第8話 亜人と差別


 バッと男の子がフードを取ると、それに気づいた女の子が悲鳴を上げて頭を覆う。

 ウサギのような毛耳が生えている小さい女の子、亜人だったのか。


「うわぁぁ、こいつ亜人じゃねぇか」


 男の子が叫んで、周囲の視線が女の子に向く。女の子はすぐにフードを掴んでかぶってうづくまる。そして、毛耳を掴んでぶん回すようにして女の子を振り回す。女の子は痛そうに「やめて」と何度も叫ぶが、男の子はやめようともしない。


「マジかよ! 教会が汚れるから来るんじゃねぇよ!」


出―てけ! 出―てけ! 出―てけ! 出―てけ! 出―てけ! 出―てけ! 出―てけ!



 男の子に続くように、はやし立てる子供たち。女の子は怖がって涙を流し、怯えながら何度も頭を下げる。心の底から怖がっているのがわかる。


「ご、ご、ごごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 流石に停めないとダメだな。残念だが、子供たちは残酷だ。こうなったら、誰かが止めるまで止まらないだろう。

 そう思って、愛奈を向いて、互いにコクリとうなづく。


 そして俺は子供たちの間に立つ。


「おいやめろ」


「ダメだって!」


 間に立っても、子供たちは誹謗中傷をやめない。どうするか、殴ってもいいんだけど。子供たちを見ながら考えていると誰かが俺の隣に立った。


「みんなやめなよ」



 そう言ったのは、女の子と同じくらいの背の、赤い髪の男の子。つんつん頭が特徴。

 協力してくれる子もいたのか。そういう事実は、やっぱりうれしい。

 そうだ、迷っている場合じゃない。止めないと。


 いじめている子の1人が、石を投げつけようとして、俺と愛奈が間に入る。女の子の両肩を抑えるようにかばいながら、いじめられている女の子の隣に立った。


「教会で不謹慎だぞ」


「うるせー! 神聖な場所に、亜人なんかが入ってくんじゃねぇよ」


「そうだ。とっとと帰れよ」


「そんな事言わないでよ」



 戸惑いながら言い返す愛奈。こいつらの差別感情に戸惑っているのだろう。

 村でも、そんな感情を持つ奴がいたが──ここまで露骨ではなかった。決して豊かではない中、一緒に戦って生きる仲間という感情だってあったし。けど、この世界はそんな場所ばかりじゃない。残念だがこういった強い差別を強む持つ人だってたくさんいる。


 ここは、そう言う場所なんだ。


 俺は、女の子の肩を持ったまま強く子供たちを睨みつけた。


「教会がどんな所かわかってる?」


「うるせー、あんな劣等民族と同じ場所にいたくねぇってんだ」


「そんなところで、差別的なことが許されると思ってるかな?」


「黙れよ。偉そうなこというんじゃねぇよ」


 子供というのは残酷だ。時に、自分と違う人を差別し、排除しようとする。さて、どうしたものか。


 子供の一人が叫んだその時、礼拝堂の扉がキィィィと開く。視線を向けると、そこに神父の人がいた。


「皆さん。神様の前では──すべての生きるものは平等です。そんな神様に祈りをささげる場所で、このような無礼は許されません。理解してくださいね」



 優しくも、さっきより強い物言いで言う。よかった、ここの人が言えば、子供たちは従うしかない。子供たちの罵声が止んだ。


「そうだよ。それが嫌なら、ここを去るしかないね」


 不満そうな表情で何かぶつぶつとこぼしながらも、聖職者の言葉にはさすがに逆らえず、女の子に暴言を吐かなくなった。


 そして、各自自分の席へと戻っていった。


 これで大丈夫か。よかった、ほっと一安心して女の子の髪を優しく撫でる。


「もう大丈夫だよ」


「あ、あ、ありがとうございます」


 女の子は怖かったのだろう。体を震わせながら涙をぬぐって、こっちに視線を向けた。気弱そうだとはいえ、あんな目にあった後だ──こうなるのも無理はない。


 あと、両肩に触れた時から感じていた。彼女からあふれ出る膨大な魔力。今までずっと生きてきたけどここまで体から発せられる魔力はすごいのはそう相違ない。最低でもBランク、もしかしたらAランクは行けるかもしれないな。

 ポテンシャルすごいんだな、この子。


 すると、愛奈が膝を屈んで、目線を女の子に合わせて笑みを作って話しかけた。


「そういえば、名前聞いてなかったね」



「……リズ」


「リズちゃんか、かわいい名前だね」


「ありがとうございます……」


 ちなみに、男の子の方も話しかけたら名前はスペ=ルヴィアだそうだ。ルヴィアか。

 リズは愛奈の笑顔を見て、表情が明るくなる。こんな人見知りだったり、周囲への不信感があるような子でも愛奈と話していると心を開いてしまう。そう言うところは、素直に憧れるよなぁ。俺には、多分無理。会話が2.3回続いて──沈黙が続くだろう。


 それから、唯一助けようとした赤の髪の子がリズの隣へ。


「大丈夫?」


「はい。皆さん、ありがとうございました」


 うっすらと、目に涙を浮かべて喜んでいた。けど、あんないい子もいるのか。あの子を助けようとした戸外立っているのは、少しほっとした。

 それから、礼拝の時間。みんなで、立って神父さんの言葉を聞きながら目をつぶって、祈りのポーズで一緒に礼拝。



 終わったら、日が暮れるまで特訓。街から人里離れた場所で愛奈と一緒にいた。

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