第9話 どれだけ、強くなっても
少しでも強くなるために、模擬戦。打ち込みをしたり、愛奈の魔力が強くなるように修行をしたり。
愛奈は──Bランクという今ではまだ破格の力があるが、この先戦いが激しくなっていくとそれでも力不足になりやすい傾向がある。
生き残るために、やれることはやっておきたい。
俺も、まだまだ強くならないと。
どれだけランクを高めても、強くなってもまだ足りないんじゃないかという衝動に襲われてしまう。どれだけ強くなっても、「これでいいや」なんて感情は全く生まれなかった。飢餓感というか、何をやっても足りないという衝動に襲われてしまう。今まで、あと一歩足りなくて俺自身や愛奈が死ぬことなんてことは多々あった。二度とそんな、思い出すだけで、目に涙が浮かんでくるようなことにはしたくない。
愛奈は休憩をはさんで、俺はその間は一人で剣を振る。
しばらく振って、愛奈がいる湖のふもとに戻る。
「疲れちゃった」
愛奈は額の汗をぬぐって、ちょこんと体育すわりになり湖に視線を向けた。
星空の光で湖透き通って見える。神秘的で、思わずきれいな景色に見とれていると、愛奈がこっちに視線を向けて、話しかけてきた。
「覚えてる?」
「何が?」
「えーと、16になって記憶が戻った日」
「ああ、忘れないよ」
そう、16歳の──俺たちがトラックにひかれて死んだ日。
俺の部屋。コンコンとノックして扉を開けると、愛奈が部屋の前にいた。驚いているのか、キョトンとしている。
「えーと、すごい記憶が、入ってきた」
「お、俺も……」
まあ、いきなり16年分の記憶が入ってきたら驚くよな。けど、それが前世の記憶だとすぐに理解したのか、ポケットからオレンジのリボンを取り出すと、ロングヘアだった髪を巻いて、ポニーテール姿になる。そして、優しい笑みをこっちに向けてきた。
前の世界での、愛奈がいつもしていた髪型。昔の記憶を思い出したっていう事のアピールなんだと思う。
そして、明るい性格でこうして笑顔を振りまいていた。
「覚えてるよ。驚いちゃったよね」
「まあね」
確かにそうだよな。周囲に言うわけにもいかないし。
それから、愛奈は再び視線を湖に向けた。
「えーとさ。私たち、これからも一緒に旅するんだよね」
「まあ、そうだね」
「だったらさ、考えてることとか、ちゃんと言い合ってもいいと思うんだよねぇ。あんましわだかまりとか抱えるのも、よくないじゃん」
俺をじっと見ながら、首をかしげる。何か、思うところがあるのだろうか。
「え、えーと。もっとさ、隠し事とかしないで色々話したいな。」
「別に、隠してないよ。何かまずいこと言っちゃった?」
「そうじゃないんだけどさ、遊希君さ、いろいろ知ってるよね。アカデミーの試験の過去問の事とか、それにこの世界の知識とか詳しいし」
そう言って微笑しながら再び湖に視線を向けた。確かに、俺は色々と隠してることに変わりはない。中には、ちょっとしゃべり過ぎちゃったかなって思うところもある。その時は
多分、まだ何か考えてるな……。愛奈、こういう時の人を見る目はすごいからな。コミュ障の俺とは、接してきた人の数が全然違うからな。
何度やり直しても、こんなシーンはやってくるし、ドキッとしてしまう。何度か考えたけど、最善と言える答えは結局出なかった。
「ま、まあ、1人でいるときに商人の人から極秘に聞いたり、教会にある本を読んで、そ、そこから知識を得たりしてた」
「……わかった」
これくらいしか返せなくて、愛奈はやさしい笑みのままコクリと頷く。絶対納得してないなこれ。ただ、何か言えない理由があるのは察してるのかこれ以上追及はしてこなかった。ほっとする。
おせっかいで勘がいいからこういうことはこれからも起こりそう。裏を返せばそういう困っているのを放っておけないところがいい所なんだけど。
だから、死んでほしくないって心の底から思えるんだよね。だからこそ、俺を救ってくれたんだし。
これについては、これから一緒に行動するうえで、信用を獲得していくしかない。それが答えだ。今は、それしか言えない。
それから、俺達は今日の寝床へ。毛布をかぶって布団に入ろうとする。入ろうとして、目の前の光景が視界に入る。
ステンドグラスから星の光が礼拝所に差し込んで、その光で女神の銅像や幾何学模様の壁。絵画がうっすらと光を帯びていて、とても神秘的で美しく見える。ガラス自体も、光で乱反射していて、
思わず、すでに寝っている愛奈の肩を叩いて起こし、その景色を指さす。
「すごい。綺麗」
「だね」
愛奈も、食い入るようにその景色に見とれていた。
「なんか神秘的。夜の教会って、すごいね」
「うん」
これだよな、教会で寝る利点。ステンドグラスから差し込む光で、神秘的な中が一層綺麗に見える。
何度見てもその姿は美しく感じる。
当然、疲労具合とか考えたら金をかけてでもホテルで泊まりたいんだけど、一度だけ愛奈に見せてあげたいな、とは思っていた。
それを考えたら、ちょうどいい機会かもしれない。
翌日。
礼拝を終え、出発の時間。神父の人にお礼を言って頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「いいえ。ご多幸をお祈りいたします」
神父の人は、嫌な顔一つせず寝場所を与えてくれた。とてもいい人だ。
けどさすがにベンチに一泊だとちょっと疲れが残る。今日こそは、ホテルを取ってふかふかのベッドで寝よう。
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