第31話 一瞬の決着
「わかった約束だ。俺は遠距離攻撃を使用しない」
「いいのか」
俺の言葉にキョトンとなるエステル。
それは、すぐに警戒に変わる。
「一応言っておくが、そんなでたらめを言って、だまそうとしているんじゃないのか?」
「そんなことないよ。契約書、書いてもいいよ」
剣先を、エステルに向けた。戦いの始まり。
エステルの力を、全力で受け止めて戦いたい。
「行くしかありませんね。そうしないと、勝ち目がありませんから」
そうだ、エステルに立つ向かう以外の選択肢はない。
遠距離攻撃が使えない以上、俺がどう来ようと向かってくるしかない。だから来い。
そして、エステルは一度剣先を向けてから、こっちに突っ込んできた。
接近すると、何度も攻撃を仕掛けてくる。攻撃を受けながらエステルの剣術に感心してしまう。
相当実力があるな。
「さあ、私の全力。受けてください」
そう言ってエステルは一気に突っ込んでくる。閃光のような速度で切り下してくる。
下に構えていた剣を振り上げ、跳ねのけた。
すると、跳ね上げたはずのエステルの剣は空中で弧を描き、即座に見えないくらいの速さで切り下してくる。
俺は剣を横に構え防ぐが、次の瞬間にはエステルの攻撃が俺のバッジを狙っていった。慌てて身を引いて交わしたが、エステルは即座に左足を踏み込み、再び切り上げてくる。
途切れなく続く連続攻撃、それもまるで流れるような美しさ。特に、攻撃のつなぎ目がとてもなめらかで、反撃の余地が全くない。
素晴らし太刀筋。これ、剣術に限って言えば今まで戦ってきたやつでもトップクラスだぞ。
不遇な扱いを受けているのが不思議なくらいだ。
「初めて会った時の雰囲気や、構え方からわかってたよ。ただものじゃないって、かなりの実力者だって」
相当鍛錬を積んだんだろうな。たとえ認められなくても、ずっと努力をしてきたんだろうな。その志は、とっても素晴らしいものがあると思う。
「ありがとうございます。では、その剣術であなたを倒して見せます」
「俺も、全力で立ち向かっていくよ」
「遊希様も、相当な実力のようですね、剣を交えてそれはとても理解できます。攻撃しているのに、全く打ち破ることができません。ですがこっちも負けるわけにはいきません。勝つのは、私です。参ります──」
そして、エステルが再び攻勢に出てきた。さっきと同じ様な、流れるような連続攻撃。
俺の胸元に刃が迫ると、即座に後方にステップを踏んで回避。
エステルの攻撃は続き、俺はそれを少しずつ交代しながら受けていく。
エステルは、攻撃的に攻め続けながらも攻めきれないことに戸惑っているのか、表情に迷いが見え始めている。
確かに、俺はエステルにあまり攻撃を仕掛けて行ってない。エステルの剣術を見たりしたかったし、何より彼女の全力を感じたかったから。
そんな俺に対してエステルは──もっと攻めないとと思っているのだろうか、一度ごくりと息をのんでから今までにないくらい強気に攻めてきた。
エステルは手首を返して上から打ち下ろしてくる。
たぶん、こっちが受けきれなくなるまで攻撃が続くんだろうな。
攻撃を受けながら、エステルについて感じる。
剣術にかける想い、実力。駆け引きのうまさ。どれをとっても一級品だと思う。
けれど──負けられない理由があるのはこっちだって同じ。
「これで終わりです」
エステルは勝負を決めようとばかりに連続攻撃を仕掛けてきた。
俺は攻撃を受け、無防備になったバッジめがけて突きを放ってくる。
高い剣術、ここぞというときに前に出ようとする勝負強さ。
流石だと言いたい。けれど、俺はそれを超えていく。
自信をもって言葉を返す。そして剣に触れた瞬間、態勢を思いっきり低くした後、剣先を思いっきり上げた。
そして剣はそのまま円を描くようにして攻撃を受け流し、代わりに俺が一気に前に出た。
「しまった。そんな回避が──」
目の前にはエステルの胴体、そしてバッジ。予想していなかったのか驚くエステル。しかし、前のめりになっているせいでどうすることもできない。
「驚いたでしょ」
そのままエステルのバッジを破壊して、試合終了。強い相手だったけど、何とか勝つことができて良かった。
強かったけど、相手が予想できない行動をとった時の対応がまだまだな感じかな。基礎的な剣術や自分の戦い方などはすごかったけど、実戦での経験が足りない感じかな。
振り返ると、受け身を取り清々しい表情でこっちを向いているエステルの姿があった。
「剣術で真正面からっ戦っていただいて、負けたのは初めてです。完敗です」
俺の方を見て、優しい笑みを向けてくる。
「こちらこそ、本当にすごいと思うよ。また今度、お手合わせが出来るといいな」
「そんな。最後の受け流し、びっくりしました。初めてですよあんなの」
「まあ、俺も数えるほどしかやったことないけどね。うまくいって良かった」
言うほど簡単じゃない。一瞬でもタイミングが狂えば攻撃が直撃し勝負が決まってしまう。
長く鍛え上げられた鍛錬に加え、相手の剣筋を完璧に理解し、極度に集中していなければ失敗してしまうとても繊細な技。
今まで攻撃を受け続けてきたのは、エステルの太刀筋を完璧に理解するため。
そして、エステルと握手。その手は、固くマメができていた。
相当鍛錬を重ねていたというのがわかる。今回は事情の関係で敵になっちゃったけど、どこかで協力して、力を合わせて戦ったりしてみたい。
根はやさしくて、いい人なのだから。
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