第27話心強い味方


シャルロットと共に夜会の計画を立てる。会場に思いを馳せながら、私たちの間に策が巡り始める。



「そうですわね、来年の建国記念の夜会のために考えていた企画を使うのはどうですか」



「それがいいわね。『星が見守る限り、この王国は永遠に輝き続ける』――建国神話をモチーフにした夜会にしましょう」



シャルロットの返答に、私の中で霧が晴れるようにアイデアが鮮明になった。




「予算があまりないのであれば装飾にお金はかけず、提供する料理を華やかにするのはどうでしょうか?」



「そうね、星々をテーマにした料理やデザートは、目を引くわね」



話はさらに膨らむ。



月を模したチーズやクラッカーの盛り合わせ、ガラスドームの中で香りを閉じ込めた料理、透明なゼリーに閉じ込めた星型のフルーツやエディブルフラワー、夜空をイメージしたブルーベリーソースを添えると幻想的な雰囲気に。……。シャルロットと私は一つひとつイメージを描き出す。



「そうなると、庭園のライトアップもしたいところね」


「ランタンなら王家の倉庫に保管されているはずですわ」


「じゃあ、それで決まりね」



熱のこもったやり取りの最中、不意に部屋のドアがノックされる。





「エルミーヌ様、ルーベンス侯爵がお越しです」


やはり来たわね、お父様。

私はため息をつくと、隣のシャルロットを見やる。




「じゃあ、行きましょうか、エルミーヌ」


ん? シャルロットが当然のように立ち上がり、微笑む。



「シャルロットも会うの?」


念のため尋ねると、彼女は悪戯っぽく笑う。




「そうよ。エルミーヌ、娘のエルミーヌに言うのはなんだけど、あの金の亡者が何を言い出すか予想できるでしょう?  迷惑?」




「いいえ、心強いわ」






*****





客室に入ると、あら?公爵様もいるわ。



「おお、エルミーヌ来たか。ずいぶん公爵家には世話になったが、お前の次の婚約者を決めたから、そろそろお暇をしよう」



決めた?



「ずいぶん唐突ですねお父様。私の次の婚約者はどなたです?」



思わず眉をひそめた私に、お父様は得意げに話を続ける。



「ああ、クルーズ伯爵だ。小さい頃よく会っていただろ。そのころからお前のことを気に入っていたそうだ。ははは」



お父様のご友人だったかしら? 幼い頃? 記憶には全くない。気持ち悪いわね…背筋が凍る。




「今度、我が家の領地の支援をしてくださるそうだ。お前の持参金もいらない、身一つで嫁いできてくれて構わないと言ってくれてな。婚約解消された傷物のお前をもらってくださるなんてありがたい話だろ?」



傷物――。その一言が胸に刺さる。けれど顔には出さない。


それに、お父様はありがたいのでしょうけど、私はちっともありがたくはないのですが…



あら? そういえば。




「私の慰謝料が入りましたのに、まだ大きなお金が必要なんて…。我が侯爵家の領地は、そこまで窮地なのですか?」



お父様の表情が一瞬動揺する。




「慰謝料? 何の話だ? まだ王家から連絡は来ていないが…モンフォール公爵、公爵家には支払われたのですか?」



あら? 支払われたから来たのではないようですわね。




「いいや、公爵家には支払われていないし、今後も支払われる予定はない。慰謝料は、我が娘シャルロットとエルミーヌ個人に支払われた。エルミーヌの資金管理は然るべきところに 頼んでいる」



え? 私たち個人? シャルロットを見ると…不敵に笑っている。あら? ご存じでしたのね。



「は? どういうことです? 普通、家に支払われるものでしょう」




お父様の顔が紅潮する。




「ああ、普通はな。だが、私がその様に手続きをした」



「なっ! 勝手なことを!!」



「当然だろう。王宮で苦労し、王太子のせいで傷ついたのは彼女たちだ。その労いの金を、親が使う理由はないと思ったがね? 娘を思う父としては、当然の措置かと思ったが、ルーベンス 侯爵は違うのか?」




「ぐぬ…。エルミーヌ! そのことも含めて、帰って話し合うぞ!!」




お父様は顔を歪め、私に矛先を向ける。


まあ、そう言うでしょうね。




その場の空気が張り詰めるなか、そこにシャルロットの柔らかな声が割り込んだ。




「ルーベンス侯爵様、それは、夜会が終わるまでお待ちいただけませんか?」



公爵様も静かにうなずく。



「ああ、そうだな。娘たちには国王直々に夜会の協力が依頼されている。今、計画が進行中であるから、エルミーヌがいなくなるのは、困るな」



お父様が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、最後に捨て台詞を吐いた。




「‥‥国王の依頼ならば…ぐっ、エルミーヌ。夜会には、クルーズ伯爵も来る。いいか、その時きちん挨拶をさせる。愛想よくしろよ!!」



まあ、言葉が乱れておりましてよ、お父様。はぁ…夜会。一気に気が重くなりましたわ。どうしましょう。




憤慨した父が部屋を出ていくと、シャルロットと公爵様が同時に立ち上がった。




「ねえ、お父様。今後のことでご相談が……」


「ああ、シャルロット。私も全く同じことを思っていたところだ」




二人が悪い笑みをしている。




「エルミーヌ、安心して。あなたを不幸にはさせないわ」


「ああ、私たちに任せろ」




私の親のせいでなんだか申し訳ないのですが…心強い味方がいることに、少しだけ肩の力が抜けた気がしたわ。

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