第3話 最初に生まれた村



「ここかよ……」


 生まれたばかりで、よちよち歩きで周囲を見回して、気づいた。

 何の因縁か、俺が最初に転移した村「サルガッソ」。よりによってここか……。


 姑息な村め──。


 のどかで人は悪くないのだが、閉鎖的なところがある。

 初めて転生した時、スキル「聖女」だった愛奈は最初差別を受けていた。「こんなスキルの子が偏狭な村から出るのはどうかしている」と──。あの時は、愛奈が圧倒的な癒しの力を見せ周囲を納得させていたが。



 だから、あまりいい思い出がない。それでも、やってかなきゃいけない。




 そして、俺の隣の家で愛奈が生まれ、16歳になって記憶を取り戻す。

 俺の戦いが、再び始まる。





 俺達がこの村で育ち、16歳になって愛奈が記憶を取り戻してから一週間後。

 村の中心広場では、1月に一度やってくる商人の人とのやり取りが行われていた。王都や大都市から遠く、ジャングルに囲まれた村。村で採れるもの以外は、商人が持ち運んでいる物がすべて。

 俺と愛奈はこの日のためにと栽培したり森で採ってきたものを袋から取り出し、手に取る。


「ナツメグっていうんだけど、」


「おおっ、いつもの」


 ここら辺に生えてるニクズクの種子を粉末にしたもの。

 この辺りで採れる香辛料の一種。王都では香辛料として人気があるらしくよく商人が買い付けに来る。


 高値で売れるので、こっちも空いた土地で栽培したりジャングル散策していて見つけたら採取したりしているのだ。


 そして、俺達が欲しているのもだいたい決まっていたし、商人のおじさんもそれを理解して品ものを用意していた。


 ここでは取れない食料や、動物や木の実の採取をするときに使える小道具。それから。


「早く、コーヒー豆が欲しいにゃあ」


 猫耳をつけている亜人の女の子がワクワクしているのか、ぴょんぴょん跳ねさせながら言う。確かに、俺もたまには飲みたい。水と簡単なお茶しか、最近は呑んでないし。


「カプチーノだっけ、愛奈ちゃんが作ってくれたやつ。また飲んでみたいよ」


「OK、交換が終わったら作るね」


 愛奈がウィンクして言葉を返す。


 愛奈は、ここで覚えたコーヒー豆の加工方法と、俺の前の世界での記憶による指導で色々なものを村人たちにふるまっていた。それと、高いランクでの活躍と合わせて、この村での信頼を勝ち取っているのだ。


「なんだけどさ、コーヒー豆。今回は貴族の買い占めがあってこの村まで回せそうにないんだよね。いつもの半分しか用意できなかった」


「マジにゃぁ。愛奈ちゃんの煎れたコーヒーが飲みたかったにゃぁ」


 それから、商人の人はもう一つの麻の袋を取り出し、縄の封を開けて中にある物を手ですくって見せてきた。


「何それ」


「代わりになりそうなものを仕入れてきた。ジョガマヤという産地で取れた、特製の紅茶でさ」


「へぇ~~紅茶? ここだと初めて聞いた」


 愛奈は興味津々そうに商人が出した茶葉に


 袋の中にある紅茶。匂いを嗅いでみると、

 転生前の世界の茶葉と比べても遜色ない香り。


「大豊作で大量に取れたみたいで、よかったら交換しようか?」


「わかった、コーヒー豆と紅茶の茶葉。こっちが出したナツメグの分交換してくれ」


「了解」


 俺達が集めたナツメグ。それから衣類に使えそうな色々な動物の毛皮やこの辺りで採れたものを交換に出した。


「今回も、いいものに交換してもらったな」


「まあね。これで美味しいコーヒーが飲めそうだ」


 珍しく色々なものが手に入って、上機嫌な村人たち。のどかで明るい雰囲気が流れている。そんな時だった。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォ──ン!!


 北の方か。遠くから、何かが爆発したような大きな音が聞こえ始める。


 周囲もそれに気が付いたのか慌てて周囲を確認し始めた。


「なんだ?」


「わからない。戦える奴は準備してくれ」


「戦いだにゃ」


 一気に雰囲気が張り付くこの場。すぐに、召集がかかり俺や愛奈、戦える冒険者たちは武器を取って爆発音がした方の森へと向かっていった。


 森をしばらく進んでいくと、動物の叫び声のような声が聞こえる。

 それから、再びさっきのような爆発音。今は森に放っているが、あれが村に放たれたら、犠牲者は途方もない数になるだろう。その前に、何とかしないと。


 そして、その瞬間暗くなったような気がして上空を見る。すぐに巨大な物体が宙を待っていて、光を遮っているのだとわかった。


 陽の光を遮っている存在。森の中から存在が見えて理解できた。まさか、この村でこの存在を見るとは思わず驚きはしたが。


「なんだあれ、デカい物体。見たことないぞ」



「あれ──聞いたことがある。ドラゴンだにゃ」


 そう、猫耳の女の子の言葉通り、空を飛んで攻撃を繰り返していたのはドラゴンだった。

 巨大で、蛇のように細長い身体。そこから生えている細長い腕、鋭いかぎ爪と灰色の翼。


 ドラゴン──その姿に、見ていた村の冒険者たちに恐怖が伝わってくるのがわかる。



「俺達じゃあ、手に負えねぇよ」


「勝てないにゃぁ」


「待てよ、ドラゴンなんて聞いたことがないぞ」


「勇者クラスで初めてまともに戦えるあれだろ?」


「ドラゴンって?」


 動揺を隠せない村人をよそに、愛奈がこっちを向いてキョトンとした表情で聞いてきた。ああ、愛奈にはまだ言ってなかったっけ。


「伝説上の生き物だな」


「伝説って?」


「ああ、古来から伝わる伝説上の生き物だ。他の生き物を圧倒する力を持ち、感情を高ぶらせたものはその街一つを消し飛ばす代物」


「そんなに強いんだ」


「強いやつはな、こいつは中の下クラスだからそこまでの強さじゃない。それでも、小さな村なら焼け野原にする強さはある」



「そ、そうなんだ……」


 こんなところでドラゴンに遭遇するとは。この村人たちじゃあとても手に負えない。俺なら力を出せば楽勝だが、今まで俺はおかしい子供だと悟られぬよう放出する魔力のレベルを調整していた。ここでドラゴンを倒したら──その努力は水の泡だな。明らかに実力を偽ったってことになる。何か言われるかもしれない。


 聖女という事に2度も疑惑の視線をむけられた、愛菜のように。


 あと、こっちに敵意を向けているのはそれだけではない。

 それから、ドラゴンを取り囲むようにして羽を広げて飛んでいる化け物が視野に入る。


 ドラゴンが1体なのに対し、こっちは空を覆うような群れ。確実に100体はいる。


 肉体は闇の力を象徴する灰色のオーラを纏い、黒い蝙蝠のような翼と細長い身体。サイズとしては、2.3メートルはある。


 あれっ確か──悪魔の使い魔と称された中級悪魔「ガーゴイル・ワイバーン」

 あれも、ドラゴンには及ばないもののCランクはあろう強さの魔物。


「遊希君、戦うよ」


愛奈はこっちを向いて、杖を持って言う。俺はコクリとうなづいた。威勢がいいのはいいけど、村人が怯えている。このままだと、被害が拡大する。仕方がない──。


「わかった。皆さん、剣を取って戦いましょう!!」


「お、おう」


「そうだな。村を焼かれたら、どの道おらたちはおしまいなんだ」


さすがに、村が焼かれるかもしれないのに手をこまねくわけにはいかない。村人たちは動揺しながらも、それぞれ武器を持って戦いに参加していた。










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一兆回異世界転生をやり直した勇者、最強の力を持つ『魔神』となり無双する  ~~何があっても絶対に幼馴染を救うまで転生し続ける勇者と何があっても絶対に周囲のために自分を犠牲にしてしまう幼馴染聖女~~ 静内(しずない)@~~異世界帰りのダンジ @yuuzuru

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