第26話 問い詰められ……
「い、いえいえ」
「そんなことないです。本当にお強いんですね。感激しました。今後は、困ったことがりましたら何なりと申しつけください。よろこんで協力いたします」
「あ、ありがとうございます」
レナーテは目をキラキラと輝かせながら言う。慕ってくれているのはわかる。4大貴族なんだっけ、それなら資料とかの関係で協力してもらうことはありそう。これから、なかよくしていかないと。
そう考えていると、ジェニファーがニヤリと笑みを浮かべこっちを見た。
「随分と慕われているな。まあ、身の危険から救ったんだから当然かな」
「そ、そんな。たまたまピンチだから助けただけですし」
「私もプライベートなことを詮索するのは好きではないが一応言っておく。レナーテはかわいい容姿とはいえまだ14だ。おまけに4大貴族の娘。手を出したらえらいことになるからな? 誘惑されたからといって、一線を超えるようなことをするんじゃないぞ?」
「し、しませんよ」
外見でわかるけど、まだ子供じゃないか……。これからのことも考えて、しないよそんなこと。
「ほんとにぃ~~」
愛奈はニヤニヤしながらこっちを見る。挑発するような声。俺、そんなことするように見えるのかな? 多分、実際に誘惑されたらコミュ障が発動してフリーズするんじゃないかな。下手したら逃げ出しちゃいそうな気さえする。
レナーテは、どこか残念そうな表情をしていた。流石に、本当に誘惑しようとしていたなんてないよな。
そう考えていると、愛奈はにっこりと笑顔を軽く背中を叩く。
「冗談だよ冗談。そんなことしないってわかってるから」
「ありがと」
愛奈にまでいわれて、びっくりしちゃったじゃないか。
「まあ。素晴らしい活躍だった。そんなお前たちの事、ちょいと調べさせてもらった。色々聞きたいことがあるからな」
ジェニファーがニヤリと、意味深な笑みを浮かべた。思わずごくりと息をのむ。本題だな、何が待っているのだろうか。
ここまで、怪しい動きやSランクであることを示すようなことはしていなかった。
そしてジェニファーはおもむろにカバンから紙を取り出し机に置いた。それは、俺と愛奈に関する紙だった。
「すばらしい経歴だな。一般入試からの入学組、魔物の襲撃でも高ランクかと見間違えるほどの活躍、小テストでもほぼ満点で優等生といった感じ」
「ありがとうございます」
「問題は、あなたたちの入試問題の解答──」
「何か、まずい回答でもありましたか?」
入試問題。何か問題でもあったのか、ここで聞いてくるという事は、突っ込むようなことなのだろうな。王国の歴史的にタブーなことはわかっていたし愛奈には教えていない。
けど好みに合わないとかではなさそう。レナーテは、ジェニファーと俺たちを互いに見て、困惑したようにきょろきょろしていた。
「気になったのは回答の傾向。明らかにおかしい──、特に歴史問題の記述。理論共に30年前に近い。どこで教わった?」
自信を持っているかのようににやりと笑みを浮かべている。そうか今に時代は、俺が手に入れた知識だと不自然なことがあるのか。
愛奈は戸惑いながら、こっちに視線を向ける。俺が教えたからな。さて、どうするか。確かに俺が教えた知識というのは、今まで無限に近い時間の中で蓄えた知識をもとにしていた。もちろん、今の時間軸というのは考慮してはいたが、そこまで厳密に考えていたわけではなかった。
この人かなり俺たちの事を疑っているな。
「ええと俺達、図書館で体系的に学んだわけじゃなくて、商人の試験を受けた人とか、村にある本とかをみて勉強したわけなので、アカデミーの本流的な理論とは、ずれが生じているのではないかと思います」
「ほう、そうくるか」
ジェニファーはコーヒーを口に入れた後にやりとした笑みをこっちに向けてきた。それ以上追及してこない。何か、察したのだろうか。
「まあいい。これからも、君たちの活躍は目にとどめておくよ。あともう一つ。そなたたち入学式を見て、疑問がわいた」
「何でしょうか?」
「オーラを見ればわかる。本当にCランクか?」
うわあ。俺達は、アカデミーで目立たないよう2人ともCランクを自称するように口合わせしておいてある。術式も、緊急以外は低ランクの術式を組み合わせていたし。聖女という事も、隠蔽魔術で隠してある。
けど気配で分かっていたとは。この人、ランクが高いだけでなくそういった嗅覚みたいなのもあるのがわかる。隠し事とか、出来なさそうだ。
「えーと」
愛奈は、どう返せばいいかわからず右上に視線を向け考え込んでいた。完全に、実力を偽っているのがばれてる。
「わかったから返事はいい。まあ、無理に自白させに呼んだわけではないし、これ以上詮索をすることはせん。言えないような事情と隠さなければいけない強さがある、訳ありというのは想像ついた」
「あ、ありがとうございます。確かに、事情があることはあります」
指を組んでこっちを見る。にやりと笑みを浮かべた、バレてるな。何か観察しているような目。
無為に対立する気はないようだ。
「ただ、お前らが普通の生徒とは異なるというのは理解できた。ここからが本題なのだが、お前たちの力になるように、普通の生徒には頼まないようなことを頼んでもいいか? 普通にアカデミーにいただけでは手に入らない情報が手に入ったり、色々な人と人脈が築けたり悪い話ではないと思うぞ」
「それって具体的に?」
愛奈の質問にレナーテが答える。
「極秘任務の遠征や、未開発の遺跡の散策。援軍が必要な戦いへの加勢、ダンジョンの冒険などです。もちろん欠席した授業の補修もありますし単位や謝礼も出ます」
「ただ、教師の見張りが付いている授業と違って安全の保障はない。身の危険を感じるようなことだってある。だから強制はしない」
なるほど。稼ぎや経験が詰める代わりにリスクもあるのか。
「聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「内容による」
「今みたいに例外的に頼みごとをしている人は、他にもいるんですか?」
俺に言ったという事は、他の奴にも言ったという事だ。
ジェニファーは、何かを考えているのか目を細める。
「いるが、詳細は言えん。黙秘しなければいけない事情を抱えた者もいるしな」
「それは、問題ないです。ご配慮、ありがとうございます」
まあ、答えは決まっている。図書館で調べ物も続けるし、それもいいけどやはり一人でいるより、一人でも多くの人と交流を取って、つながりをもったりした方がいい。
愛奈だって、色々な戦いを積んで経験を深めた方がいいし。行かない理由なんてない。
「わかりました。その話、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな。時々呼び出すからな」
何とか面談が終わった。なにを言われるかわからなかったが、問題なく終わってよかった。
「色々な頼み事か、どんなことがあるのかな? とっても楽しみだね」
「うん」
これから、強い敵と闘っていくのか。リスクはあるけど、愛奈のために避けて通れない。
避けたところで、絶対に災厄はやってくる。その時に、愛奈も戦えるようにしていきたい。逃げたところで、運命から逃げることはできないのだ。
「あ、遊希さま」
立ち上がると、レナーテが明るい表情で手を握ってきた。
「何?」
「これからも、ご活躍の方期待しております。応援してますね」
キラキラした目。上目遣いで、嬉しそうな表情。慕ってくれるというのは嬉しいけど、ここまで信じてくれると、逆に接しずらい。
「ありがとう。これからもよろしくね」
レナーテとも、いい関係でいられるといいな。
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