第38話 新スキル


霧夜薫がこの世から消えたその日も、暁はアイリスと共にダンジョンに潜り、スキルレベル上げに励んでいた。アイリスがパーティメンバーとして入ってから、格段に探索のペースは上がっていき、今までは考えられないほどの魔核が大量に入ってきている。


時雨暁

ステータス:主(主従の誓い)

スキルレベル75(6721/7500)

サージポイント4891/5000

発動条件

・塔内であること

・パーティメンバーがいないこと

スキル

①固定式絶対防御結界

・結界範囲:接触箇所

・結界同時発動数:200枚

・結界発動時間:70時間

・消費サージポイント:1

②可動式絶対防御結界

・結界範囲:接触箇所

・結界同時発動数:80枚

・結界発動時間:10分

・消費サージポイント:10

③反響式防御結界

・結界範囲:接触箇所

・結界同時発動数:1枚

・結界発動時間:1分

・消費サージポイント:100

④・・・


アイリス・シフト

ステータス:従(主従の誓い)

スキルレベル30(2478/3000)

サージポイント700/700

発動条件

・翼を発現していること

・牙を発現していること

スキル

①物体創造

・物体の種類:視認経験、理解の範疇である物

・物体の質:オリジナルの1/10

消費サージポイント:100

②空中高速機動

・最大速度:通常走力3倍

・空間認識:周辺地形を音波認識

消費サージポイント:1ポイント/分

③・・・


時雨凜

スキル名:真贋の眼

スキルレベル:10(990/1000)

サージポイント:32/200

発動条件

真贋鑑定対象物を3秒以上凝視する

スキル

① 時の刻印

鑑定範囲:10メートル以内

消費サージポイント:1

効果:対象物に刻まれた過去の出来事や由来を読み取る

② 真実の輪郭

鑑定範囲: 20メートル以内

消費サージポイント: 3

効果: 対象が持つ「真実」と「偽り」を見極める能力。

・物体や情報が偽物か本物か、魔力で偽装されたものの本質を暴くことができる

・偽装された魔法陣やトラップ、変身魔法を見破る際に有効

・成功率は対象の魔力レベルや品質に依存

③・・・




暁はレベル75に達して、とうとう第3のスキルが覚醒した。


「『反響式絶対防御結界』か・・・これで一体どう使えるんだろうか?サージポイントが高い分だけ有用性は高いと思うけど・・・」


暁は静かに右手をかざし、スキル発動の準備を整えた。


「発動条件は塔内でパーティメンバーがいないこと。今の状況なら問題ない。消費ポイントは100…重いけど、それだけ効果も期待できるはずだ」


目を閉じ、集中を高める。周囲の空気が一瞬震えるように揺れたかと思うと、暁の前に淡い青い光を纏った一枚の結界が浮かび上がる。


「『反響式防御結界』、展開!」


バシュッ…!


結界が完全に現れると同時に、周囲の空間が静まり返る。結界は薄い膜のように見えるが、触れた瞬間に驚くほどの反発力を感じさせた。


「なるほど、これは“相手の攻撃を止める”というよりも、“跳ね返す”ことに特化した結界だな。試してみるか…」


暁はアイリスにこちらに向かって空中機動を使い小石を超高速で投げさせた。

放たれた弾丸のような石が結界に直撃した瞬間――


ズガーーーーーーーーーンッ!


結界が光を帯び、反射的に小石を弾き返す。小石は元の速度の倍以上になり、壁に直撃して爆発を起こした。


「…これはすごい。攻撃をそのまま返すだけじゃなく、エネルギーを増幅して反撃する効果もあるのか」


暁は結界を注意深く観察する。反射後、結界はボロボロと崩れていった。


「結界の効果は一発ずつ消耗されるみたいだな」


ふと、自分の消費サージポイントを確認する。4891から4791に減少していた。


「消費ポイントも考慮すると、これは短期決戦用かな…。けど、発動時間1分でこれだけの性能なら十分だな。固定式や可動式とは全く違う使い方になりそうだ。敵の強力な一撃を利用して逆転する、最後の切り札ってところか」


彼は深く息を吸い込み、次の戦いでの活用方法を頭の中で組み立て始める。


「これでダンジョン内に次のランク帯にも入っていけるかもしれない。あとは実戦でどう応用するか、だな」


暁が静かに拳を握り、スキルの可能性に胸を高鳴らせていると、後ろで見守っていたアイリスが慎重に口を開いた。


「暁様、この結界は非常に強力であると同時に、扱いの難しさも感じます。攻撃を反射し、増幅させるという特性は、ただ防御するだけのスキルとは一線を画していますが、その分リスクも大きいかと」


暁が振り向くと、アイリスは真剣な表情を続けた。


「特に、この結界は発動ごとに耐久力を消耗する性質があります。そのため、何度も展開することは難しいでしょう。使用タイミングを誤れば、かえって戦況を悪化させる恐れもございます」


暁は頷き、彼女の言葉を聞きながら、ふと視線を結界の残滓に戻した。


「確かに、これは短期決戦向きだな。だけど、強力な敵と戦うなら、このスキルの活用がカギになる気もする」


アイリスは一歩前に進み、柔らかい声で提案するように続けた。


「暁様、このスキルの真価を発揮するには、敵の攻撃を見極め、最も効果的なタイミングで使用することが肝要かと存じます。例えば、強敵の必殺技や範囲攻撃をあえて引き出し、この結界で反射することで、戦況を一気に有利にすることができるかもしれません」


暁は考え込むように顎に手を当てた。


「主力級の攻撃を引き出すか…リスクは大きいけど、確かにそれなら大勢の敵を一気に仕留められるかもな」


アイリスはその言葉を聞き、一瞬の沈黙の後、深々と頭を下げた。


「暁様がこのスキルを完全に使いこなすためには、敵の動きを読む力、そして己の判断力をさらに高める必要があります。どうか過信せず、慎重にご判断くださいませ」


暁は彼女の忠告に感謝しながら、力強く頷いた。


「そうだな。スキルだけに頼らず、ちゃんと自分を鍛えていかないとな。ありがとう、アイリス」


アイリスは一瞬言葉に詰まり、視線を足元に落とした。その頬はわずかに紅潮しており、胸の奥で高鳴る鼓動が抑えきれないほどだった。それでも意を決し、震える声で切り出す。


「暁様がその力をお使いになるとき、どうか私もお傍においてください。この命を懸けて、必ずお支えします……」


暁はその言葉に軽く頷き、アイリスに微笑みかけた。

「頼りにしてるよ、アイリス。次の試練も一緒に乗り越えよう。」


その一言に、アイリスの胸の鼓動はさらに速くなる。彼の言葉が自分の中に染み渡り、どこか誇らしい気持ちが湧いてきたが、それと同時に言い出しづらい話題に対する緊張感が増していく。


「あ……それと……」


暁は首をかしげた。

「ん?まだ何かあるの?」


アイリスは震える声を必死に押さえながら続ける。

「じ、実は……主従の誓いを強化すると、主である暁様も、私の力を……その、使えるようになるんです……」


暁の目が驚きに見開かれた。

「ええ!?本当?ってことは、僕もアイリスの『物体創造』や『空中高速機動』が使えるようになるの?」


「は、はい……その通りです。ただ……その、力の規模はお互いに1/10程度まで制限されますけれど……」


「すごいじゃないか!これはぜひ強化しなきゃね!」


暁の無邪気な反応に、アイリスは一瞬救われたような気がした。しかし、ここからが本題だった。自分の母から聞かされた方法を伝えるべきか、それとも……。


暁は首をかしげたまま問いかける。

「で、どうやって強化するの?」


アイリスは頬を赤く染め、言葉に詰まった。視線は暁を見られず、足元の地面を見つめる。しばらくの沈黙の後、意を決したようにぽつりと口を開く。

「そ、それが……私の母曰く、主人との関係を深めること……だそうです……」


「関係を深める?こうやって一緒にダンジョンで戦ったり、時間を共有することじゃダメなの?」


「も、もちろんそれでも効果はあります。でも……性別が違う場合は、もっと……早く深める方法があるみたいで……」


暁はますます首をかしげた。

「もっと早く?どういうこと?」


アイリスはその質問にますます顔を赤らめ、手をぎゅっと握りしめた。喉が渇くような感覚に襲われながらも、何とか言葉を絞り出す。

「……体を、寄せ合ったり……その……キ、キスをしたりすると……」


「えっ……?」


暁の間の抜けた声が返ってくる。アイリスの心臓は破裂しそうだった。彼女は勇気を振り絞り、さらに続けた。

「そ、そうすることで、誓いが一歩深まるそうです……母が……そう教えてくれました……!」


アイリスは顔を両手で覆いたい気持ちを必死にこらえ、赤面しながら言葉を紡いだ。暁は一瞬動揺したように目を瞬かせたが、やがて穏やかな微笑みを浮かべる。

「……じゃあ、試してみる?」


その一言に、アイリスは完全に固まった。頬の熱はさらに上がり、目を大きく見開いて暁を見つめた。

「え、えぇっ!?ほ、本当に……ですか?」


「だって、主従の絆を強化するためなんだろ?それに、アイリスがそう言うなら、僕も試してみたいかな」


暁の真っ直ぐな言葉に、アイリスは動揺しながらも小さく頷く。顔が真っ赤なまま、そっと暁に向かい合い、ぎこちない動きで距離を詰める。


そして、アイリスが目を閉じた瞬間、暁はそっと彼女に触れた。触れるか触れないかの一瞬のキスだったが、その瞬間、周囲が淡い光に包まれ、温かな感覚が二人の間を流れる。


光が消えた後、暁は拳を握りしめながら微笑んだ。

暁が軽く息を吐いて言う。

「……これで、主従の誓いは強化されたのかな?」


アイリスは赤い顔のまま、手で頬を押さえながら小さく頷いた。

「……た、多分……少しだけ、ですが……」


二人の間に漂う照れくさい空気。しかしその中には、確かに絆が深まったという安心感もあった。

「確かに、何かが変わった気がする。これが主従の誓いの強化ってやつなんだな」


アイリスも嬉しそうに微笑む。

「これで、暁様も私の力をお使いいただけるはずです。そして、私もさらにお力になれるでしょう。」


暁は彼女の肩に手を置き、力強く言った。

「これからもよろしく頼む、アイリス。一緒にこのダンジョンを突破しよう」

アイリスは静かに頷き、再び前を見つめた。

「はい、暁様。どこまでもお供します。」


二人は新たな力と絆を胸に、ダンジョンの奥へと進んでいった。


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