王都・アカデミー試験編
第7話 飯より宿
アカデミーへの移動の道中、小さな村で泊まったり、森で現れた魔物や襲ってきた動物を狩ったり。
休むときは、筆記試験対策。寝っ転がりながら、愛奈と勉強。
基本的に試験は実技試験中心で強くて見込みのある者を合格させる方針となっている。2人1組で挑めるため、俺が目をつけられない程度で暴れれば問題なく突破できるだろう。
後は筆記。
まず、アカデミーの人たちは保守的な人が多く、基本的に今までやったことがないようなことはしない。
徹底した前例主義という奴だ。
今までずっと実技の配分が多く、筆記は最低限といった感じで今年も似たような傾向だと予想できる。
だから、いつも問題は似たような問題だったり、数年前の問題がそのまま出てきたり。
そして、そんな集団が作る問題──当然前例主義的な問題ばかりになるし、今まで受けた問題はそんな感じだった。
俺は何度も生きた中で、すべての過去問を暗記している。それさえやっておけば、合格できる配分だから問題はない。
「問題、詳しいねぇ」
「まあ、あった商人で──アカデミーを何度か受験した人がいてさ。その時の問題とか、傾向とか、聞いたんだよ」
「ふ~~ん、そうなんだ」
突っ込まれて、ちょっと驚いてしまった。愛奈、周囲に関しては敏感で勘が優れている所がある。この先も、知っているからといって必要以上に行ってしまうとこうなってしまう可能性が高い。
今回は納得してくれたけど、次からは気を付けたほうがいいな。
そんな旅を数日続けた後、俺達は中間地点ともいえるティンバーに到着。
ここから次の街までは一山超える必要があり、今から一休憩してから行くと山の中で一夜を過ごさなくてはならない。
夜の安全性の他に、食糧なども買い込む必要もある。よって、今日はここで一泊。
にぎやかな出店が立ち並ぶエリアに入った習慣、愛奈は周囲を見ながら困ったようにお腹を撫でながら言った。
「お腹空いた~~」
「俺も。宿が決まったらなんか食べようか」
「決まるといいねぇ」
──飯より宿──
これは俺がこの世界にいた中でトップクラスの格言といってもいい。
街に着いたら、まずは泊まるところを探す。食事なんて、その後にゆっくりとればいい。
朝、ドライフルーツを食べてから何も食べてないから、早く食事をしたい気持ちはわかる。俺も正直お腹が空いている。ただ、宿の部屋は有限だしゆっくり食事をして宿を取ろうとしたら前に並んでいた人で満員になって──近くの広場をキャンプ地にして一夜過ごしたなんてこともあった。
宿をとるのが理想だが、主要街道の街だと、冒険者だけでなく様々な商人などが飛び交うため満員になることがある。
一応、俺一人なら野宿でもいいんだけど愛奈がいる手前、当然そうはいかない。街によっては治安が最悪で寝ているうちに身ぐるみを全部はがされることだってあるからな。
そして、街のホテルの場所を聞いて──全部回ってみる。1か所1か所。ダメなら別の場所を聞いて。
「申し訳ありません」
「まじかー」
申し訳なさそうに頭を下げられ。どうすればいいか戸惑う。なんと、街の(とはいっても小さな街なのでそもそも数か所しかないが)すべてのホテルが満員だったのだ。
そういえば、ここもロディニア横断ベルトという、王国の東西を結ぶ要所だったな。
とぼとぼと街を歩く。今日中に次の街まで行くのは不可能、それなら……あそこしかないかな。自分の頭をかきながら愛奈から視線を逸らす。
「えーとさ、今日なんだけどさ」
「なんかあるの?」
「教会でいい……かな」
最低でも、屋根があって雨風がしのげて、愛奈でも安心して泊まれるところ。教会なら、盗賊みたいなやつもいないし──
色々人は集まってこれからの手掛かりになりそうなところという利点もある。金欠だったり、一人や男だけの時は、たまに神父の人に頼み込んでベンチで寝てたっけ。
というかそれ以外に選択肢がない。愛奈も困った表情をして後ろで手を組んでいたが、諦めたのか仕方がなしにコクリとうなづいた。
「ううん。しょうがないかな、いいよ……」
「ありがと。次は最低限、安心して寝れるところを探すから」
そう答えるしかなかった。ふかふかのベッドで寝かせてあげたかったなぁ。次は、高くてもちゃんと寝られるところにしたい。
街の外れ、キレイな湖のほとりにある大きな協会にたどり着く。扉をコンコンとノックすると、白いひげを生やした、黒い服を着ている神父っぽい人が出てきた。
「礼拝の時間以外なら、問題ないですよ」
「ありがとうございます」
2人で頭を下げて、教会の中へ。優しい人でよかった。
入ると、神秘的な風景の絵画に、女神様だろうか──祈りをささげている女性の銅像。
俺と愛奈が同時に頭を下げる。取り合えず、泊まるところが決まってよかった。気持ち的にも、落ち着いてくる。
「いえいえ。あと、日没前に礼拝の時間があるので、その時だけ──荷物の方お願いします」
「わかりました」
礼拝の時間は、どうしても人が集まる。せっかく人が集まる時間なのだから、いろいろ話を聞いたり情報を集めたりしよう。
それから一度繁華街に戻って食事、保存食や衣類。道具をいくつか買い込んで再び教会へ。
もうじき礼拝の時間らしくぽつぽつと人が入り口にいる。早く荷物をどけないと。
荷物を神父の人の部屋に置いた後、俺達も大広間へ。神父の人がすでに扉を開けたようで、中に祈りをささげる人がちらほらと入ってくる。
老若男女問わず、十数人ほど。そんな中、俺達がいたベンチにちょこんと座っている人がいた。
フードをかぶった、茶色の杖を持った女の子。前髪が右目にかかっていて、祈るような表情で前にある女神さまの銅像を見ていた。
それから女の子は、なにかに怯えているのか、おどおどしながら周囲をキョロキョロとみている。すると、後ろから男の子がベンチに乗り出して、フードを掴む。
「お前のことは、分かってんだよ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
☆ ☆ ☆
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