第33話 千葉翼②

千葉翼は身の丈以上もある巨大な盾を構え、その後ろにチームメンバーを従えていた。


上から見る千葉翼は高身長でがっしりとした体格をしており、まさにその盾の大きさと重さに見合う堂々たる存在感を放っている。短く刈り込まれた黒髪は整然としており、戦場での厳格さを感じさせる。鋭い目つきは相手を威圧し、その濃い眉毛がさらに凛々しさを引き立てている。


顔立ちは彫りが深く、鼻筋が通った端正なものだが、その表情にはどこか冷静さと強固な意志が見え隠れしている。唇は薄く引き結ばれており、余計な言葉を口にしない彼の性格を象徴しているようだった。


彼の鎧は無駄のない機能的なデザインで、肩や胸を守るプレートが輝きを放ち、その重量感が見方に安心感を、敵には強烈な威圧感を与える。盾は艶やかな黒の金属のようなものでできており、表面には複雑な紋様が彫り込まれている。まるでこの盾自体が彼の意思を代弁するかのように、不動の強さを感じさせる。


そんな彼の佇まいは、動きが少なくとも圧倒的な存在感を放ち、まるでその場の空気を掌握しているかのようだった。


彼に対して、桜丘高校の生徒が次々と攻撃を仕掛けるも、その盾は微動だにせず、まるで鋼鉄の壁のようだった。


「すごい……あれが防御型の戦闘スタイルなんですね」

アイリスが感嘆の声を漏らす。


暁は頷きながら、さらに観察を続けた。「おそらく、ただの防御だけじゃないだろう。攻撃も兼ねているはずだ」


そう言っていると、千葉翼が大盾を振り回すと、衝撃波が発生し、周囲の生徒たちが後方へ吹き飛んだ。その威力に、暁も思わず眉をひそめた。

「……ただの壁じゃないな。動く要塞みたいなもんだ。力だけじゃ突破できない」


「暁様、どうやって対抗するんですか?」

「まずは奴が何ができて何が得意で、何が不得意か。どんなスキルを使い、どんな癖があるのか……それを全部把握したい」

暁はそう言いながら、千葉チームの動きを目を凝らして観察し続けた。


「千葉のチームは、やっぱり連携が抜群だってさ。防御が固くて、一度も攻撃を通されたことがないらしいよ」

「特にリーダーの翼は、戦況を瞬時に判断して、メンバーに指示を出すのが上手いらしい。実力派だよ」


暁とアイリスの横には模擬戦を観戦する観客がおり、そんな生徒たちの声を聞きながら、暁は心の中で納得した。


(やはり、ただの防御型ではないな。連携と指揮能力が、彼らの強さの秘訣なんだろう)


暁は、その光景をしっかりと目に焼き付けながら、彼らの動きや連携を観察することに集中した。どのように彼らが攻撃を受け流し、反撃に転じているのかを理解するために。


よく見ていると、千葉翼チームと対戦しているのは、星霞チームを模倣したとおぼしきグループだった。そのチームは素早い近接戦闘プレイヤーが攻撃を与えつつ、遠距離攻撃と補助スキルを駆使する戦法を展開しており、星霞チームを想定した練習相手として設定されたことが明らかだった。


「千葉チームが、星霞チームを研究しているのか……いや、対策を練るために模擬戦を組んでいるんだろうな」

暁は静かにそう言いながら、模擬戦場を上から眺めていた。アイリスもその様子を真剣な眼差しで見つめる。


模擬戦は序盤から激しい攻防を繰り広げていた。千葉翼は巨大な盾を巧みに操り、前線で絶対的な壁として立ちはだかる。その後方では、チームメンバーが的確に動き、遠距離攻撃を防ぎつつ隙を突いて反撃を仕掛けていた。


星霞チームを模倣した側のリーダー役と思われる生徒が、「月光刃」を模倣したスキルを放った。鋭い光の刃が千葉翼を狙ったが、盾が軽々とそれを弾き返す。

「くそっ!効かないのか!」模倣チームのリーダーが叫ぶ。


「地裂斬!!」

その瞬間、千葉翼が盾を床に叩きつけた。爆発的な衝撃波が広がり、模倣チームの前衛が全員吹き飛ばされる。残った後衛も、混乱の中で正確な射撃を続けることができず、千葉チームの後続の猛攻に飲み込まれていった。


「防御型だけでなく、攻撃の破壊力も抜群……」

アイリスがつぶやくと、暁は頷きつつ言った。「このスタイルだと、星霞チームの遠距離攻撃や補助スキルじゃ押し切れない可能性が高い。神楽さんの攻撃もあの防御ならほぼ効かないと思っていいと思う。特に千葉翼があの盾を構えている限りは」


模擬戦は千葉チームの圧勝で終わった。千葉翼は微動だにせず立ち続け、模倣チームは全滅に近い形で終わった。


「力だけでなく、戦術も洗練されている。厄介な相手だな」

暁はそう呟きながら、千葉チームの動きを分析していった。


「暁様、星霞チームは大丈夫でしょうか?」

アイリスの声には心配が滲んでいたが、暁は軽く肩をすくめた。「大丈夫にするさ。これからだ」


どうやら模擬戦も終わり、千葉のチームメイトも解散し出していた。周囲の生徒たちも帰宅の途につくようだ。


千葉翼は模擬戦場の出口付近まで来ると、ふと足を止めた。そして、階段上の通路に立つ暁とアイリスに気づいたようで、まっすぐこちらを見上げた。その表情には、敵意のようなものは感じられず、むしろ穏やかな好奇心がうかがえた。


「見ない顔だね。新入生かな?」

千葉翼が軽く手を挙げ、友好的な声をかけてきた。その声はよく通り、周囲にいた生徒たちも思わず振り返った。


暁は一瞬躊躇したが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。「いや、見学に来ただけです。この学校の噂を聞きまして」


アイリスも軽くお辞儀をしながら微笑んだ。「とても立派な模擬戦場ですね。初めて見たので感動しています」


千葉翼は二人をじっと見つめた後、にっこりと笑った。「そうか。見学者なら歓迎するよ。下に降りてきたらどうだい?」


暁はどうしようかと迷ったが、直接話ができることでもっと千葉翼の情報が得られると判断し、アイリスを伴って階段を降りていった。


「この学校は戦闘技術を磨くには最高の環境だよ。それにしても……君たち、どこか普通の生徒とは違う雰囲気があるね?」


千葉翼が僅かに口元を上げ、探るような視線を向けてきた。その態度には、無邪気さと警戒心の入り混じったような妙な感覚が漂っていた。


暁はその言葉に対し、内心で警戒を強めつつも、表情には微笑みを浮かべたまま軽く肩をすくめた。「おっしゃる意味がよく分かりませんが、たぶん緊張しているだけだと思います。こんな立派な施設を目にするのは初めてですので」


千葉翼は短く息を吐き、考えるように視線をさまよわせた後、穏やかに微笑んだ。「なるほど。それなら歓迎するよ。俺は千葉翼。この学校の3年で、ここにいるチームのリーダーを務めている。君たちの名前を教えてもらえるかな?」


暁はその問いに対し、柔らかな笑みを浮かべながら右手を差し出した。「時(とき)と申します。こちらはエリス。私の友人です。私たちは桜丘高校の近くに住んでおり、この学校の見学をさせていただいています」


名を呼ばれたアイリス――エリスは、静かに一歩進み出て上品に頭を下げた。「初めまして、千葉さん。このような素晴らしい施設を拝見できる機会をいただき、とても感謝しております。大変興味深い場所ですね」


千葉翼は二人の様子をじっくり観察するように目を細めたが、特に追及することもなく、満足そうに手を引っ込めた。「なるほどな。見学ね……」


その声にはどこか皮肉めいた響きが含まれていたが、暁は特に反応を見せず、穏やかな表情を保ったまま会話を続けた。


アイリスも穏やかに微笑み、小さく会釈した。「どうぞよろしくお願いいたします」


「よろしく。模擬戦を見たんだろう?感想を聞かせてもらえると嬉しいな。俺たちの戦い方、何か気づいたことでもあるかい?」

千葉翼の瞳には純粋な興味が宿っており、その問いには特に悪意や裏の意図は感じられなかった。


暁は一瞬考え、慎重に言葉を選びながら答えた。「非常に参考になりました。防御を主体とした戦術は驚異的で、特に盾を軸にした攻防一体の動きには感動しました。さらに、チームワークも洗練されており、完成度の高い戦術だと感じます」


千葉翼はその答えに満足したように微笑み、軽く頷いた。「そうだろう。ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。ただ、どんなに完璧に見える戦い方でも、必ず弱点はあるものだ。俺たちも、模擬戦でそれに気づいて改善を重ねてる最中さ」


そう言いながら千葉翼は振り返り、自分のチームを目で示した。彼らもそれぞれ武器を手にし、次の戦術を話し合っている様子だった。


暁はその様子を観察しつつ、穏やかに返した。「なるほど。たゆまぬ努力がみなさんの強さを生み出しているのですね。大変勉強になります」


アイリスも少し身を乗り出し、興味深げに付け加えた。「千葉さんのチームのように、綿密な連携を取れるのは素晴らしいと思います。それぞれが役割を理解しているからこそ、この戦術が成り立つのですね」


千葉翼は頷き、やや意地悪そうに微笑みながら言った。「君たちも、せっかく見学に来たんだから、少しは体を動かしてみないか?まさか、ここまで来て、見て帰るだけじゃないよね?」


暁は一瞬驚いたような表情を浮かべ、戸惑い、断った。


「君はスキルウィーバーなの?」

「いえ、違います。ノンウィーバーです」

「そうか。まぁ一回、僕たちの防御を突破できるか、攻撃してみなよ。こんなこと経験することはないだろうだからね」

暁は静かに答えた。「・・・いいんですか?」

「どうぞどうぞ。全力できていいよ」

「・・・分かりました」



暁はアイリスに近付き、耳元で伝えた「アイリス、今回は僕一人でやるから、横で見ておいて。何か後で気付いたことがあったら教えてね」


「承知いたしました」


千葉翼は嬉しそうに笑い、手を広げて模擬戦場を示した。「いいね。それじゃあ、遠慮なく来てくれ。俺たちがどんな力を持っているのか、じっくり見せてあげるよ」


その言葉には挑発的な響きが含まれていたが、暁はそれを軽く受け流しつつ、内心で次の一手を慎重に考え始めた。


暁は千葉の言葉に頷き、少しだけ緊張しながらも、心の中で自分の判断を正当化した。「相手の実力を測る良い機会だ」と思い、相手を見据えた。


練習場には、千葉のチームメンバーが円を作り、彼らの防御体制を確認しながら待っていた。


暁は彼らの目を見て、どのように攻撃するか考え始めた。彼らは全員が防御的な構えをとり、慎重に動いている。


「では、いきます!!」暁は少し声を張り上げ、距離を取ってから一気に突進した。


彼は素早く動き、何も持たずに攻撃を仕掛けようとしたが、千葉のチームはすでにその動きを予測していた。暁が接近する前に、タンク役の選手が大きく体を広げ、仲間たちを守るために構えた。


「来たぞ!」千葉が声を上げる。


暁は反射的に止まり、タンク役の選手のすぐ前でスライディングし、足を使って彼の股下を潜り抜けた。抜けた瞬間、その後ろから2人のメンバーが床を滑っている暁に振り降ろすようにして攻撃を仕掛けてきた。


「おりゃあぁあぁぁああああ!」一人のメンバーが手をかざし、風を集めた。もう一人はそれに続いて魔法を発動し、強力なバフをかけている。


「ちょっ、ちょっと!待って!!僕はノンウィーバーだよ!」


ドォォォオオオオン!!


スレスレで暁は素早く横に飛び込んで躱したが、千葉のチームの連携は素晴らしく、暁は彼らの隙を突くことができない。暁は、千葉チームの猛追を必死に転がって逃げ回り、距離を取った。すぐに体制を立て直し、千葉チームを見据えた。


「やるじゃないか!!」千葉の声が響く。

暁は内心で「いやいや、これ、もしかして、僕じゃなかったら死んでない?」と思い、再び突進した。今度も意識的に彼らの防御の隙間を狙うことにした。


千葉のチームは強固な防御を持っている。しかし、千葉翼も言っていた通り、この防御もまだ完璧ではないはずだ。


(少しずつ、彼らの動きに慣れ、観察することで、隙間を見つけることができるはず!)


暁は再び攻撃を仕掛けた。ゆっくりと前進しながら、急に走り出し、そして一瞬、先頭のタンクの下に滑り込もうとするフェイントを入れつつ、跳躍するように見せた。タンクの選手はすぐに暁のフェイントに反応し、上からの攻撃に備えているのが見て取れた。


(目がいいね。でも、それが仇になるよ!)


暁は急激に下方向に攻撃先を変えて仕掛けた。予想外の攻撃に反応できず、タンクの選手は暁を見失った。暁はタンク選手の胸に蹴撃を放ったが、もちろんダメージは通らなかった。しかし、その急激な攻撃によって、千葉のチームはリズムの変化に少し躊躇を見せた。


「よし!」暁は心の中で叫び、横に飛びながら次の選手をターゲットに変えた。暁の動きは、瞬時に千葉のチームの防御をかいくぐり、成功しそうな気配を感じた。


しかし、横にいたタンクの選手は即座に身を低くして、防御の姿勢を固めた。彼の腕の動きは素早く、暁の攻撃はあっさりと防がれ、カウンターで衝撃波が放たれた。暁は再び後方へ吹き飛ばされ、床に激しく激突した。


「いたたたた…凄いですね…」暁は立膝になり、後頭部を強く打ったため、その部分を擦りながらつぶやいた。防御を破ることができず、千葉のチームの強さを再確認した。「防御が硬すぎますね」


千葉は笑いながら、「まだまだだね。けど、君、いい動きをするね。他の偵察のチームだったら、最初の一撃で沈んでいたけどな。神楽沙羅さんも同じようなトリッキーな動きをするのかな?」


暁は驚いたように千葉を見た。「分かってたんですか?」


「おぉ、じゃあ、やっぱり次の対戦相手の星霞チームの偵察だったか」


「あぁ、しまった。吹っかけられましたね。そこまでは分かっていなかったのか・・・余計な情報を千葉さんに渡してしまいましたね」


「はははは。まぁ、君が偵察であることは一瞬で分かったよ。この時期に『見学』に来る新入生はいないんだよ。どのチームの偵察かはわからなかったけど、当たりはつけられていたけどね」


自分の予想が当たったことで少し満足して、千葉は暁とアイリスを交互に見た。


「じゃあ、君たちに少しアドバイスかな。攻撃のタイミングと隙をもっと意識してみることだよ。防御型のチームの攻略法は、タイミングをずらして、隙を見つけることに尽きるからね」


千葉翼は、自分たちの勝利を絶対的なものと確信していた。この闘技祭で優勝することは、すでに決まったようなものだとさえ思っているようだった。だからこそ、スパイが来ようが、誰が来ようが、全く気にしない。それどころか、彼の自信は揺るぎなく、暁がどこかのスパイであることを、最初から見抜いていた。


だが、千葉にとってそれは大した問題ではなかった。彼のチームは絶対的な防御力を誇り、どんな相手が来ようと、圧倒的な力でねじ伏せる自信があった。


「まぁ、いいさ」千葉は、暁をちらりと見ながら、軽い口調で言った。


「この経験は、少しは君のチームに役立つかもな」


暁は内心で驚きながらも、表情を崩さずに千葉翼を見た。しかし、千葉が全てを見透かしているかのように振る舞う姿に、暁は少し苛立つ。


「なぜ、わかっていても僕にこんな経験を?」暁は、やや戸惑いながら問いかけた。


千葉は笑みを浮かべ、肩をすくめた。「簡単さ。僕たちの力を見せつけるためさ。君に僕らの防御の突破口が見つかるかどうか、試してみたかっただけさ。さっきのノンウィーバーって言うのも嘘だね。あの動きは、スキルウィーバーの身体能力と反応速度だよ」


暁は千葉の冷静な態度に、なるほどと納得しながら、平静を装って言い返した。


「後悔しますよ。千葉さんが思っている以上にデュエル高校のメンバーは強い」

千葉はその言葉に、再び軽く笑いを浮かべた。彼の自信は揺るがず、暁の挑発もどこか楽しんでいるようだった。


「それは楽しみだな。けど、どうかな?強いと言っても、僕たちの防御を突破できるかな?君たちがどれだけ強くても、僕らの鉄壁を崩すことは難しいと思うよ」


暁はその言葉にじっと目を細めた。確かに、千葉のチームは圧倒的な防御力を誇っていた。訓練の様子を見ていても、各メンバーがそれぞれの役割を完璧にこなし、連携も見事だった。攻撃を耐え抜き、その隙に反撃をするチームワークは、まさに盤石と言えるものだった。


しかし、暁には別の考えがあった。彼はただ力を信じるのではなく、分析と戦略を重視するタイプだ。千葉チームの防御には、見えない隙があるはずだと信じていた。


「それは最後までやってみないとわからないですよ」暁は自信を持って答えた。「ただ、守ることだけに執着していると、意外なところで足元をすくわれるかもしれないですしね」


千葉はその言葉を聞いても、微笑みを浮かべたままだった。「そうかもな。でも、まずはその隙を見つけてみなよ。君たちが僕たちをどう攻略するか、楽しみにしてるよ」


暁は視線を千葉から外し、深く息を吸い込んだ。これ以上無理に反論することなく帰ろうとしたが…。


千葉のあまりに自信満々な態度に対抗するように、また、千葉からわざわざ手の内を見せてもらった恩返しも込めて、暁は立ち止まり、振り返った。


「じゃあ、ちょっとだけ僕の気付きをお伝えしますね」暁は不敵な笑みを浮かべて言った。


千葉は少し眉を上げ、面白そうに暁を見つめた。「ほう、何を教えてくれるんだ?」

「あなたたちの防御は確かに強い。けど・・・完璧じゃない」暁はその場にあったトレーニング用の棍と片手剣を手に取り、無造作に握りしめた。「例えば、この動き――」


暁はまず、千葉チームのディフェンダーの足元を観察しながら、ゆっくりと一歩を踏み出した。次の瞬間、彼は予想外のスピードで側面に回り込み、ディフェンダーのバランスを崩すように、足払いを仕掛けた。ディフェンダーはその動きに一瞬戸惑い、防御態勢が崩れた。


「足元を狙えば、こんな風にね。防御が固いなら、その軸を崩せばいい」

千葉はその様子を見ながら、じっと黙っていたが、視線は鋭くなっていた。暁はさらに続けた。


「それから、集中して守りすぎると、周囲が見えなくなる。今のように一箇所に全力を注いでいると、全体のバランスが崩れるんだ」


暁は次に、チーム全体を見回し、もう一つの隙を指摘した。


「守りの連携は確かに強いし、反応速度も速い。けど、一度誰かが崩れると、連鎖的に全員が動けなくなることもある。例えば――」


彼は手にした棍を空中に投げ上げ、そして片手剣を正面のタンク選手に投げつけた。全員が空中の棍と片手剣に目が行った瞬間、暁は状態を下げて、巧みにディフェンダー達の側面を通り、後方の魔法使いを攻撃しようとした。防御チームが一瞬戸惑う間に、彼はまるで無防備なところを突くかのように、魔法使いに向けて攻撃を仕掛けた。


「こんな風に反応することに集中しすぎると、自分の反応速度を超えた攻撃が来たときに、別の場所ががら空きになってしまうんです。」


千葉は暁の動きを静かに見つめていたが、やがて薄く笑みを浮かべた。「面白い。確かに君の言う通りだ。だが、隙を突いたとしても、君の攻撃力で僕たちを崩せると思うかい?」


暁は肩をすくめ、「どうでしょうね。ただ、可能性は示せたと思います。僕に防御の固さを見せてくれたお礼に、崩し方をお伝えしました。これでおあいこですね。千葉さんのチームの手の内を見せていただき、ありがとうございました。」


千葉の表情は微かに変わっていた。最初は余裕を見せていた笑みが、暁が攻撃を仕掛けるにつれて、少しずつ消えていっていた。彼の目は細まり、暁の一つ一つの動作を観察していた。


暁がディフェンダーのバランスを崩し、魔法使いを狙った瞬間、千葉の眉間にはわずかに皺が寄った。


今は、口元は笑みを保ちながらも、その奥に緊張が見え隠れしていた。千葉の指先が無意識に力を込め、軽く拳を握りしめる様子が内心の動揺を物語っていた。


暁が去ろうとすると、千葉は何も言わず立ち尽くしていたが、目の奥には複雑な感情が浮かんでいた。自信に満ちた姿勢を崩さないよう努めているが、微かな焦りが見えた。それは、暁が見せた突破の一瞬に、自分たちの戦術に潜む弱点を悟ったからだ。


「面白い……少しは楽しめそうだな。」口元でそう呟いたが、その声には驚きと警戒が滲んでいた。


暁は確信を得た。(千葉はあの一瞬で、防御の穴に気づいたはずだ。次の試合では確実に防御をさらに固めてくるだろう……)


表面上は余裕を見せていた千葉だったが、暁は彼の無意識の動きを見逃していなかった。強く握られた手、観察する鋭い目――それがすべてを物語っている。


防御を固めれば、逆にその堅さが新たな隙を生む。暁はその未来を見据えながら、静かに笑った。


アイリスは心配そうに暁に問いかけた。

「暁様、大丈夫でしょうか?暁様のアドバイスで、千葉チームが更に戦術的に強くなったように感じますが……」


暁は片眉を上げながら自信満々に微笑んだ。

「大丈夫さ。この勝負は既に勝っているよ」


そう言うと、暁は悠々とその場を後にした。彼の背中には、自信と余裕が漂っているように見えた。


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