第24話 本当に、偶然??

「しっかし奇襲なんて、ついてねぇぜ」


「あいつとロキさんがいなかったらどうなっていたことか」


 周囲の生徒たちがこの状況を愚痴る。確かに、考えによっては不幸だ。

 課外授業をしていたら、いきなりダークハーピィやらゴブリンやらが大量に出てきて来たのだから。



 しかし、偶然なのだろうか。こんなうまい話があるのだろうか。

 気になる。まだ証拠はないが、このパターンはあった。


「多分待ち伏せしてたんだと思う」


「でも大貴族のスケジュールや移動ルートは、王国でも一部の人しか知らないはずです」


 メデルの言うとおり。大貴族の人がどんなスケジュールなのか、どこに行くのかは王国でも限られた人しか知らない。ということは……。


「もしかしたら、情報が売られているかもしれません」


「本当ですか?」


「その可能性はある。まだ証拠はないけど」


 とはいえ証拠は全くない。それは、これから王国全体で調べることだろう。これ、大事になるんじゃないかな?



 誰かが利益と引き換えにレナーテの情報を売り渡したという仮説。


「ありえる。その一部の貴族たちがデーモンたちに情報を漏らして、重要な情報を手に入れたりしたとか」


 いつの間にか隣にいたルヴィアも呟いた。

 デーモンね、ルヴィアの言葉を心の片隅に停める。色々可能性はあるけど、それはこれから調査すること。とりあえず、怪我人の回復が先か。そう考え周囲を見ようとする。


「ロキ様──」


 俺の後ろから声が聞こえた。メデルだ。メデルもまた、傷つきながらも戦い続けていて、疲弊している。

 そしてその目の前には腕を組んでいるロキの姿。兄妹で、何をしているのだろうか。

 威圧するように睨むロキと、涙目で申し訳なさそうに視線を下ろしているメデル。



「なんだお前か。どうした」


「も、も、申し訳ありませんでした! 私、何もできなくて」


 正面で手を組んで、深々と頭を下げて言った。さっきまでは悲しそうな表情だったのが、うっすらと涙を流している。相当自責の念に駆られているのがわかる。


 そんなメデル、ロキは──背中を向けた。


「お前が力不足なのは最初から知っている。猿がピアノを弾けなくて、猿を責める奴はおるまい。最初っから、猿にピアノが弾けると思う奴が悪いのだからな」


「は、はい」


 メデルは視線を下に向けた。メデルは、それ以上なのも言う事が出来ず黙って涙を流していた。お前だって結局レナーテの所に行けなかったくせに。


 ひどすぎる。

 仮にも妹に対して、言っていい言葉ではない。いくら何でも言いすぎだ。

 ──見過ごせない。少しでも尽くそうとしている人の行為を、こんな踏みにじるのは。


 思わず、一歩前に出て叫んだ。


「おいロキ」


 ロキは何も言わず、黙って振り向いてこっちをにらんだ。

 俺の言葉に騒然とする周囲。この場にいる全員の視線が俺とロキに集中する。


 緊迫した雰囲気、周囲が俺のことをひそひそと話す。


「なんだあの1年」



「いくら何でもロキさんに?? 呼び捨てとか命知らずだろ」


「無謀もいい所だ」



 命知らず?? 確かにそうかもな。それでも、周囲を救おうとした彼女に対する仕打ちに、我慢することができなかった。メデルが悲しんでいる姿を見て、何もしないなんてできない。


 どんな理由があろうと、暴力を振っていい理由にはならない。だから2人の間に割って入った。



 ロキは剣を、俺に向かって振りかざしてくる。

 寸前でロキの攻撃を受ける。攻撃を受けて、思わず腕がしびれた。流石勇者だけあって、パワーが違う。だが、受けられないわけじゃない。


 そして攻撃をやめ、一歩引いたロキは舌打ちをして、見下しながら言い放つ。


「フン、勇者には向かうなど、どういうつもりだ!」


「お前こそ。実の妹だぞ、どうしてそんな仕打ちをする?」


「妹だからこそだ。俺様の家系にこんな雑魚がいると思うと腹が立つ。恥さらしもいい所だ」


「メデルは、お前の価値を高めるための道具じゃない」



「フン、口だけなら何とも言える。いつか圧倒的なパワーを持つ俺様の前に、ひれ伏させてやる」


「そうなるかどうかは、戦ってみればわかりますよ」



 俺はそういった後に手を差し出した。ロキはそれに応えるように手を差し出し握手。その時、一瞬だけ、俺は魔力を放出させた。目に見えなくて、当たっても人体に影響はない魔力。しかし、そのパワーはAランクに匹敵する力。


 ここにいる学生たちにはわからないが、ロキならこの魔力のすごさがわかるはずだ。

 証拠に、ロキは一瞬表情をこわばらせて、こっちを睨んだ。分かってくれて何よりだ。


「貴様、この後のアカデミーカップには出場するのか?」


「まあな。俺は愛奈と、組むことになってる」


「フン。そこで、俺様といい気になってる貴様との差をわからせてやる。そこで俺様に口答えしたことを──後悔させてやる」


 そう言って踵を返しこの場を去ってしまった。アカデミーカップ。2週間後から行われる、学園全体で行われる大会。


 学園全体で魔法能力、武力などを競い合いNO1を決める大会のこと。俺は、色々やりたいことがある手前どうするか悩んでたけど、賞金はこれからの資金として魅力的だし、色々な人と戦って知り合いを増やし、交流を広げるのだって悪くない。


 交流が広がれば、後々大きな戦いで有利になれるし。

 当然ロキも参加するんだろうな。


 愛奈が、優しく肩を叩いて話しかけてくる。気まずそうな表情。


「早速目、つけられちゃったね」


「まあ、遅かれ早かれ戦わなきゃいけないし」


「大会、参加するんだね」


「色々な人と知り合ったり、勝ち進むと賞金がもらえるからさ。それで資料とか買いたいし。ダメだった?」


 愛奈はううんと言わんばかりに首を横に振る。


「大丈夫だよ」


「ありがとう。じゃあよろしく。絶対に、何かあったら絶対に守るからね」


「その言葉、信じてるよ」


 そして、俺達は怪我をした人の救護に当たった。

 ロキか、あんな初対面になってしまったが、これからどう接していけばいいのだろうか。

 悩みそうだ。


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