第19話 実力の差を、見せつける。
一度愛奈にちらりと視線を向ける。愛奈は、メデルやいじめられていた子に可哀そうな表情を向けていた。周囲の人たちは、実力のある上級生を目の前にしてすくんでしまって何も言えない状態。
あまり目立つのは好きじゃないんだけど、悪いことをしているのがそのままお咎めなく──というは好きじゃないんだよねぇ。
俺が行くしかないか。ただ勝ってもこいつらは反省しなさそうだな。ちょっとわからせるように勝つしかない。
そして、愛奈に小声で話しかけた。
「愛奈、ちょっと貸して欲しいのがあるんだけど」
「何?」
周囲に聞こえないように、耳打ちで借りたいものを言う。愛奈は、不思議そうにきょんとなりこっちを見る。まあ、ふつうはそうなるよな・
「服治すの?」
「そんなところ」
「こんな時に? わかった」
愛奈はそう言って、ポーチから裁縫に使う針を取り出し俺に渡す。
「はい」
「ありがとね」
これでいいや。本気で行っても瞬殺するだけだし、クラックのレベルならこれで十分。実力の差を、見せつける。
そして、ゆっくりとクラックの元へ歩き出す。
「待てよ」
「なんだお前」
クラックが不機嫌そうにこっちを見てくる。
そうだ、あの子より俺に敵意を向けてこい。わからせてやるから。自信を持った笑みで言葉を返す。
「そんな言葉で無駄に強く見せようとするな。弱く見えるぞ」
「なんだ一年のくせに、ちょっと強いからって生意気がるなよ」
「そんなこと言ってるわけじゃない。悪いことは誰がやっても悪い。おかしいこと言ってるかな?」
「わからせってやつだ。実力の差ってやつをよ」
「いいねぇ。ひと勝負だ」
そう言って、俺は針をクラックに向けてニヤリと笑った。クラックは、露骨にむかついたような表情を向けてくる。
「なんだそれ。裁縫でもやるのか?」
「文脈からしておかしいだろ。これで相手してやるってことだよ。まあ、ハンデってやつだ」
そう、俺がクラックに向けたのは愛奈がさっきほつれた服を治すのに使った針。
それをクラックに向けて余裕そうな表情で向けた。
「てめぇ、バカにしてるのかよ」
「そうよぉ。ちょっと1年で成績がいいからって、調子乗ってんじゃないわよ!」
そして、針を持った俺に何とか攻撃を加えようとどんどん力を入れてくる。
全力で俺をねじ伏せようとして、力いっぱい押しているのが針から伝わってきた。
「どうした? わからせるんじゃなかったのか? シメるんじゃなかったのか?」
「う、う、う、うるせぇぇぇぇぇぇ!!」
クラックは焦りを感じて一回剣を引くと何度も剣で攻撃してきた。
力任せになり、前のめりになって攻撃を加えてくる。まあ、アカデミーの中ではエリートって感じだ。だが、俺からするとスローモーションにしか見えない。
そんな遅く見える攻撃、必死な形相で何度も攻撃を加えていく。力み過ぎているくらい、力が入っているのがわかる。
そして──感情的に、必要以上に攻撃的になったせいでスキだらけのクラック。そろそろ反撃するか。
クラックが攻撃に来たと同時に、俺は攻撃をしたから受けた後、クラックの攻撃
一気に体の重心を落として、すぐに懐に突っ込む。
「しまった」
「力入れ過ぎ」
前のめりになっていたクラックは全く対応できていない。
そして、1割ほどの軽い力で軽く腹をぶんなぐった。クラックの肉体は十数メートルほど吹っ飛んで、地面に転がった。
「なんだあの1年。すげぇぇぇ」
「針1本でクラック倒したぞ……」
騒然となるこの場。みんな俺の方を見て、ざわついている。なんか目立ちすぎちゃったなぁ……。
今度はローズに視線を向けた。
「一応聞いておくよ、やる?」
ローズは警戒した表情でこっちをキッと睨んで一歩下がった。さあ、どう出るかこいつら。
そう考えた時、誰かが手をパンパンと叩く。
「ちょっと、ケンカはそこまでにして。実習するよ~~」
「あ、はいすいません」
ルーシだ。確かにそうだ。俺達はこんなことをしに来たんじゃない。目的を忘れないようにしないと。
「えーと皆さん。今回実習で捕獲してもらうのは──グリフォンという鳥です」
「あー聞いたことある。1匹1匹は普通の鳥なんだけど、集団になるとうるさいしフンの害とかすごいんだっけ」
「そうそう。夜とかビービーうるさいし、寝れないよね」
ちょうどこの辺りにし生息していたのだが、数が増えすぎて街道で人を襲うようになってしまったらしく、駆除してほしいとのことだ。サイズも、人の胴体くらいはある。害鳥という奴か。
「数こそ多いですが、1匹1匹はそこまで多くありません。なので皆さんが駆除する相手としては最適です。うまくいかないところがありましたら教えますので、各自頑張ってください」
そして、周囲の生徒たちはそれぞれ、平原の中へと足を運んでいった。俺達もいかないと。
「じゃあ、俺達は俺達で行こうか」
「はーい」
「リズも、一緒にやる?」
「わたしで、いいんですか?」
「え? ああ。いいよいいよ。ルヴィアもいいよね」
戸惑うリズ。ルヴィアも突然の事なのかびっくりしている。
しかし、こういった狩りはちりじりになるよりまとまったほうが効率はいい。連携して狩りをした方が効率よく獲物を捕れるからだ。
「わかり、ました」
「みんなで、頑張ろうね」
愛奈は元気そうに手を挙げ、リズは俺から目をそらしてコクリとうなづいた。ルヴィアも、どこかやる気。
刈った数が、成績に直結するんだっけ。それなら負けられない。1匹でも多く刈っておきたい。
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