第32話 エステルの真実

「これで──全員かな」


「そうかもしれませんね。遊希さんと会う直前には、もう生徒の人はいませんでしたから」


 そして、当初の言葉通りバッジが青色に光る

 Cブロック、バッチが残り4つになった合図だ。

 このバッジ、運営側の魔力がうっすらと込められている。壊れていないバッジが4つになったのだろうか。バッジから、声が聞こえた。


「これで4人になりました。試合終了です」


 何とか第一関門突破。戦いが終わってホッとする。


 とりあえず、4人全員で勝ち抜くことはできた。手をパンパンと叩いて背後を向く。



 勝敗が決まったことに、思わず喜んで、4人でハイタッチ。


「おめでとう」


「うん、よかったね」


「よかったです」


 確かに勝ったけど、強さは確かなものだったし、これからも何らかの形で関わっていきたい。そして、清々しい表情で手を差し出してきた。エステルと、ぎゅっと握手。


「決勝トーナメント、健闘を祈ります」


「こちらこそ、ご健闘を祈ります。ただ……」


「どうかしたの?」


 エステルの表情に迷いが現れる。何か、考え込んでいるのだろうか。

 これから、気に掛けたほうがいいかな。しかしエステルは軽く首を振って、軽く笑みを作った。そして、愛奈とも握手。


「いいえ、なんでもありません。頑張ってください、応援してますから」


 それから、撤退の時間となる。ジャングルの中を歩きながら、これからのことを話す。

 エステルは去年も出場していたようで、これからのことを話してくれた。


「これからが本選です。2対2のトーナメント戦、相手のレベルも上がってくるし学生や貴族、市民の前でコロシアムで戦う以上盛り上がりもすごい。プレッシャーが強くなるから、気負いしないでくださいね」


「大勢の前、なんか緊張するです」


 リズがとまどったような表情で言う。確かに、みんなの前で明るくふるまうのが苦じゃない愛奈と違って、リズだとあがってしまいそうだ。緊張を、ほぐしてあげたほうがいいか。


「大丈夫、強い相手になったら、緊張なんて吹っ飛んで自然と勝負に集中できるから」


「わかる。いざとなったら、僕が守るから」


「ルヴィアさん、ありがとうございます」


 ルヴィアの、自信満々そうな表情。とりあえず、俺と当たるところまでは彼に任せようか。


「私はベスト8どまりでしたが、あなた達ならそれ以上の成績を出すことができると思います。応援してます」


「ありがとう。こっちも優勝目指して頑張るよ」


「でも、もし決勝トーナメントで当たることになったら」


「あぁ……ルヴィア君の言うとおりだね」


 ああ、確かに。今回は4人勝ち上れるから味方同士だったけど、ここからは敵同士になる。せっかく仲良くなったのに戦うというのは俺も気が引ける。けれど、それに対する回答はこれしかないと思っている。


「もしそうなったら、その時は──悔いが残らないように全力で戦おう」


「まあ、それが一番だよね」


 愛奈の言葉通りだ。トーナメントに参加する以上、勝ち進んでいけばどこかで必ず闘うことになる。親しい人同士で戦うというのは、今までもあった。


 そういう時は──互いに全力を出し切って戦う。それが一番。

 勝敗は当然着くけど、それは精一杯力を出し切った結果なのだから仕方がない。それが、一番わだかまりを生まない方法だと思う。


「という事で、一緒に戦う事になったら、全力で戦おう」



「はい、分かりました」




 これで、予選は終了。

 色々あったけど、何とか予選を勝ち抜くことができた。


 強くて、とてもいい人と会うことができた。エステルとも、これから何らかの感じで関わっていきたい。









 予選から3日後。

 授業が終わって一度部屋に戻ろうとしたところ。


「あの子、レナーテじゃない?」


 愛奈そう言って、視線の先。教室の前に、見たことがある人物がいた。ピンクの髪の三つ編みをした女の子、レナーテだ。こんなところで何か用があるのかと考えていると、愛奈が明るい表情でレナーテに声を掛けた。


「あっレナーテちゃん。こんなところでどうしたの?」


 レナーテははっとひてこっちに気付くと、俺の胸に飛び込むんで来た。咄嗟の行動に言葉を失う。レナーテは涙目で、何かを訴えるような目つきになりながら言った。


「エステルを、助けてください」


「え──」




 レナーテに先導され、専用の馬車で目的の場所へ。

 馬車の中で、レナーテから詳しく話を聞く。


「エステルは 少し前までは私の警備を担ってくれていました。それだけじゃありません。幼いころからの顔なじみで、一緒に遊んだり、話したり。親友ともいえる存在でした」


「そうなんだ」


「はい、愛奈さん。それで、この大会の成績次第でエステルが学業を学ばせて家を背負う存在になるのか、それとも才能がないと見切ってさっさとどこかに嫁がせるか決めるか、決めることになっていました」


「そんなこと、一度も言ってなかったぞ」


「けど、なんか思いつめてる様子はあったよ」


 愛奈は、俺と違って周囲の人の感情をよく理解できる性格だ。俺はそこまでわからなかったが、愛奈には違和感を感じていたのだろう。


「エステルは、そういったことで同情されて手加減されることを嫌っているんです。正々堂々と戦っての勝利こそ価値あるものだと以前言っていました」







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