第4話 村への奇襲
村の冒険者たちは、地上に降りてきたガーゴイル・ワイバーンと交戦を始める。こいつらせいぜい中級の悪魔といった感じで俺やBクラス相当の実力のある愛奈なら楽勝。が、一般冒険者にとっては10人がかりで戦ってようやく倒せる代物。
戦っている人たちは、全力で剣を交える。しかし、どこからともなく大量のゴブリンも現れ、ゴブリン、ガーゴイル・ワイバーン、村の冒険者たちが入り乱れる大乱戦となる。
残念ながらこの村には、戦場を全体的に見る指揮官みたいな人はいない。こうやって戦いの規模が大きくなると、各自が思い思いに目の前の敵を攻撃していくだけの大乱戦になってしまう。
ただ、いない以上ないものねだりをしても仕方ない。とりあえず、ドラゴンを倒すのが先。あんな雑魚たちは、倒してからでもどうとでもなる。
俺と愛奈はドラゴンと向き合う。愛奈が目をつぶって詠唱を唱えた。
邪悪を蹴散らす力の塊よ・今カオスの魂となって顕現せよ!
ネオエクシード・ライトネス・ロッド
光り輝く大きな杖。杖の先端には、オレンジ色の大きな玉。聖女である、愛奈らしい杖。俺と違って、とても美しくてきれいに見える。思わず見とれてしまった。
愛奈は、不安そうな表情をしている。
「つ、強そうだけど……大丈夫かな?」
「大丈夫。勝てるよ」
自信をもって答えた。愛奈なら問題ない。このレベルの敵なら問題なく倒せる。早く終わらせて、周囲の助けに行かないと。
ドラゴンは、俺達を敵だと認識したのだろう。口から炎を吐き出してきた。
ちょうど愛奈がいた方向。この威力なら、十分受けきれる。
「聖なる守護の象徴・顕現せよ・ファイアーウォール」
愛奈が杖を前に出した瞬間、大きな炎の障壁が出現。ドラゴンが放った攻撃を見事に防ぐ。愛奈なら大丈夫。強いから。
「愛奈ちゃん、やっぱりすごいね」
「え、ありがと」
周囲の冒険者たちが愛奈を褒めたたえる。愛奈、恥ずかしそうに照れていた。
確かに、ドラゴンの攻撃を防ぐにはBランクレベルがないと防げない。だから愛奈でしかこの攻撃は防げない。
ドラゴンの強さ、そしてそれを防いだ愛奈の強さを理解しているのだろう。
ただ喜んでいる場合じゃない。このスキに一気に決めないと。守っているばかりじゃ勝てない。愛奈が出した障壁を飛び越えて、ドラゴンと正対。
このドラゴンなら、俺一人で大丈夫。
「ここは俺一人でいい。愛奈は別の人を助けてあげてくれ」
「わかった」
愛奈はくるりと踵を返して、苦戦している人の所へ向かっていった。ドラゴンに視線を移す。
ジャンク・ランスロットを手に取りそれをドラゴンに向けた。
不格好で、特にカッコよくもない長めの剣。
本来、Fランクが扱う俺には似合ってる武器。俺がかつて、最弱のランクだったことの名残。元々は、何の能力もない平均以下の武器。
しかし、幾多の転生での強化によって、無限の強さを得ている。剣をドラゴンに向け、軽く呪文を唱える。
余りデカい呪文だと目立つから、これでいいか。
スターダスト・ライジング・ボルテックス
その瞬間、ランスロットが黄色く光り出し、その光が大きな玉となり剣先へ。ゴロゴロと音が鳴る球、体を1回転させ雷がこもった球をドラゴンにぶつけていった。
雷がドラゴンに直撃。ドラゴンは悲鳴を上げ、一瞬体制を崩して落下しそうになったが、すぐに体制を立て直す。
さすがに1撃じゃ倒れないか。本当ならS級魔術を出せば一撃だが、そんなことしたら目立つ。あれは、物理原則をも超越する力の持ち主が術式。こんな村で生活している人が使っていいものじゃない。Bランク程度に弱めて攻撃を加える。
後1~2発も打てば倒せそう。
そうしている間にも、周囲にいたガーゴイル・ワイバーンが突っ込んできて、すぐに斬り落とす。
一度斬ってわかったが、ここにいるガーゴイル──さっきまで見たやつとは違う。寄生されている。
肉体から、他のガーゴイルにはないオーラのようなものを感じる。周囲を見ても、いつものより強化されているように見える。
今まで見てきたガーゴイルより、闇のオーラが強い。誰か、こいつらに力を与えているんだな。
そして、そのガーゴイルがこっちに向かってきた。オーラのようなものが出してきたのは──触手。
マジかよ。細長いピンクの触手。触手からはたらりと垂れるような粘液がにじみ出ている。
あれ、知ってるすごいねばねばで、服を溶かす奴だ。粘液もとてもドロドロで、一度まとわりつくと取るのに時間がかかってしまう。おまけに気持ち悪い。
ドラゴンの攻撃に対応しながら愛奈が心配になって戦況を見守る。
愛奈は再び障壁を張って攻撃を防ごうとする。マズイ……直線的な障壁だとあれは防げないぞ。
心配は的中。触手の束は愛奈が作った障壁を潜り抜け、愛奈のほうにむかっていく。
そして愛奈──。
の隣にいる冒険者のおじさんに襲い掛かった。
恐らくだが、魔力の強さをこいつは理解できる。Bランク相当の愛奈ではなく、Dランク相当のおじさんに向かったのだろう。
おじさんは触手から逃れようと暴れながらもがくが、柔らかく鞭のようにしなやかな触手は全くびくともしない。どんどんおじさんの肉体に絡みついていく。
粘液がおじさんの服を少しずつ溶かしていき、おじさんの毛むくじゃらな肉体にまとわりつき始めた。
仕方ない。愛奈の方を向いて叫ぶ。
「愛奈、俺が助ける。愛奈はあのドラゴンに一発ぶち込んでくれ」
「ごめん、わかった」
愛奈は、残念そうな表情をする。それを見て、俺も罪悪感を感じてしまう。ごめん。
愛奈は──力こそBランクはあるが強い敵の経験がない。だから、単純に強い火力で殴ることはできるけど乱戦で、敵がどんな奴を狙って来るか、みたいな予測ができない。
というか、この村にいる限り上級クラスの魔物との戦いなんて望めない。
だから早く村から出て戦いに参加していかないといけない。そんなきっかけがあればいいんだけど。
そして、愛奈と入れ替わり、触手に絡められたおじさんの元へ。剣を何度か振りかざし触手を一斉に切断。そして、触手元のガーゴイルに突っ込んでいく。
ガーゴイルは黒板をひっかいたような奇声を上げこっちに突っ込んできて交戦。一瞬でガーゴイルの肉体を真っ二つに分断。
「大丈夫ですか?」
倒れこんでいるおじさんが嫌でも視界に入り、その姿に思わず引いてしまう。
触手によって体は拘束されていて、ぬるぬるの粘液まみれで服が半分溶けている。毛むくじゃらな肉体の大部分が露出してしまっていて、悲惨極まりない姿。
「医療班が後ろにいるので、手当てしてもらってください」
「す、すまねぇ。こんなカッコ悪ぃとこ見せちまってよぉ」
「いえいえ。生きていて何よりです」
そうだ、親しい人が一瞬のスキを突かれて、首をはねられて苦い思いをするなんて数えきれないほどあった。生きているだけで、十分だ。
そしておじさんが撤退するのを確認してから、愛奈が戦っている方へ視線を向ける。愛奈はドラゴンの攻撃を何とかかわしながら自身の杖をドラゴンに向ける。そして、杖が強く真っ白に光った。
愛奈の強力な術式が来る。
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