第42話 星霞璃月③ ★星霞視点★
【星霞璃月視点】
「は、速い……」
私の目の前で繰り広げられる光景に、ただ唖然とするしかなかった。一緒に戦いたいと伝えた翌日、休日を利用して暁とアイリスさん、凜ちゃん、そして私の4人でダンジョン探索に向かうことになった。
私たちが一緒にいることで、暁は聖域スキルの防御結界を展開できない。けれど、それが彼にとってまったく問題になっていないのが驚きだった。スキルレベル75に達した彼の身体能力は尋常ではなく、前衛としてダンジョン内を縦横無尽に駆け回っている。
「暁、本当にこれが人間の動きなの……?」と心の中で呟いてしまうほどだ。
それに加えて、彼には防御結界以外のサブスキルがあるらしい。聞けば、空中高速移動と物体創造が可能だという。
(そんなスキルが存在するなんて……やっぱり暁はすごい……)
彼はそのスキルを駆使して、敵モンスターの隙を見極め、次々と攻撃を叩き込んでいく。彼が手に持っている棍は、彼が以前にランクCの甲殻虫の甲羅を使って作成しており、凄まじいぐらいの耐久性があり、剣撃はまるで踊るように滑らかで、見る者を魅了するような美しささえ感じた。
アイリスも同じく空中高速移動と物体創造を使いこなしている。何故か彼女も同様に防御結界が使え、防御結界が展開された棒で、いともたやすくモンスターを叩き割っている。彼女と暁は息の合った連携攻撃を繰り広げていて、そのスピードと精度にはただただ圧倒されるばかりだ。
「どうして2人は、同じスキルが使えるの?」と疑問が頭をよぎった。一緒にパーティを組むことでスキルが共有されるなんて話、聞いたことがない。それでも、2人の動きは完全にシンクロしていて、まるで長年のコンビのように敵を次々と蹂躙している。
ランクEのモンスターが大量に出現しても、彼らにとってはまるで子供の遊びのようだった。狼型モンスターが集団で襲いかかってきたが、アイリスが空中からモンスターを牽制しつつ、暁がその隙を突いて次々と仕留めていく。
「凄すぎる……」私は無意識に呟いた。
そんな彼らの戦闘に目を奪われていたが、実はその背後で凜ちゃんがサポートスキルを巧みに操っていたことにも気づく。
(なるほど、凜ちゃんが後衛でモンスターの動きを鑑定してるから、暁君とアイリスはあれほど自由に動けているんだ……)
凜ちゃんは「真贋の眼」の効果を駆使し、敵の本質を見抜きながら最適なサポートをしている。罠を見抜き、敵の動きを予測して指示を出す彼女の存在が、チーム全体の連携をさらに強固なものにしているのだと理解した。
「璃月さん、大丈夫ですか?」暁が振り返りながら、私に声をかける。
「あ、うん!大丈夫よ!」
だけど、その瞬間、暁の目に宿る鋭い光と優しい笑みを見て、私は心臓が一瞬止まるかと思った。
(こんな人と戦えるなら、私はもっと強くならなくちゃ……)
新たな決意が胸に宿る。暁とともに戦うには、今のままでは足りない。彼の隣に立つために、私はもっと強くならなければならないと強く思う。
私は凜ちゃんの護衛的な役割で振舞っていたので、2人の討伐を逃れた、狼型モンスターがこちらに向かって来た。
「えいっ!」
全力で剣を振るったものの、狼型モンスターは鋭い動きでその一撃を避け、逆に鋭い爪を向けて私に飛びかかってきた。
「危ない!」
瞬間、凜ちゃんが私を横に付き飛ばしたため、そのおかげでなんとか距離を取ることができた。
「璃月さん、落ち着いて!モンスターの動きをよく見て!」凜ちゃんが私の横に立ち、声をかけてくれる。凜ちゃんは、アイリスさんにもらった棒を思い切り投げつけ、狼型モンスターを後方へと吹き飛ばした。
「ご、ごめんなさい!」私は汗を拭いながら返事をしたものの、正直かなり焦っていた。
暁とアイリスが次々とモンスターを蹂躙していく中、私はどうにか戦うのがやっとだった。体が思うように動かず、スキルの発動もタイミングをミスすることが多かった。
「璃月、次は左だ!狼が飛び込んでくるぞ!」暁君が指示を飛ばしてくれる。
私はその言葉を聞いてすぐに剣を構えたものの、狼の素早い動きに対応しきれず、避けるだけで精一杯だった。
「あ、危ない」
アイリスが空中から生成した巨大な岩を落とし、その一撃で狼を仕留めた。
「璃月さん、気にしないで。まずは守りながら慣れていきましょう!」彼女は私に笑いかけながら、すぐに別のモンスターに向かっていく。
(私、本当に役に立てているのかな……?)
戦いが進むにつれて、焦りと自分の未熟さが胸を締め付ける。それでも、私は諦めるわけにはいかなかった。
「私だって、絶対に……!」
もう一度剣を構え、狼型モンスターに向かおうとしたその時だった。
「璃月、右後ろだ!」暁君の声が響く。
振り返ると、大きなダチョウ型モンスターがこちらに迫ってきている。反射的に剣を振るったが、その一撃はモンスターに届く前に霧のように消えてしまった。
「大丈夫!」
次の瞬間、凜ちゃんが背後からダチョウ型モンスターにダメージを与え、進行を止めた。そしてその隙を突くように、暁が一瞬で間合いを詰めてそのモンスターを仕留めた。
「ありがとう……」私は小さく呟き、息を整えた。
「璃月、最初はみんなそうだよ」暁が言いながら私に手を差し伸べる。「戦いながら慣れていけばいい。一緒に行動しているんだから、心配するな」
その言葉に救われる思いがしたけれど、同時に自分の弱さが悔しくもあった。
「もっと頑張らないと……」
「璃月さん、焦らなくていいよ。私たちがフォローするから」凜ちゃんが優しい声で続ける。
「そうなんです。むしろこういう時は経験値を稼ぎながら学ぶのが一番。私も最初はよく転んでいましたので。暁さんの動きは本当に的確で鋭いので」アイリスも笑いながら励ましてくれた。
私は深く息を吸い込み、もう一度剣を構え直した。彼らが支えてくれるからこそ、私はここで立ち止まるわけにはいかない。
(絶対に強くなって、いつか自分の力でみんなを守れるようになりたい……!)
その後も戦いは続き、暁とアイリスさん、凜ちゃんのフォローを受けながら、なんとかモンスターを倒していくことができた。私の剣の一撃が決まった瞬間、暁が小さく「いいぞ」と笑みを浮かべてくれたのが、とても嬉しかった。
この戦いを通じて、私は自分に足りないものと、これから目指すべき方向をしっかりと見つめることができた気がする。そして、仲間たちの優しさと強さに改めて感謝した。
(いつか、私も……彼らにとって頼れる仲間になれる日がきっと来る――)
戦いが終わる頃には、ダンジョンのモンスターはすべて蹂躙されていた。私たちは戦利品を回収しながら、帰路につく準備を始めた。暁とアイリスの背中を見つめながら、私は静かに拳を握りしめた。
(絶対に追いついてみせる。暁に頼られる存在になるために――)
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お読みいただき大変ありがとうございました(><)
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