第11話 入学試験


 男の人はそう叫んだ後、舌打ちをして質問に答える。


「面倒くせぇやつだなぁ。簡単だよ。それなりに実績があるやつはよぉ貴族から見込まれて推薦状を持参してきていてすでに入学を決めてんだよ」


「そうなんですね」


「あたりめぇだ。つうことは、ここにいるのは推薦状をもらえなかったクソ雑魚がほとんど。たま~~に貴族が目の目に触れていなかった奴がいるからそれを拾うっていう、ゴミ山の中からマシな石を拾うっていうドブさらいみてぇなクソ仕事なんだよ。だから、労力はかけたくなくてこうした」


「でも、万が一4組で強さが偏ったらどうするんですか? 不公平じゃありません?」


「まあ、それについては心配するな。万が一合格ラインの奴がグループに複数いたら、俺が特例で それなりに魔法の気配はわかる。いいな」


「ちっ──わかったよ」



「聞いてきたからわかってるけど、狭い門だな。まあ、それしかねぇか」


 受験生たちは、不満をたれながらも渋々といった感じで従う。

 グループ分けは、幸運にも自由だった。適当に話し合って決めろと言う感じ。俺は当然愛奈と一緒。


 周囲も、そわそわしながら周囲を見て4つの塊に分かれた。きっちり人数を数えているわけでもない、大体同じくらいの数。


 いい加減で、ざっくりとした数の塊。またあくびをした。俺達に対する熱意がうかがえる。

 ちなみに、リズと赤い髪の男の子ルヴィアもいて、別グループになっていた。2人も、受かるといいな。

 ……ポテンシャルはあるんだし、合格とは思う。


 そして、試験が始まる。俺達のグループは最初。200人ほどの受験生が、それほど広くないエリアに密集。


「そろったな。じゃあ始めるぞ。スタート」


 いい加減な口調でおじさんが言う。拍子抜けしたけど、この言葉を合図に周囲がざわつき始めた。

 それを見た愛奈が不安そうに耳打ちしてくる。


「なんか、みんな目がぎらついてるけど大丈夫??」


「まあ、もし入れればすごいからね」


 周囲を見ると、確かに愛奈の言うとおりだ。人生掛かってるんだから、彼らだって本気のはず。それでも、負けるつもりはないが。


 まあ、こんな試験で強力な魔法を使うつもりはない。悪目立ちなんて、するつもりはない。

 魔力の気配からして、そこまで強いやつがいるように見えない。せいぜい数人Eランクが数人いるくらい。目立たないように、けど愛奈が筆記でうまくいかなくても十分合格できるようにCランクレベルの力を出して合格しよう。


 愛奈が、額をかきながら上目遣いでこっちを見る。ちょっと困ったのか、苦笑い。


「えーと、私接近戦苦手なんだけど……」

 ああ、そうだったな。愛奈の攻撃はどれも遠距離魔法ばかり。


「わかった、後方から援護お願い。力を見せつけるように大技放っといて」

「はーい」

 後ろで手を組んで、後方に移動してこっちを向いた。

 今回、俺はそこまで派手に行く必要はない。魔法抜きで、剣術だけで近づいたこいつらを吹っ飛ばす。それで十分アピールできる。

 そして、愛奈に大技を出させて愛奈を筆記の前に合格圏に持っていく。


「じゃあ試験開始──場外に吹っ飛ばせばOKだからな。殺したりするんじゃねーぞ!」


「遊希君」

「ん?」

「みんなこっち見て、睨んでるよ」

「本当だ」

「私たち、他の人より小柄で、弱く見える……のかな」


 確かに、見た感じそうだ。俺達を「弱そう」とここにいる奴らが認識している。


 こいつら──ちょっと痛い目見せなきゃダメなのかな?







 試験官サイド。


「ふぁ~~あ、ちったあまともな奴が、いるといいがな」


 俺は大きくあくびをして、広場の端っこにある木延のベンチに腰掛ける。以前も見たことがある。


 アカデミーの選抜試験。それも推薦状もない期待値ゼロの集団。


 アカデミーから、イメージを損ねたくないからやる気のない態度を出さないでくれと言われた手前俺なりに親切に言ったつもりだ。


 本来ならこんな奴らを見捨てて、見込みのだけ育てりゃいいんだけどな。

「国立」アカデミーの立場として平民どもにも希望を見せる必要があるんだ、たとえそれが狭き門でも。


 建前として「すべての才あるものに扉を開く」とあるからな。まあ、建前ってのは大事だ。


 そう言っても原石なんて、いたためしがねぇ。平民どもに夢を見せるため数人取ってはいるが、入学したところで卒業資格を取ったやつは一握り。


 大半は、アカデミーでろくに通用せずやめてく。どうせやめちまうってのに、無駄な努力だよなぁ。かわいそ。


 ま、こっちだって仕事だ。それを組んでこうしてテストしてる。ダンジョン散策や魔物討伐と違って命の危険もない。それでそれなりの報酬があるんだから美味しいもんだ。


 食ってかなきゃいけないからな。

 一組目の戦いが始まる。




「あーあいつら終わったな」


 思わずつぶやく。試合が始まるなり、2人が取り囲まれた。


 あの弱そうな男女2人か。袋叩きにされるんだな、かわいそうに。まあ、ほんとに命の危機になったら助けてやるし、殺したら規則で失格になる以上そんなことはしねえだろ。弱いやつから始末するのは集団戦の定石ってやつだ。


 取り囲んでいる奴らが一斉に突っ込んでいく。ここに来るようなクズじゃあ一瞬で終わりだな。


 そう考えたその時。


 突っ込んでいった奴らがの身体が大きく後ろに吹き飛んだ──。








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