第6話 最強ネクロマンサー、魔王軍の真の目的を知る
僕は魔王様と別れの挨拶を交わしてから、黒騎士さんと一緒に魔王様の塔から出た。帰り際に、メイドのシルフィーさんから「魔王様があんなに楽しそうにしていたのは久しぶりです。やはりネクロマンサー同士何か感じ入るものがあったのでしょうか」と言っていた。
「さぁ、ではとりあえず、君の屋敷まで案内しようか」
「僕の屋敷? そんなものまで用意してくれてるんですか?」
「魔王軍の幹部なのだぞ? もちろん屋敷ぐらい用意しているさ」
「確か…シェフとメイドもついてくるんですよね? あれって本気なんですか?」
「当たり前だ。人間の国ではどうか知らないが、魔王軍では一度した約束はどんなことがあっても守るというのが最低限の礼儀だ。シェフもメイドも腕利きを用意してある。さぁ、ついたぞ。ここが君の屋敷だ」
「これが…!?」
すごい、ちょっとした貴族の屋敷じゃないか。冒険者だったときに借りていたパーティーハウスよりよっぽど立派だ。
「君は独り身だから、あまり広すぎても困るかと思って、このぐらいの広さの屋敷を選ばせてもらったが、手狭になったら言ってくれ」
「いや! もう充分です!! 最高の屋敷です!」
「そうか? まだ中も見てもらってないが…気に入ってくれたならよかった」
「お、お帰りなさい~ほらほら、タマちゃん。ご主人様が帰ってきたよ~」
さきほどの獣人の少女…ミミちゃんだったか。その子が僕たちを迎えてくれた。後ろに少しおどおどした様子で、メイド服を着た獣人の少女がついてきている。
見た感じ、姉妹かな?
「タマは少し臆病な子なのだが。メイドとしての腕は確かだ。炊事、洗濯、どちらも完璧だ。しばらくすれば慣れてくれるさ」
「は、初めまして! わ、わたしはシオン様のメイドとしてお仕えさせていただくタマです!!ネ、ネクロマンサーの主様にお仕えできるなんて、…とっても光栄です」
勇気を振り絞るような感じだな。それにネクロマンサーに仕えることが光栄って…。
「黒騎士さん…ネクロマンサーってこの魔王軍だとどういうイメージなんですか?」
「ネクロマンサーは神聖なクラスで崇拝の対象だよ。代々魔王様をつとめているアンリ様の一族がネクロマンサーだからな、尊い職業とされている」
「はぁ~…場所が違えばそんなにイメージが違うんですね。ネクロマンサーって王国では嫌われ者なんですが」
「ネクロマンサーの価値がわからぬバカが王国には多いのだろう…いや、わかっていながら、冷遇しているのかもしれないな。高位のネクロマンサーになれば、生前そのままに死者を蘇らせる事ができる…偉い人間には生き返らせたい人間よりも、死んだままにしておきたい人間の方が多いものだからな…」
「そんな風に考えたこともなかったです」
「さてと、まずはミミが作ってくれた夕食を食べようか。その後、今後の魔王軍の幹部として、魔王軍の目的を話すとしようか」
「わかりました」
魔王軍の目的…。王国にいたときは人類の滅亡って聞いてたけど、これまでの感じだと、そんな単純じゃなさそうだ。
「すでに、お席を準備してるです!」
「おぉ、楽しみだな…」
僕は屋敷の食卓に、案内された。席に着くと、まずはサーモンと色とりどりの野菜のサラダの前菜から始まって、コーンポタージュ、魚料理、口直しのさっぱりとしたシャーベットの後に、凄く美味しいお肉のステーキが出てきた。
それが終わるとたくさんの果物が入ったパフェ。食後にはとても芳醇な香りのするコーヒーが出てきた。
「凄いな~、まるで大貴族になったみたいだよ。それに、出てきた料理が全部僕の好物で味付けもちょうどよくて、びっくりした! 塩加減から何から、完璧だったよ。黒騎士さんの言ったとおりこんなに美味しいものを食べたのは人生初だよ!」
黒騎士さんのいってたとおり、本当に凄い料理人だったんだな。
「へへ~そうでしょ~私が専属シェフになって嬉しい?」
「そりゃぁ、すごく嬉しいけど…少し残念でもあるかな」
「何? どういうことだ? 何か、問題でもあったか?」
「姉様の料理に文句があるんですか…?」
「いや、料理は本当に凄く美味しかったです。でもだからこそ…こんなに凄い料理人を僕一人が独占して良いのかなって? もっとたくさんの人に楽しんでもらった方がいいんじゃないかな?」
「…ご主人様って変わってるね」
「え? どこが?」
「えぇと…なんていえばいいんだろう」
「シオン殿。あなたのようにみんなに分け与えるべきだという考えは素晴らしい。常人なら、価値あるものは独占したいと思ってしまうものだ」
「そんなものですかね…」
僕は冒険者だったときは毎日忙しくて、ろくに食事をとる時間を与えられていなかった。パーティーでの取り分も低いから、毎日露店で二百エンぐらいのファストフードで空腹をしのでいた。そんな生活を耐え続けていた僕だから、それほど舌にも自信がないし…これだけ腕のある子が僕の専属だなんて、もったいないと思っただけだったんだけど。
「でもびっくりしちゃったよ…残念っいうから、もしかして何か私の料理に問題があるのかと思ったよ」
「姉様、料理に問題があるわけがないですよ。もしもそんな味音痴がいるなら、ご主人様とはいえ死んでもらいます」
「え?」
「ごほん!! シオン殿…」
「はい?」
「タマは色々と複雑な過去があってな、その影響もあって姉を溺愛しているのだ。時々、過激な発言があるかもしれないが、深く気にしないでくれ」
黒騎士さんが僕に小声で耳打ちした。
「わかりました。姉思いなのは良いことですよね。僕も家族は大好きなので気持ちはわかりますよ」
「君は底抜けに優しい男だな。生きていくのに苦労しそうだ。まぁ、これからは魔王軍の幹部、ゆくゆくは…おっとこれは内緒だったか」
「?」
「まぁ、君の将来は安泰だということだ。魔王軍を裏切らない限りはな…」
ひぇ。ちょっと怖い。
「こ、こんなに良くしてもらってますし、よほどのことがないかぎり、裏切るつもりはないですよ!?」
「よほどのことか。よほどのことがあれば裏切ると言うことか…これは魔王様に報告しておかないといけないかもな…」
黒騎士は少しうつむいて思案気味だ。
「基本的には裏切るつもりはほんとにないです! できるだけ!! もしも裏切る時も事前に相談ちゃんとします! お互いが納得する形で裏切れるような形を模索するというか…」
あれ、僕何を言ってるんだ。
「…君は本当に馬鹿正直だな。普通に裏切らないとだけ言えば良いのに。まぁ、君なら大丈夫だろう。君と共に過ごした時間は少しだけだが、とりあえず君が素直ないい子だということはわかったよ。そして、そんな君なら魔王軍の真の目的を知れば、我々の真の仲間となってくれるだろう」
「魔王軍の真の目的ですか。やっぱり人類滅亡…じゃないんですよね?」
「当たり前だ。たしかに王国はとんでもなく腐敗していて、貴族や王族はクズばかりだが、その下で暮らす民は良い人間もいれば、悪い人間もいる。それらを一緒くたにして滅ぼそうなどという愚行を我々はしない」
「それは確かに」
「だが、人間たちはそれをしようとしている。人間は我々魔族を一方的に悪と決めつけ滅ぼし、亜人達は支配し、自分たちの都合のいい奴隷として扱おうとしている。これを止めるのが我々、魔王軍の目的なのだ」
「そうだったんですか…」
まさか、魔王軍がそんな理由で戦っていたなんて、知らなかったな。
「だからこそ、アンリ様の一族は魔王として、亜人や魔族を保護する国を作り、王国と戦っている。アンリ様が負ければ、その時こそ世界は人間の王族という悪魔どもに支配されるだろう! だからこそ我々は戦わなければならないのだ。シオン殿、協力してくれるな」
「そういう理由なら、僕は心置きなく魔王軍の幹部として頑張ろうと思います!」
「そうか…そういってくれると嬉しいぞ」
黒騎士さんが手を差し出した。握手しようってことかな。
「これから、よろしく頼む」
「はい!」
僕と黒騎士さんは固い握手をする。その勢いのまま黒騎士さんがハグしてきた。ちょっと鎧のごつごつ感があるけど、黒騎士さんの熱い気持ちが伝わってきた。
「私もする! ご主人様と仲良くなりたいし!」
「姉様がするなら私も…」
流れでミミとタマともハグをする。二人はふにゅふにゅしてる。ミミとタマはそのまま僕のにおいを嗅ぐように鼻をクンクンする。
「私達ね、匂いを嗅げば、相手がどんな人かわかるんだよ。やっぱりご主人様はとっても優しい人だ。よかったねタマ」
「…良かったです」
そんな和気あいあいとした雰囲気が生まれたなか、チャリーンという音がした。
配達屋「ちわー、配達で~す。魔王様からのお届けものですよ。入口の方においちゃいますね。あ、ハンコはいらないです! またのご利用お待ちしてまーす」
軽いノリで置かれたそれは大きな氷塊だった…。
その氷塊の中には頭に角が生えたとても美しい女の人がいた。
「これは…竜人の英雄レイン様の遺体…! 魔王様ですら復活させることができなかった英雄を…シオン殿に託したというのか!」
…魔王様の贈り物…届いちゃった。
最強ネクロマンサー、Sランクパーティーから追放される ホメコロ助 @baranoyuri
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