第13話 暗い過去


 問題は見たところ、知識や歴史に関する問題6割。後は考察に関する文章問題といった感じ。


 知識は、基本的な魔術や聖魔法に関する問題。歴史は、人間たちと亜人との関係性。魔王軍との戦いの歴史など。


 愛奈に問題を教えるときも傾向と過去の問題からこんな問題が出るというのは予想していたし、現に問題は俺の予想した範囲ばかりだ。これなら大丈夫そう。


 もっとも、実技試験であれだけの圧倒的な差を見せつければほとんど合格のようなものだが。


 人間が亜人を「劣等種族」と称して不当に差別をしていたこと。魔王軍との対戦で、世界の2割の領土が焼け野原になり、今もその土地に住んでいる人が難民になり、この世界の争いの火種になっていること。


 そして、数時間後──。


 キンコンカンコンのチャイムと共に試験は終了。

 愛奈にとってずっと問題を解いていたので うーっと背伸びをした後振り返ってこっちを見てきた。


「じゃあ、帰ろっか。合格できるか不安だね」


「うん。でも予想した場所ばかりだったね」


「そうだけどさ。あの商人の人すごいね。疲れちゃった。甘いものでも食べない? 確か、ケーキとか売ってるカフェとかあったね。行こうよ」


「いいよ」


 そう言って、愛奈の機嫌がよくなる。そして、俺達はこの場を去っていった。何か、テストが終わった後の高校生みたい。


 数日後。ギルドで合否判定が出るとのことでギルドへ。結果は──合格。


「やったー! 合格おめでとう」


「よかったね、愛奈」


 俺にとっては当然の結果ではあるのだが、通知の紙に合格の文字が入っているのを見て、愛奈は大はしゃぎ。

 喜びながら、ハイタッチをする。


 偶然会場にリズもいて、確認したが赤髪のルヴィアと一緒に合格したみたい。


「やったー! 合格おめでとう」


「よかったね、愛奈」


 俺にとっては当然の結果ではあるのだが、通知の紙に合格の文字が入っているのを見て、愛奈は大はしゃぎ。

 喜びながら、ハイタッチをする。



「合格、おめでとう。これからも、よろしくね」


「あ、ありがとうございます」


 リズがこっちに来て礼儀正しく頭を下げる。そして、リズが顔を上げた瞬間だった──。


「あーイライラするぜ。クソが──なんで俺が落ちたんだよ」


「そうだ、あれで憂さ晴らししてやろうぜ。こいつ、絶対あれだぜ」



 リズの後ろで、不機嫌そうにひそひそと話しながら話している人。話を聞くに、試験に落ちてイライラしているのだろうか。そして、2人はリズの姿を見るなり何かを察したのかそっとリズの後ろに近づいて──なんとフードを勝手に取ってしまう。


 それも、フードを強引に後ろに引っ張って首元が見える状態にして。

 そして、リズの首から、衝撃的なものが視界に入った。


 金属でできた首輪──。リズは、慌てて悲鳴を上げて首輪を隠そうとするが時すでに遅し。周囲がそれに気づいて噂をしだす。


「マジかよ、あの女奴隷だったのかよ」


「見たぞ、絶対奴隷の首輪だろ」


 愛奈は──どうしてこんなことになっているのかわからず、キョトンとしたまま俺に耳打ちしてきた。


「首輪、あれどうしたの?」


 ああ、愛奈は知らなかったっけ。村は、偏狭な場所で奴隷が必要なほど労働力が必要になるなんてなかったし。


 俺は、愛奈に耳打ちして亜人と奴隷の歴史について教えた。


 リズのような毛耳をした亜人は何種類か存在している。うさ耳だったり、猫耳だったり。


 その亜人に共通するのが、人間との関係。人間たちから差別の対象にされ、大量の亜人たちが奴隷として扱われた。



 過酷な強制労働、あるいは欲望のはけ口。彼らに待ち受けているのは、そんな暗い運命だった。


 そして奴隷の証が、首輪。男2人がリズを蹴り飛ばして、突き飛ばしたリズを指さして叫ぶ。


「奴隷がいっちょ前にアカデミーに入ろうとしてんじゃねぇよ。力仕事でもしてろ。汚い小屋で生活してろ!」


「お前、どこかの主人から逃げてきたな? どこだよ、言えよ!」


 リズは目をうつろにさせ、縮こまってしまった。相当恐怖を感じているのがわかる。


「毛耳をして、フードかぶってるやつは基本奴隷だと思った方がいいぜ」



 首輪と毛耳を見た周囲がひそひそとつぶやく。大半が、汚いものを見るような目つきで話していた。


「マジかよ、奴隷なのかよ」


「うわぁ……せっかくアカデミーに来たのにあんなのと過ごさなきゃいけないのかよ」


 リズは顔を両手で覆って下を向く。隠したかったのだろう。知られたくなかった自分の過去。

 しかし男はそんな事気にも留めず、ニヤリと笑みを浮かべてリズの肩に手をポンと置いた。


「どうせ労働が嫌で逃げてきたんだろ」


「……はい」


 リズは、ぼろぼろと涙を流しながら、うつむいて答える。

 悲しそうな表情、奴隷だった時の処遇が容易に想像できる。でも、そんな事思いださえたくない。助けなきゃ。


 かばうようにリズの前に立って、立ちふさがる。


「ふざけるな。リズが傷ついているじゃないか」


「うるせー、毛耳ついた奴がいっちょ前に権利を主張してんじゃねぇよ!」


 亜人というのは、長年迫害や差別の被害にあってきた。だから、こういった意識を持つのも珍しくない。


 不当に差別を受けていたり、亜人たちを奴隷として扱ったりしていることがよくあった。

 過酷な戦いは終わっても、そう言った意識が根強く残っているのだ。


「つ、つらいなぁ」


 愛奈はしょぼんと俯いて、下を向いてしまった。やっぱり、そういった歴史を知ると暗い感情になってしまうのだろう。


 これから、そういったことを知る機会がどんどん出てくると思う。しっかりフォローを入れつつ、説明していこう。


 今は、リズのことに集中にしないと。

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