大人気Vライバーへ二人三脚
第9話 誕生日配信①
二人のツバキが仲直りを果たしてからは、Vライバー生活が波に乗り始めた。
男ツバキは、鏡の向こうの世界で過ごす時間が増えていった。
こちらの世界のほうが、居心地いい。
女ツバキのトーク力と臨機応変さ、男ツバキの企画立案力とマネジメント能力、情報処理能力は、相乗効果を奏で、Vライバー【カメリア佐紀音】の活動を彩った。
「明日、ウチら誕生日じゃん」
「ああ。二十歳になるな」
二人のツバキは、女ツバキ側の世界の部屋にて、ゴロゴロしていた。
男ツバキは、首元にクッションを当てて床に寝そべり、女ツバキは、ベットの上で毛布にくるまって、スマホをいじっている。
「誕生日の特別な配信するつもりなんだけど、なんか案ある?」
女ツバキのスマホから、SNSの更新音が鳴った。
「去年の誕生日は、何やったの?」
「視聴者参加型でゲームやって、ウチが負けたら罰ゲームで、後日激辛ラーメン食べる」
けっこうあるあるの配信内容だ。
「じゃあ、俺とお前で『リスナーから届いた質問何でも答えます』配信とかは?」
「あ~……あり」
ベットに横になったままの女ツバキは、二つ返事で、思い付きの案の採用を決定した。
「リスナーからの質問に答えて、凸待ち企画して、ウチとあんたでゲームして、新衣装のお披露目でどう?いい感じじゃない?」
「あ、新しい衣装、描いてもらったんだ」
「ウチのほうから、絵師さんにお願いして、先月、描いて貰ったの」
どうやら【カメリア・佐紀音】の新しい衣装がすでに準備されているらしい。「見る?」と聞きながら、女ツバキは、ベットから「よっこらしょ」と起き上がって、配信用のパソコンを起動した。
【カメリア・佐紀音】のイラストを担当している人とのメールのやり取りの中にある、衣装の下書きを見せてもらった。
「これ、俺に見せて大丈夫なやつ?」
「うん。当日の誕生日配信に参加する人だけなら、見せて大丈夫って言われてる」
「俺、明日、ちゃんと喋れるかなぁ……」
「大丈夫でしょ。初めて配信出たときも、コメント盛り上がってたし。あんたの好きなように喋ってくれるだけでいいよ」
当日の責任感の重さに呻きながら、イラストを見せてもらった。
赤のツインテールに飾る黒いリボンに目を惹かれる、ドレスのような黒い衣装だ。ロココ調っぽく、また地雷系ファッションにも似た丈の長いスカートも特徴的だった。佐紀音の右目には、これまた黒い眼帯がつけられている。
――女ツバキは、こういう衣装が好みなのか。
「ウチがどんな衣装にしたいかっていうアイデアのメモを送って描いてもらったやつなんだけど、どう?かわいいでしょ」
「いえす」
やっぱり、性別が違う自分なだけあって、女ツバキとは、趣味が合いそうだ。
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【誕生日配信】20回目の誕生日だああああああ!!#さき絵 #さきねぇ配信中
ゲスト多数!凸待ち企画もあります
カメリア・佐紀音
6036人が待機中
チャンネル登録者57.2万
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動画配信サイト上に設けられた【カメリア・佐紀音】の配信枠には、開始10分前で、すでに6000人のリスナーが待機していた。
【おめ】
【さきねぇおめ!】
【大人の仲間入りだね】
【wktk】
【¥6,000:これで好きなもの買ってください】
コメントも川の如く流れており、スパチャが踊り、佐紀音の登場への期待の高さが伺える。
「ふぅ……やるか」
パソコンの前で深呼吸をした女ツバキ――改め、佐紀音。
腕をぐーっと頭の上に伸ばして、ゲーミングチェアに深く腰を預ける。手元のデスクには、イチゴ味ののど飴と、1.5Lのコーラの入ったペットボトルとグラスを添えて。
彼女の隣の木の椅子で待機する男ツバキ――改め、俊也は、「頑張れー」と、陰ながら声援を送った。
配信開始のボタンがクリックされると、雑談配信でいつも流れている軽快ポップな音楽が流れ始めた。
画面には、女ツバキの左右の首振りに同期して動く、赤髪ツインテールのVライバー【佐紀音】の姿が映し出されている。
「あーあ~音量大丈夫かな~?」
佐紀音の登場を今か今と待ち焦がれていたリスナーたちは、コメント欄にて、感激を叫んだ。
【キタ―(゚∀゚)――】
【こん!!!】
【こんさきね~】
【誕生日おめでとうございまーす!】
【はたちおめ】
画面の下から上へと流れるリスナーたちの歓喜の叫びをまじまじと見つめる佐紀音は、ご満悦であった。
【¥5,000:お祝いケーキ代】
【¥10,000:少ないですが、ご祝儀】
【¥2,400:お誕生日おめでとうございます!これからも配信楽しんでください!】
さらに、少しの間をおいて、コメントが色とりどりに染まった。スーパーチャットの嵐は途切れることを知らず、スタンプやギフトと共に次々と流れ、踊り続けた。
――人気ライバーの誕生日配信は、相変わらず凄いなと、彼女の隣で口をぽかんと開けるばかりの俊也であった。
「わ~スパチャありがとう!めっちゃ来る……読み切れないかも……塩むすびさん、5000円スパチャありがと。『お祝いケーキ代』!ホールのお高いやつ買っちゃおうかな~ケーキの写真、タイムラインのほうにアップしておくね~」
彼女は、律儀に、スーパーチャットを送ってくれたリスナーの名前と貰った金額、コメントの内容を一つ一つ読み上げていている。
彼女のこういう誠実なところが、多くのファンから愛される理由の一つなんだろうなと思った。
「はい、残りのスパチャは、後日の読み上げ配信でゆっくり紹介させてもらうね~じゃあ、早速本題なんだけど……」
佐紀音は、用意していたファイルを開いて、もう一台のモニターに表示した。ファイル名は『質問.docx』。配信前までに、リスナーに対してSNSで募集した質問をまとめたファイルである。
「今日は、誕生日企画を沢山準備してきたよ。まず一つ目は、『NGなし!何でも答えるぞ、質問どんと来い』」
ちなみに、寄せられた質問の総数は、約3200個。流石に、すべてに目を通すことは時間的制約があって不可能だったので、俊也がざっと見てピックアップしたものの中から、さらに厳選したものとなっている。
ファイルにまとめられた質問の中から、さっそく、回答が始まった。
「一つ目、『佐紀音さんのリアルの顔は、美人ですか?』……いきなり凄い質問来たけど、一応ウチ、Vライバーだよ!?」
鋭い質問に対して、それ以上の鋭いツッコミを入れた佐紀音。しかし、今回はNG無しなので、彼女は、臆することなく回答してみせた。
「そりゃ、毎朝洗顔して、保湿して、ヘアアイロンかけたりしてますし、普段からおしゃれに気を遣ってますから、ある程度は、ね」
ぱっちりとした赤の瞳でウィンクした佐紀音も、リアルの女ツバキも、可愛らしいなと、俊也は思った。
すると、彼女が沈黙したので、コメントを読んでいる……かと思えば、こちらにくるっと振り向いた。
「俊也くんは、ウチのこと、どう思いますか?」
「ぁ」
唐突に話を振られたから、小さい声がポップなBGMにかき消されてしまった。
佐紀音の隣に俊也が控えていることを知ったリスナーたちは、これまた歓喜の声を文字で叫んだ。
【俊也!!】
【双子の弟のほうの人】
【双子ってことは、誕生日同じでは?】
【出たわね、実質カレシくん】
【本当に双子の兄?付き合って同棲してる彼氏とかじゃなくて?】
【¥2,000:俊也くんも、お誕生日おめでとう!!】
歓声の過剰摂取で、俊也は「ははは……」という細い笑いで、気恥ずかしさを取り繕った。どうやら、こんな口下手にも、多くのコメントとスパチャを下さるリスナーがいるらしい。
隣の佐紀音は、満月のように丸い目をキラキラとさせながら「可愛いって言って」と言わんばかりの期待の笑みを浮かべていた。
ここは、佐紀音とリスナーたちの期待に応えるとしよう。
「佐紀音の、双子の弟として、断言する――彼女は、美人だ。間違いない。黒い髪は、宵闇のように落ち着いていて、しかし艶があって美しく、髪型は言うまでもなく整っていて美しい……普段から風呂上りに保湿クリームでペシペシ叩かれ磨かれた肌は
独特の言い回しで、隣に座るライバーのリアルを暴露した弟(本当は違う)、俊也。
期待以上の回答を得たコメント欄に集うリスナーたちは、これまでで一番の盛り上がりを見せた。
【ワイ、黒髪美少女ライバーに歓喜】
【さきねぇのリアルが想像できてしまう】
【解説が絶妙にキモイww】
【¥12,000】
【令和の文豪現る】
緊張から、額に汗を被った俊也は去り際、視界の端に映った『令和の文豪現る』というコメントを見て「ふっ」と、吹き出して笑った。
――俺は、芥川先生や三島先生、太宰先生みたいな、本物の先生方には遠く及ばないよ!と思いながら。
「うふふ……ありがとう、俊也。彼は、この後の企画に出てもらう予定だから、待機してもらってます。お楽しみに」
スパチャと笑いの花が咲き乱れる、誕生日配信という宴は、まだまだ続く。
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こんにちわ、作者の猫舌サツキです。
おもしろいと思ったら、ぜひ、★評価や感想をください!創作の励みになります!
では、引き続き、次の話をお楽しみください♪
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