第12話 思い出の日

 誕生日配信は、日をまたぐ午前0時まで続いた。


 凸待ち配信の後には、再び俊也が配信に登場。佐紀音と、罰ゲームを賭けたゲーム対決が行われた。


 ちなみに、バツゲームの内容は、【来週末のASMR配信で恥ずかしいことを言う】だ。


「ほらほら、どうした俊也~」

「うぐ……罰ゲームは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」



 気持ちは強いが、ゲームプレイには、それが反映されない。


 佐紀音は、配信活動を通して様々なゲームを経験してきたから、あらゆるジャンルのゲームに長けていた。



 FPS、サッカー、ボーリング、ビリヤード、ババ抜き、ポーカー、すごろく……そういったゲームで、俊也は、軒並み敗北した。


 勝てたのは、将棋と、リズムゲームと、声真似ゲームだけだった。



【俊也かわいそうww】


【罰ゲーム確定か】


【佐紀音が強すぎるだけじゃ?】



 ということで、俊也の罰ゲームが確定して、企画は幕を下ろした。



 その後は、佐紀音のソロでの、新衣装発表。


「じゃーん。今度の衣装は、日常お出かけ風でーす!」



 佐紀音の新衣装の白いTシャツには『ニート上等』の文字が描かれていた。その上に羽織っている、着脱可能な黒いパーカーのフードには、猫耳の飾りが付いている。膝丈のスカートもまた黒色をしており、全体的に黒色の要素が多い衣装だった。


 リアルの【女ツバキ】の好みが反映されている衣装だったという印象。


「描いてくださったのは、もちろん、ウチのお父さんであるケンジでーす」



【かわいいいいいいい】

 

【¥50,000:新衣装可愛すぎる】


【これでASMRしてくれるのか最高だな】


【かわいい】


【俊也くんの衣装はありますか?】



 コメント欄は、歓喜の声とスパチャの虹色に輝いた。配信枠への同時接続数は、これまでで最多の6.2万人。東京ドームの収容人数を超える人数が終結している。


 さらに、統計データを示しているモニターは、配信サイト内の急上昇ランキング9位にランクインしたことを知らせている。コメントでも『急上昇9位はいった!』というコメントが散見された。



……俺の衣装?そもそも俺は、左紀音の双子の弟というだけで、Vライバーじゃないぞ。



 そんな感じで、誕生日記念配信は、大盛況の熱が冷めやらぬまま、終幕を迎えた。


 配信終了のボタンがクリックされると、閉幕を告げていたBGMが沈黙して、部屋に静寂が戻ってきた。


 腕をぐっと伸ばした佐紀音、改め、女ツバキは、さっそく、今回の配信の統計をチェックした。



「すごい、スパチャだけで60万超えてる」


 統計データのグラフを凝視する女ツバキは、ゲーミングチェアの背もたれに飛びのいた。そりゃ、60万もの収益が確定していれば、心踊るに決まっている。


 俊也も、モニターに映し出されている収益分析の結果のデータ数値を見せてもらって「え、やば……」と、絶句した。



 同時接続数、スパチャ、メンバーシップ収益、広告掲載、有料スタンプと、持続視聴可能性から総合して、この誕生日を祝う配信だけで、100万の収益が最終的にあがりそうなことを、データは示している。


「リスナーさんから貰ったお金で、何かしたいことないの?」


 彼女は、この収益を、如何にして使うのだろうか。


「んー……新しい機器を買うための貯金して、お母さんに生活費と家のローン分あげて、あとは、おいしいケーキを買って食べたり、旅行とか行きたいなーって考えてる」



 その回答を受け取った俊也――改め、男ツバキは、胸の内に温かさを覚えた。これだけの収益があっても、女ツバキは、謙虚で素朴な感覚を忘れていないことに、安堵を覚えたのかもしれない。


 それぐらいのお金があれば、はっちゃけて散財することもできるのに、そうしようとしない女ツバキに、かなり、好感が持てた。


 彼女は、本当に【配信】という仕事が好きなんだなと、つくづく思う。



「とりあえず、お疲れ様」

「ん。ありがとう」

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