第22話 メデルに、お姫様だっこ


 助言も効かずに。メデルは一人で突っ込んでいってしまった。ロキに強く言われたことが精神的に響いているのだろうか。そのせいで「自分も兄に並ぶ存在にならなければ」という思いが先行しているように感じる。

 けどそれは無茶だ。


 だが、メデルが一緒に戦っているのを拒絶している以上無理に言っても邪魔になるだけ。とりあえず、見守ってピンチになったら助けよう。


 俺は、向かってきたゴブリンを1匹1匹ずつ倒していく。

 倒しながら、心配だったメデルに時折視線を向ける。


 戦況の様子を見て、思わずつぶやいた。


「予想通りだな」


 メデルは術者としては強力かもしれないけど、遠距離攻撃は術式を放つために詠唱を唱える必要がある。


 術式自体は強力で、直撃したハーピィとゴブリンは全て一撃で爆破。ロキの妹だけあって、それなりに実力はあるのがわかる。

 しかし、術者1人では限界がある。倒しても1人であることを理解したゴブリンの1匹が後ろから襲ってきた。


 そして、背後から突進されメデルの体は大きく吹き飛ばされてしまう。


 近距離で戦えなければ、どんな強い術式を打てても詠唱を唱えている間メデルは無防備になってしまう。そんな弱点を大きくさらけ出している。メデルはロキに認められようと前のめりになっているが、このままだといずれやられる。

 メデルは、それでも逃げなかった。真正面からハーピィと向き合い、自身の杖をハーピィに向けた。


 勇気を出して戦っているメデルを、助けないわけにはいかない。


「援護するよ」


「そうだね」


 愛奈がコクリとうなづいて、こっちに来たハーピィを急いで連携して倒す。それから、

 俺達はメデルの元へ。


 メデルはまた背後から攻撃され、大きく吹っ飛ばされる。

 普通のハーピィならともかく、強化されたこいつらに一人では荷が重すぎる。



 今度は、背後の敵を打ち落とそうとした瞬間──詠唱を唱えようとして別のゴブリンに背後から攻撃を受けようとしている。


 両方からの攻撃に1人では対応できない。



 背後から攻撃を受け、吹っ飛ばされるメデル。俺は急いでメデルとゴブリンの間に入る。あの速度なら大丈夫。簡単だ、メデルの身体が地面に叩きつけられる前に、ハーピィを全部切り落としてメデルのもとにむかい、助ければいい。


 魔力を足から放出し、一瞬でハーピィに接近してから、一気にハーピィたちを真っ二つに分断。そこまで強くない敵、勝負は本当に一瞬だった。しかし、これで終わりではない。メデルを助けないと。周囲に視線を向けてメデルを確認、今にも地面に落ちそう。怪我をさせるわけにはいかない。一気に急降下。



 メデルの肉体が地面に落下する直前、何とか間に合って体を割って入れる。メデルの首の下とひざの裏に手を入れる。

 お姫様抱っこの形だ。正直、恥ずかしい。


「あ、あ、あの……ええと」


 メデルと視線が合う、メデルは視線が合うなり恥ずかしそうにほんのりと顔を赤くし小声でささやいた。


「あ、ありがとうございます」


 そして、腰を下ろしてメデルの身体を地面に置く。



 メデルは、立ち上がるなり頭を下げた。


「申し訳りません」


「いいよ、気をつけてね。それより、戦わないと」


 それから、戦闘再開。


 殴り掛かってきたゴブリン相手に逆に殴り返す。ゴブリン自体は普通のゴブリンよりは少し強いが、せいぜいEランク程度。一度攻撃を受けて、ゴブリンを一刀両断。ゴブリンはガードしたようだが、ガード自体を貫通し肉体は一瞬で真っ二つに。


 すぐに体を回転させ、四方八方から取り囲んでくるゴブリンたちを全員切り落とした。



 何とか事なきを得て、座り込んでいたメデルに声をかける。メデルは、一瞬はっとしながらも強気な表情に戻る。


「大丈夫?」


「こ、これくらい大丈夫です。心配いらないです」


 俺に聞かれるのを嫌がっているように聞こえる。

 メデル、今日は1人だが前衛の人はいないのだろうか。

 まだ戦いは終わってない。周囲を確認──レナートの所に敵、それもゴブリンたちが集まっているのがわかる。それだけじゃない、こっちにもダークハーピィが来る。


「それは私がやる」


 愛奈が前に出て、攻撃を放つ。


 テンペスト・アタック


 強力な、暴風ともいえる風の塊。そんな愛奈の攻撃がハーピィに命中。大爆発を起こし半数が地面に落下。


 残り半数も大ダメージを負って、あと一息で倒せるというところか。


 他の生徒も対応し、多数のゴブリン相手に善戦を繰り広げる。


 しかし、一匹ずつでは時間がかかり、レナーテ姫の所までは行けそうにない。ロキもまた、何匹も襲い掛かってくるハーピィの対応に追われている。



 レナーテがいる以上、巻き込まれるため大掛かりな術式は使えない。これでは、とてもお嬢様を守ることはできない。仕方ない、ちょっと無茶だけど、俺が行くしかないか。何かあっても大丈夫、だって──。


「愛奈、突っ込んでいくから、何かあったら回復の方、よろしく」


「わかった」


 愛奈がコクリと頷く。」しかし、愛奈も戦っている以上確実とは言えない。そうなったら、俺自身で回復させるしかない。Sランクの術式だけど。ロキがいる手前出来るだけ使いたくはないが、彼女を守るためなら仕方がない。


 その間にも、レナーテの状況は悪化。警備の兵士たちはどんどんやられていき、気が付けばレナーテを守る者は誰もいなくなった。レナーテは、ゴブリンたちに囲まれ恐怖におびえた表情をしている。


 馬車には、荷物を漁るデーモンの姿。なるほど、貴族の極秘の資料や物資なのだろうか。雑魚を大量に出現させ周囲の奴らと戦わせる。そしてそのスキをついてあいつが重要なものを盗む。

 あれが目的で、そんな魂胆なのだろう。早くゴブリンたちを何とかしないと。




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