第29話 ジャングルでの戦い


 玄関からそんな音が聞こえて、その音が止む。急いで飛び起きて、人差し指を口元において、静かにしゃべる。


「敵が来た。戦う準備をして」


「なんでわかるの?」


 疑問に首をかしげる愛奈。リズとルヴィアも、疑問そうな表情。


「対策してた。この視界の悪さとジャングルにある小屋。それなら夜寝てる時間に襲おうと考える奴がいるのもおかしくはないからね」


 奇襲対策だ。勝ち抜きがかかっているだけに、他の生徒だって勝つための策を講じてくるはず。特に、注目されてしまった俺たちの関しては。


 それに対して、こっちも対策を講じていたのだ。


「日没前一回外に出てたでしょ。その時、入り口に落ち葉を大量においていた。真っ暗な夜なら落ち葉にすら気付かないし、踏んだ瞬間に音がするからすぐにわかるからね」


「けど、それだけだと相手が来たかわからないですよね。鹿かもしれないですし」


「トラとかもいるんだよね、ここ」


「それなら落ち葉を踏む音が止まない。罠なんて気にするはずがない──一度落ち葉の音が聞こえて、しばらく聞こえないからおかしいんだ」


「なるほど」


 ジャングルでの戦いはよくあったし、その中で夜襲なんてことも何度も戦った。その時に、こっちも色々考えて対策はしてた。これくらいは予想済みだ。


「あ、こっち来てるな」


 そっと、こっちに近づいているのがわかる。逃げないだけ偉いな。それならこっちも、その気持ちに答えないと。


 そして杖を手に持った愛奈の前に手を置く。


「なんで?」


「ここ、狭いから。俺が行くよ」


 ブンブンの狭い廊下じゃ、愛奈やリズの遠距離攻撃の出番はなさそう。1人が戦えるような場所しかない。ルヴィアとも会って間もないし、1人で行くしかない。


「一応、俺のバッジに防御壁はっといて」


「わかった」


 愛奈に、胸のバッジ周りに防御壁を作ってもらい行動開始。階段の前の曲がり角に隠れて、敵の襲撃を迎え撃つ。


 夜の闇の中、キィィ──キィィ──と足音がする。ゆっくり、物静かな音。足音からして、6人ほどのグループだろうか。


 それが階段を登ってくる。距離が近くなって、身を屈んで襲撃に備える。

 足音が近くなっていく、剣を強く握る。


 そして、曲がり角に生徒の顔が見えて視線が合う。


「いたz──」


 出会い頭に人がいて驚く生徒。俺はすぐに反応し下から剣を振りかざす。切っ先でバッチを破壊。まずは一人。


「いたぞ!」


 先頭の奴が叫んだ瞬間、そいつを思いっきり蹴っ飛ばす。


 生徒たちは蹴っ飛ばされた生徒に押される感じで倒れこむ。俺は一番前の生徒を飛び越える。そして、次の生徒のバッジめがけて剣を薙ぎ払う。バッジが壊れたのを確認して、飛び越えて──その繰り返し。生徒たちは剣を構えるのが精々で全く反撃敷いてこなかった。


 わずか数十秒で、後ろの生徒のバッジもすべて破壊。勝負は一瞬だった。

 手をパンパンと叩いて後ろを向く。


「もう大丈夫だよ」


「ありがと。すごいね」


「1人であんなにですか? すごいです」


 リズと愛奈が褒めてくれた。ちょっとうれしくて、照れてしまう。


「まあ、あんなに強くなかったからね。そろそろ寝ようか。交代で見張りね」


「うん」


「わかりました」


 明日も戦いは続く。交代で見張りを置いて寝ることにした。

 まあ、3人は体力的にきつそうだから俺が半分くらい見たほうがいいか。


 そして、俺が最初に見張りに行くため階段を下りていく。ここまでは、問題ない。

 絶対に4人で決勝に行こう。




 翌日。


「愛奈、ありがとう。おはよう」


「遊希君、おはよう。特に何もなかったよ」


 2時間程、見張りを頑張った愛奈。階段の前の物陰に座っていた。やはり眠いのか、目をこすりながら言葉を返してくる。


 その前に見張りをしていたリズとルヴィアも、見張りとして起きていたのか上でぐっすり眠っている。今日は、3人の体力も考慮した予定組みにする必要がありそう。


 これからの戦いだって、それは必要だ。長期戦では、ただ全力を出すだけじゃなく体力に応じたペース配分も重要になる。だから、周囲に配慮したり消耗してないか見てあげないといけない。


 今日は、あまり動かず向かってくる敵を迎え撃つことになりそう。


 ドライフルーツとナッツ、水を飲んでブンブンを出発。


 疲労を考慮して周囲を警戒──しばらくして、魔力の気配を探知。


「生徒が来る。警戒して」


「わかった」


「わかりました」


 後ろの3人に伝えると、一気に緊張した空気が流れる。強い気配ではなさそうだけど、隠れ場所が多い森の中という場所である以上油断はできない。


 互いに背を向けるようにして4人で全方向に視線を向ける。


 数十秒して、気配が強くなって方向と強さがわかってきた。

 前後から同時か。どちらも5.6人と言うところか。


「俺と愛奈、リズとルヴィアに分かれる」


「わかりました」


 リズが強気に返事した。前後の生徒は組んでいるのか、ほぼ同時に戦うことになりそう。それなら、いつも組んで連携をとっているペアの方がいい。


「倒した数からして、戦うのはあと2回くらいか。勝ってみんなで先へ進もう」


「「はい」」


「うん!」


 3人が、元気よく返事をしてくれた。俺も、期待に答えないと。そして、一旦伏せる。


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