第17話 勇者「ロキ」
まず指を差したのは一人で腕を組み、周囲に視線を向けている女の人。水色の三つ編みの髪型。背は、愛奈より頭半分低いくらい。そして、あどけない目つき。
「ロキの妹 メデル=クロース」
「あの人。王都で魔法を使う以上、絶対関わることになる人よ。絶対に、覚えておきなさい。理由はあとで教えるわ」
「わかった」
ロレーナは見たところ、誠実で真面目という印象。ここで名前を言ったという事は何か理由があるのだろう。
それから、ロレーナは周囲を見回すと、2人の人物に視線を向けた。
「今回授業の引率役の人。あの2人は絶対に覚えておいて。ルーシとロキ」
「わかった」
「ルーシは遠距離攻撃が得意でBランクという高ランク。4大貴族出身という事もあり王国の要人たちともつながりがあって、礼儀座法などにも詳しい。性格に難があるロキの窓口役としての役割もあるの。
そしてロキは──この世界で貴重な『勇者』スキルを持っているわ」
「勇者か──」
歳は俺より少し上、くらいか。金髪で、つんつんした頭。俺より頭一つ大きい長身。騎士の甲冑を着た、堂々と腕を組んで立っている男の人。
その言葉に、緊張が走る。勇者──その時代に指で数えられる数しかいない貴重なスキル。
圧倒的なパワーを持ち、悪を切り裂いていく時代の象徴ともいうべき存在。これから、戦いを続けていけば嫌でもかかわってくるだろう。悪い印象を持たれないように気をつけないと。
「彼、実力がある代わりにプライドがとても高いの。言葉使いとか、身の振り方とは気を付けたほうがいいわ」
「大変そうだね」
「愛奈の言うとおりだな。ありがとうロレーナ」
それから、ロレーナは腕を組んでロキの隣にいるルーシに視線を向ける。
黒髪のセミロングで、愛奈より数センチほど小柄。
タレ目で、青い瞳。口元にほくろがあるあどけない雰囲気の女の子。オレンジの帽子に、黒とオレンジの胸元が開けたローブを着ている。大きな乳房の胸元ちらっと見えてしまい、つい見入ってしまった、いけないいけない。
「ロキの相方として有名なルーシよ。彼女もBランクレベルの実力がある。
それなりの実力者。あと、この学園だとあの2人がトップレベルかな」
「わかった。学園にいる以上、2人は避けて通れないってことね。ロレーナ、ありがとね」
愛奈が嬉しそうに笑ってお礼を言う。こうして、周囲と交友関係を広げられるのも愛奈の強みだよな。俺も、不得意なりに何とか会話ができるようにしないと。
そして『勇者』ロキは、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。そういえばそろそろ時間か。
ルーシがそれに気が付いて、周囲に聞こえるようにして叫ぶ。
その言葉に、周囲に生徒たちが反応して2人の元に集まる。ロキは──やはり不満そう。
「本来なら、俺達がすることではないのだがな──フン」
「魔物の連続出現、要人の警備などで冒険者や国家魔術師が出払っている状況となっているんです。ですので、私たちが臨時で対応しているんです」
ルーシが慌ててフォロー。
あー食堂で食事してた時、噂になってたな。治安が悪くて、魔法が使える奴が総出で対応してるって。
「という事で、私たちが監督を務めますので、よろしくお願いいたします」
ルーシは、行儀良く頭を下げる。正直、かなり美人に入る。周囲にいる男子たちもチラチラと視線を向けているのがわかる。特に胸元。スタイルもいいし、こうなっちゃうよな。
「ルーシさん、とってもきれいだなぁ」
「わかるわかる、美人で強いのに腰が低くていい人で、いいなぁ」
「でも、ロキの女なんだよなぁ」
誰かがそう言った瞬間ロキがこっちに視線を向けてきて、ピリッとした空気になる。
噂をしていた男たちは、よそよそしくなって散らばった。
まさか、勇者の隣にいる女の子を口説くわけにはいかないよな。ロキ自体、あんな感じで怖そうな印象だし。
「面倒だ。とっとと実習を始める。お前ら、準備しろ」
ロキが、腕を組んで面倒くさそうに言った。やる気がないというのが、一目でわかる。
まあ、勇者という肩書ならこんな事より、もっとふさわしい仕事があるよな。
という事で、授業開始。
その授業。2部に分かれていて、1つは魔法を使った害鳥の捕獲作業。そしてもう一つが……。
「遊希さんでしたっけ、
「本当ですね。私にも
ロレーナや、周囲の女の子が俺を頼ってくる。
この辺りにあるウサギなどの小動物や木や花を、ペンでノートに描くというというもの。
元々美術の授業の課外授業だったが、先生が休養で2人が代行ととなった。
アカデミーでは、魔法以外でも貴族として必要なことを学ぶ場でもあるし、自分達で魔法陣を描いて、術式を放つときに使う。基礎中の基礎という意味もある。
それをロレーナや、愛奈の友人の女の子と一緒に道端に生えている花や木を書いている。
俺は友人がいない、愛奈は友達がいっぱい。そして俺は愛奈といるとなると、こんな結果になる。結果として女の子に囲まれる形となる、ちょっとドキドキするな。
俺は、何度か絵の描き方を習ったことがあるからその知識を生かして上手くいかない女の子たちに写生について教えていた。
「「アタリ」を作ってから、形を書き上げて最後の方で細かい所に修正を加えるとうまくいくよ」
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