僕はヒーロー
Ranan
第1話 僕はヒーロー
晴天下の街中にサイレンが響き渡る。
「異能テロリストだ!」
我先にと逃げる人々。その後ろでは筋骨隆々とした大男が暴れ周り、破壊の限りを尽くしている。
「ヒーローはどこだ!俺と戦え!!!」
大男はそう叫びながら次々と建物を破壊していく。拳だけで建物を破壊する姿はまさに怪物。暴れたいから暴れているような、そんな様子だ。
警察は出動しているが、拳銃程度で大男は止まらない。ヒーローの出動要請は出しているがなかなかやってこない。
逃げ惑う人々の中を、その逆方向に歩く1人の青年がいた。黒ずくめの格好をしたその青年は顔全体を覆うマスクを被り、少し屈むと凄まじい速度で高く跳躍し暴れる大男の前に一飛びで着地した。
「ホッパーだ!」
「やっとヒーローが来たぞ!!!」
人々はその黒い後ろ姿に歓声を上げる。
「皆さん、遅れてすみません。僕が来ました。安心してください。」
ホッパーと呼ばれた青年は大男に向き直る。
「お前が俺を楽しませてくれるヒーローか?随分と遅かったじゃねえか」
「ここまで充分楽しそうだったじゃないか。大人しく降参してお縄につくことをオススメするよ。」
「馬鹿野郎、あんなチンケな留置所じゃ退屈過ぎて死んじまうよ。」
「そうか。なら力ずくで留置所送りだな。」
「できるもんならやってみやがれ!」
大男はホッパーの方へ走り、拳を振り上げる。先程まで建築物を破壊していた拳だ。かするだけでも大怪我では済まないだろう。
「ライジングインパクト」
ホッパーは小さく呟くとそのまま右脚で大男の腹部を蹴り飛ばす。通常であればさほど飛ばないであろう蹴りだが、大男は口から血を吹き出し白目を剥き、10mほど後ろへ飛んで行った。
泡を吹いて気絶する大男の方へ一飛びし、地面に押さえつける。
「制圧完了です。警察の皆さん、あとはお願いします。」
その瞬間、大きな歓声が上がる。
「ありがとう!ヒーロー!」
「かっこよかったぜ!」
「さすがホッパーだ!」
人々は口々に青年への賞賛の声を上げる。ホッパーは観衆の方に少し顔を向けると、すぐに飛び去って行った。
全ての始まりは約40年前。20世紀が終わろうという年。世界中に、後に「異能」と呼ばれる特殊な力を持った子どもが産まれた。人類の約10%が持つこととなった異能。当然突然の出来事に人々は困惑し恐れた。
それから10年もすると異能を利用し犯罪を犯す人間が現れた。世間はそれを「異能テロリスト」と呼んだ。警察でも対処しきれず最大の社会問題となった頃、「オーカイザー」を名乗る男が現れた。彼はヒーローとして異能テロリスト達と戦う異能者を集め、「ヒーロー協会」を発足した。
今も尚前線で戦う英雄オーカイザーとヒーローたちのおかげでこの数年で異能差別は減少しつつある。しかしそれでも異能テロリストの犯罪は後を絶たない。
ヒーローは常に人手不足に悩まされていた。
「新人ヒーロー・ホッパー、またも異能テロリストを一撃で沈める!随分と売れっ子になったな黒川。」
黒川がヒーロー事務所の食堂で昼食を取っていると、同期の蜘蛛川伊都がネットニュースを見せてくる。
蜘蛛川、ヒーロー名「スパイディ」。蜘蛛の糸のような粘着性のある糸を体から出す異能を持つ。目立つ活躍はあまりないが、この一か月の異能テロリストの捕縛数は名だたるヒーローたちを抑えて第三位。ヒーロー協会内では期待の新人の一人となっている。
「当たり前だろ。あいつ腕力を強化する異能に頼り切りで胴体がら空きだったんだぞ。一撃で仕留めれない方がおかしい。」
「カーッ!さすが期待の新人ヒーローホッパー様だぜ!俺じゃ近づくこともままならなかっただろうに。」
「いや、お前もこの前異能テロリスト捕縛してたじゃん。粘糸でぐるぐる巻きにしてさ。制圧数もそんな変わらないんだから張り合うことないだろ」
「馬鹿野郎、俺は粘っこい糸を出す程度の異能だぞ。脚力強化のお前に比べたら絵が地味過ぎて人気出ねーんだよ。俺も女の子にキャーキャー言われてーよ。」
ガシャン。
蜘蛛川の隣に食事の乗ったトレーを少々雑に置く女子。もう1人の同期、朱音メメだ。室内にも関わらずサングラスをかけているが、これはいつもの事だ。
彼女、ヒーロー名「デッドアイ」がサングラスをかけているのは自身の異能に関係する。彼女の異能は【幻覚】。目が合った相手に幻覚を見せることができる。今でこそその力をコントロールできているが、幼いころに両親を廃人にしてしまったトラウマからサングラスが手放せなくなっている。
外での活躍は少ないが、その便利な異能故にベテランの補佐をすることが多く、現場経験は彼女が最も多いと言える。
「失礼。蜘蛛川、あんたでも簡単に女の子にキャーキャー言われる方法あるわよ。」
「お、朱音。なんだよ、教えろよ。」
「全裸で渋谷のスクランブル交差点のど真ん中に立てば良いのよ。ポ〇モンのオープニングばりのキャーが聞けるわよ」
「それ、キャーの意味変わってんじゃん。俺が悪者になっちゃうじゃん。」
「何、ヒーローとしてキャーキャー言われたいの?それなら無理ね。諦めなさい。」
「そんなこと言うなよー!黒川も何か言ってくれよ!」
「......俺たちは目の前の悪を正す。それだけだ。歓声は後から付いてくる。」
「なんだよつれないなー。」
「っていうか黒川も歓声は欲しいのね。意外だわ。」
「そーだよな。黒川って任務をひたすらこなして、オーディエンスに興味無さそうだもんな。」
「……まだ敵を制圧することで精一杯なだけ。歓声にはあまり興味ないな。今は……」
「やあ!!!黒川君!!!蜘蛛川君!!!朱音君!!!」
食堂の入り口から2m超えの大男が大声で名前を呼ぶ。黒川、もといホッパーが制圧した異能テロリストの比にならない程の巨漢だ。筋肉質な身体に似合わないニカッとした笑顔を彼らに向ける。
「うわぁ!オーカイザー!!!お疲れ様です!!!」
「蜘蛛川君、元気がいいね!非常にいい事だ!!!」
「ありがとうございます!!!元気が取り柄なので!!!」
「うむ!ところで、今日は優秀な新人三人に用があって来たのだよ!!!」
「……お疲れ様です、桜花さん。どういった用事でしょうか。」
「相変わらず硬いな黒川君は!っていうかしれっと本名で呼ぶのやめてくれる?」
話しながらつかつかと歩み寄ってきた巨漢はオーカイザー。本名桜花時生。ややダサメのヒーロー名だが、彼こそが世界初のヒーローであり、ヒーロー協会を立ち上げ異能者の社会的地位を底上げした張本人。いわば「生ける伝説」である。
「君たち、込み入った話になる。食事が終わってからでいいから三階の第二小会議室に来なさい。」
僕はヒーロー Ranan @nogi5296
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