第12話 試験の結果
それからも、男に立ち向かった奴らは剣を交えるなり次々と場外へ。
そして男は後ろを向く。
男が攻撃を振るうなり、向かってきたやつらがまた吹っ飛ばされる。
他の奴らが攻撃しようと突っ込んできたが、結果は一緒。女の子を守るように数メートルほど動くだけ。表情も、全く息切れしていない。何もしていないかのような平然とした表情。
「本気を出す必要がないくらい、差があるってことかよ……」
残りの受験生たちの表情が明らかに変わる。焦燥感や、絶望が入り混じった表情。ああなったら、勝敗は決まったも同然だ。
「バラバラじゃだめだ、一斉にかかるぞ」
「ああ!」
自分たちとは強さが違うと理解したんだな。だが──まとめてかかったところで強さはバラバラ。男は後ろを向いて平然と黒髪女に話しかけた。
「愛奈、とどめ」
「はーい」
黒髪女は術式を放つ。変わった形の杖を集団に向けた。
「テンペスト・アタック」
大爆発を起こし、向かってきたやつらは一斉に吹き飛ばされ場外へ。
障壁を張った奴もいるが、薄い障壁は跡形もなく破壊され意味をなさない。
おいおい……Bランクはあるぜあの威力。しかも2人とも疲れをく見せていない。余力があるな。
待ってくれ、どーなってんだよ。推薦状がなくて埋もれてたやつの実力じゃねぞ。
「いいじゃん、あと少し。まだ1発打てる?」
「あと3発くらいかな。節約すれば後1発くらい」
Bランクだぞ? それを3、4発なんて国家魔術師でも上位層しかできないってのに?
「すごいじゃん」
「いや、遊希君のがすごいよ。Aランクの攻撃打てるんでしょ」
「まあね」
俺は耳を疑った。Aランク? それも自慢することなく澄ました表情で。
勇者クラスでも一部の奴しか使えない術式だぞ。明らかに、俺より実力が上。男に至っては、歴代勇者にだって勝てるんじゃねぇか?
黒髪女はほうほうと感心してるが、周囲は怯え切っているし俺だってドン引き状態だ。
「もう一発出来る? そしたら後は俺が始末するから」
「わかった」
「アトリビューション・ウィンディ」
黒髪女が杖をかざした瞬間、周囲の空気が杖に吸い寄せられていく。
そしてそれは竜巻となり、周囲の受験生が巻き込まれ、そのまま巻き上げられた。
今の攻撃で残りの受験生の7割が吹き飛んで広場の外へ吹き飛んだ。
ありえねえだろこんなの。
アカデミーの首席クラスでも10年に1人いるかどうかだぞ。思わず顎が外れるくらい大きく口を開け唖然とする。
「もっと強い術式なら、俺でよければまた教えるよ」
「ありがとー、私も早く遊希君に追いつきたいなー」
こんな奴が2人。どう考えてもおかしい。
確実に何かあるし、アカデミーでも何かひと悶着あるだろうな。俺は、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いだし見なかったことにしよう。何も知らない。
「記憶にございません」
関わっちゃだめだ、今の戦いは、忘れて結果だけ覚えてたってことにしようか。
俺、忘れっぽいな(棒)。最近忙しいからな、
もうこいつらとかかわるのはやめよう。何があっても見て見ぬふり。距離を取って他人事だ。
時折ヤバい一件に手を出したことがある俺の勘が、そう告げている。
そして、
ほかの受験生を全員戦闘不能にしやがった2人が余裕そうな表情でこっちにやってきた。
「えーと、全員倒しました。これでいいですか?」
俺は、笑顔を作って親指を立てて答える。出来るだけ刺激するな。俺は自分の仕事はやった。後は誰かが何とかしてくれるだろ。
「ああ、2人合格だ」
しかしまあ、この2人がアカデミーでどうなるのか、とっても楽しみだ。
翌日、俺と愛奈は筆記試験となる。
合格時におじさんから渡された次の会場の案内の紙を渡される。
筆記試験の会場は、大きなギルド内の施設を借りての実施だった。
おじさんの合格サインが入った案内の紙を渡すと、3階にある大教室へ。
以前の世界の学校の教室の様に、椅子と机が整然と並んでいる場所。大教室は受験生であふれかえっていて、人ごみのような状態となっている。これでも、会場は5つくらいあるんだっけ。田舎から来た俺たちにとっては、この世界に来て初めて見る光景だ。
案内された席の通り、俺が愛奈の後ろに座る。
50人ほどの人数が詰め込まれた部屋に、ローブを着た試験官らしき人。
時間が来て、試験が始まり羽のついたペンを執る。
問題をさらっと確認したが、1億回分の人生を経験した俺にとって生ぬるいものだった。
1000回目くらいの人生で手に入れたスキル「完全記録」(パーフェクトメモリー)。
自分の全ての記憶を思い出すことが出来るというスキル。当然、今まで生まれ変わったち知識や経験もすべて頭の中にある。そう、俺がやり直した数だけある──俺の死で涙を流してくれる愛奈の姿と、俺が愛奈を守り切れなくて──無残に死んでいく姿。思い出しただけで胸が痛くなる。
ただこれ、副作用もある。忘れることがないという事は、トラウマのような、胸が張り裂けるような記憶さえも思い出してしまう。
慣れるまでは、何度もトラウマがよみがえってしまっていた。それで、何度か愛奈に背中をさすってもらったり心配されたっけ。
しかし、それも愛奈を幸せにするというという目的のためだから仕方がない。
両手て両頬を叩いて、気合を入れる。今は、テストに集中。
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