第16話 アカデミーへ
それから、制服が支給された。制服は、濃い緑を基調としたブレザー。
愛奈は、制服が気に入っているようで、ご機嫌そう。部屋で試着してみた。
「高校の時みたい。かわいくていいね」
高いテンションで、くるりと一回転。
ミニスカートがちょっとだけ上がって、健康的で程よい太さの太ももがちらりと見えてしまう。
思わず欲情に駆られ、目をそらす。黒の二―ソックスと相まって、とても刺激的に見える。
とってもかわいい。
それから愛奈はスカートの両端を掴んで上げて、上品なお姫様みたいにゆっくりとお辞儀。
「という事で、これからもよろしくおねがいします」
「う、うん」
な、何で敬語? それにお姫様みたいな素振り。ちょっと戸惑う。愛奈は、たまに変なノリを見せてくる。どう反応すればいいんだこれ。
ない頭を必死に練って考え込んでいると、愛奈はふっと優しい笑みを浮かべてこっちを見た。
「遊希君は遊希君だね。これからもよろしく」
「ああ……うん」
どう、反応すればよかったのだろうか……。
それから、数日後に入学式。
周囲は、明らかに服装が整っていて礼儀がとても正しい人ばかり。みんな、育ちがいい貴族育ちだというのがわかる。流石、上流層が集まる場所だ。
入学式を終えた後、クラス分け。入学時の成績や年齢を考慮して決めるらしく、俺と愛奈は一般入試だったので一番ランクの低い高等部の普通組。リズと、ルヴィアは子供だったので小等部。クラスが違うから会えるのは放課後になるのか。まあ、年齢的に仕方ないか。
担任の女の人があいさつをして、休憩時間に交流が始まる。俺は……うまく話せなかった。
高校の時と同じ、相手が楽しそうにおしゃべりをしているのを、「うん」とか「そうなんだ」とか言葉を返すだけ。
当然、友人なんてできなかった。
愛奈は、以前の世界と全く変わらない。初めての人にも明るい笑顔をふるまって、ドンドン友達が増えていく。
周囲が寄っていく感じ。気が付けばグループの中の中心にいて、休憩時間とかは楽しそうにグループでおしゃべりをしている。高校や中学の時と、全く同じ光景だ。
授業、座学は──基礎魔術や神学。古代史やクライスト史──などの基礎的な内容が中心。俺にとっては何度も勉強した内容だったので楽勝だったが、中には苦戦する人もいた。
それから、実習の授業になった。
王都から少し離れた郊外の平原。
東にうっすらと王都が見える以外、何もない草原地帯が続く地帯。
小さな街道があるだけで、人気は全くない。
今日はこのエリアで実際に魔法を使った実習を行うことになっている。
「結構歩いて、疲れちゃった」
「そうだね、愛奈。大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。でも──」
愛奈はちらりと後ろにいたリズ見る。
「私も、疲れたです」
「リズちゃん、大丈夫?」
ルヴィアが心配そうに声をかける。ルヴィアは大丈夫そうだが、小柄でひ弱そうな体系のリズは大分答えているようで、いざに手を当て、軽く息が上がっている。考えたら、1時間は歩いたよな。すでに王都から出ちゃってるし。遠い場所だな。周囲の同級生たちも、疲れていたり愚痴っていたりしているのがわかる。
「なんでこんな歩かされるんだよ。アカデミーだろ? 馬とかなかったのかよ」
「ったくだよなぁ。授業が始まるまでに疲れちまったよ。いくら何でも扱い悪すぎないか?」
「訓練できるところは、エリートクラスや上級生が使ってるんだってさ」
ぶつくさと、同級生が愚痴るように言う。考えたら、一番扱いが悪い俺たちが、こんな使いを受けるのは自明の理なんだよな。
そんな険悪な雰囲気が続く中、愛奈の隣に一人の人物がやってくる。
「愛奈、疲れたりしてない?」
「ロレーナは大丈夫??」
「まあね。父さんが冒険者で、昔から歩かされたからね」
ロレーナ。
すらっとしたスレンダーな体系。さらっとした青髪のロングヘア―。大人びていて、まじめな優等生という印象。よく、愛奈と一緒に離していたっけ。
「そうなんだ。私もよく歩いてかな」
「よかったわ」
「そういえばさ、愛奈。あんた一般入試だっけ?」
「そうだけど、何かあったの?」
「ここってさ、周囲との関係次第で将来が決まるのよね。コネがある人とか、いる?」
ロレーナが、腕を組みながら言う。
確かにこういった貴族の人が多い学園だと、貴族との繋がりを得るかが出世だったり、重要な情報にありつける鍵だったりする。
貴族社会は、コネがすごい重要なのだ。そういった人間関係についても、今後は考えていかなくてはならない。ロレーナは、そういうのに詳しいのだろうか。
「う~~ん。私達、そういう人いないのよね。本当に田舎町出身だし」
「私も辺境領主の生まれだから、独学でしか学んでないけど、ちょっと教えてあげる。だって愛奈の将来がかかってるんだもの」
「大変だね、いい結果になるといね」
「とりあえずさ、覚えたほうがいい名前。言っておくわね」
「あ、ありがと」
ロレーナが周囲を見回して言う。よかった、コミュ障の俺だと、そういう情報にどうしても疎くなってしまう。
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