第15話 みんなで、楽しく
「えーと、そういうのは……もういいから」
「しかし、愛奈さん」
「大丈夫だよ。私たち友達なんだから、一緒に座って、美味しく食べよ」
「そうだよ。気を遣わなくていいから」
「愛奈さん、遊希さん」
愛奈が優しい笑みを向けると、リズは心から信じることができたのか、コクリと頷いて、俺の隣に座った。よかった、ホッとする。
「じゃあ、美味しく食べようか」
「はい」
リズの表情が、はっと明るくなった。やっぱり、笑顔の方が可愛いな。こうやって、喜んでもらえたらいいな。
それから、注文。何にしようか考えたけど、せっかく入学が決まってその祝いなんだからと、全員で牛ヒレのステーキを頼む。
「私、牛肉なんて初めて頼みました。どんな味なんでしょうか」
「私もここに来てからは初めてだよリズちゃん。とっても美味しいから一度食べてみるといいよ」
「わたくしにそのようなものを? 早く食べてみたいです」
それから愛奈はいたずらをするかのような笑みで顔を近づけ、ひそひそと耳打ちしてくる。
「お酒、飲んでみる? この世界なら飲んでも大丈夫だよ」
愛奈はなんとビールを指さす。まあ、村でも同い年の奴が堂々と飲んでたから問題はないだろうけど……。
「えーと、この後も作業とかあるからさ。俺は無理だよ」
「そうだね、まぁ私もそうだしやめとくよ」
「ミルク……もらおうか」
そんな気分にはなれなかった。やることあるしさ。愛奈も、苦笑い。
注文を取ってから、出された水を飲みながら愛奈が話しかけ始めた。
「試験受かったんだ。すごいね」
「まあ、組み合わせが良かったのと、ルヴィア君が上手く前衛で戦ってくれたから勝ち残ることが出来ました」
赤の髪の男の子、ルヴィアことか。彼もちょっと、気になるところがあるんだよな。
聞いてみるか。
「彼、どう?」
「悪い人では、なさそうです」
「……そうか」
とりあえず、いきなり危害を加えるような感じではなさそうだ。手放しで喜べるわけではないが、彼がいれば俺がいない時でも問題はなさそう。どこかで、話してみたいな。
そんなことを話しているうちに、ステーキと付け合わせの野菜とオニオンスープ、パンが出てきた。
リズが、出されたステーキをじっと見ている。何かあったのかな?
「どうしたの? 変なものとかついてた?」
そして、表情をこわばらせた。
「えーと、私なんかが……こんな高価なものを食べていいのですか?」
「いいよ。せっかくの合格祝いなんだし一緒に食べようよ」
愛奈がそう言ってにっこりとほほ笑むと、リズはそれに安心したのかはっとなり、軽く頭を下げる。
「あ、あ、ありがとうございます」
「じゃあさ、一緒に食べようよ」
3人同時に手を合わせて「いただきます」をして、食事が始まった。
まず3人合わせて口に入れたステーキだが、脂がすごいのっていてとても美味しい。前の世界でも、十分通用する美味しさといってもいい。
リズは、初めてのステーキと一緒の席での食事でとても嬉しそう。
「こんな柔らかいお肉とパン、初めて食べました」
「あたしも。コッチの世界来てから初めて食べた」
愛奈も、久々の柔らかいステーキに肉を口に入れた瞬間顔を赤くして驚いて豹頬を抑える。
村で食べてた肉は、これよりも鶏肉に近くパサパサだったり獣くさかったりしてたから格別の味に思える。
味付けも、塩コショウのシンプルなものだったけど、油たっぷりのお肉ととても合っている。
それを食べながら、暖かいオニオンスープや拳サイズの柔らかいパンを少しずつ食べていく。
「私が食べていたパンは、いつも黒いパンでした」
「あ~~あれ、カチカチで硬くて酸っぱいんだよね。熱いスープに入れて柔らかくしないととても食べられなくてさ~~」
愛奈の言葉通りだ。村で食べていたパンは、黒パンという奴でとにかく固い。そのままじゃとても食べられない代物。野菜も、元の世界の品種改良された奴とは違い苦かったり。
けど、ここの肉や野菜はいい品種なのか元の世界ほどでないにしろ柔らかくて苦みや臭みがなくてそれなりにいいものを使っているのがわかる。
「わかります。それと、野菜や肉でもご主人様用に調理した余りものとかを頂いたり、そんな感じです」
量が多いと思ったけどあんまりおいしかったので、あっという間に食べ切ってしまった。
「王都だけあって、美味しかったね」
「うん。貴族が通う学校だけあって、料理の素材から違う感じ」
愛奈もリズもとても嬉しそう。
そして、食べ終わって会計に移ろうとした時、リズが立ち上がってこっちを向いた。
なにか、言いたいけど言いずらそうにもじもじとしている。そして、左右に視線を泳がせてから直角に頭を下げた。
「あ、あ、ありがとうございました。こんな私なんかに、こんなに美味しいものをご馳走していただいて。この御恩は、一生忘れません」
大きな声だったので、周囲の視線も集まってくる。愛奈は、口をぽかんと開けて言葉を失っていた。
リズは──奴隷生活が長かったせいか卑屈になってしまう場合があるな。もっと自信もっていいのに。
一生懸命で、ポテンシャルだってあるのに。
「とりあえずさ、頭下げないで。これからは一緒に組む仲間なんだから。俺達が贅沢をするなら、リズも同じくらい贅沢をする権利がある。だって、俺達とリズは対等な仲間なんだから」
「対等な、仲間??」
不思議そうに首をかしげてキョトンとなるリズ。まだ、対等な仲間という言葉にピンとこないみたいだ。
「そうだよ~~私たち、これからは一緒なんだからそんなにかしこまらないでよ。またさ、いいことがあったらこんな風に一緒に美味しいご飯とか食べようね」
そして、ニコッと笑顔を向けた。まるで太陽みたいな、眩しくて、明るくて屈託のない──かつて俺が絶望に浸っていた時に見せてくれたような、あの笑顔。
「まあ、一緒にいれば、それはわかるよ。これから、よろしくね」
言葉で言っても、分かりずらいだろう。それなら、これから行動で見せればいい。これからも、こうした時間を作っていこう。
「あ……ありがとうございます。こんな私ですが、よろしくお願いします」
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