかに、どうぞ、よろしくお願いいたします」
年を締めくくる、最後の配信の熱い戦い(人生ゲーム)が幕を開けた。
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https://kakuyomu.jp/users/NekoZita08182/news/16818093090746907327
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