第30話 闘技祭初日⑤
暁と、星霞璃月、神楽沙羅、神代雪乃、水城未来、篠崎結衣の6人は、静かな夜に星霞の家に集まっていた。彼女たちは真剣な表情でテーブルを囲んで座っていた。
その中央に様々なデータを書いた紙を広げて、説明する暁の姿があった。彼は、数日前から鷹沢チームの戦闘スタイルを徹底的に分析していた。そして、そのデータを元に、星霞たちと作戦会議を行っていた。
「これが、鷹沢チームの戦力の分析結果です」暁は、鷹沢チームの攻撃力を分析して話し始めた。「彼らの強さの源泉は、何よりもその圧倒的な攻撃力とスピード。特に、リーダーの鷹沢京介の攻撃は非常に強力で、あいつの一振りでこちらが圧倒される可能性が高い」
星霞璃月は黙って聞いていた。その分析は、彼女たち全員が予想外の内容だった。
星霞璃月は一瞬黙ってから、冷静に反論した。「確かに鷹沢たちの攻撃は強力だけれど、私たちの防御力だって凄いのよ。結衣の防御力があれば、あいつらの攻撃の多くは防げるはずだし、未来の水鏡加護でみなの防御力を上げていけば、私たちの耐久力を一気に上げられる。さらに、雪乃の霜獄結界があれば、鷹沢たちの攻撃そのものを弱体化させることができる。これで、彼らの攻撃を防ぐことは可能になると思うけど、どう思う?」
暁は一瞬、深く考え込むように目を閉じたが、やがて静かに答えた。「確かに、篠崎さんの防御力、水城さんのバフスキル、そして神代さんのデバフスキルは非常に強力だ。しかし、僕が数日前に見てきた鷹沢たちの模擬戦を考えると、鷹沢たちの攻撃は、僕が予想していた以上に圧倒的でした。プロの探索チームでさえ、あいつらの攻撃を真っ向から受けたために負けていましたよ。どれだけ防御やバフ、デバフを重ねても、鷹沢たちの攻撃は一瞬でそれを突破してしまう。あいつらの攻撃力は、反則レベルです」
そう言った後の、5人の表情はさまざまだった。驚き、疑念、信じられないといった表情が浮かんでいる。
暁は説明を続けた。
「それに、鷹沢京介はただ攻撃力が強いだけじゃない。彼の戦闘スタイルは、圧倒的なスピードと他のメンバーとの連携攻撃が驚異的なんです。皆さんが防御やバフを使っても、鷹沢たちのスピードに対応できないでしょう。仮に星霞さんたちがあいつらの攻撃の間隙を突いて攻撃しても、鷹沢たちの反応速度も段違いで高く、容易にカウンターを打ってくるでしょう。鷹沢たちのスピード攻撃を考えると、どうシミュレーションをしても、皆さんは負けます」
星霞たちは絶句した。星霞はしばらく黙って考え込んだ。
「暁の言葉が真実だとすれば、彼らの全ての攻撃を防ぐのは無理かもしれないわ」
しかし、彼女は依然として希望を捨てずに言った。「でも、私たちの連携なら鷹沢たちの攻撃に対して、攻撃で対抗したらどうかしら?攻撃こそ最大の防御よね。その状況下で冷静に立ち回れば何とかならないかしら・・・」
暁は一息ついてから、真剣な表情で続けた。「確かに、みなさんの連携は素晴らしいです。けども、鷹沢たちの攻撃は皆さんが思う以上に速く、強力だということを忘れてはいけない。僕が見た限り、攻撃力勝負では、皆さんが鷹沢の攻撃のスピードに追いつけるかどうか疑問です。だからこそ、正面から戦うのは避けるべきです」
星霞はしばらく黙り込んだが、やがて決意を込めて言った。「わかったわ。じゃあ、あなたの言う通り、正面からの戦いは避ける方向で進めるべきね」
暁はうなずいた。「賢明だと思います。鷹沢たちの強さを理解した上で、その弱点を突いていかなければならない。それが、この戦いで勝つための唯一の方法だと、僕は結論付けました」
暁はこれからの戦略を考える上での最も必要な前提の説明を終えた。そして、それぞれのメンバーの表情を見た。
星霞璃月は、しばらく黙った後、決意を込めて頷き、険しい表情を浮かべた。神楽沙羅は目を細めて、少し考えた後、挑戦的な笑みを浮かべた。神代雪乃は無表情のまま、淡々と頷き、冷静さを保っている。水城未来は目を少し見開き、驚きつつも納得したように微笑んだ。篠崎結衣は口を引き結び、覚悟を決めたように真剣な表情で頷いた。
ある程度の理解が得られたと思い、暁は星霞たちの戦闘スタイルなどをまとめた資料を指さしながら言った。「鷹沢チームの圧倒的な攻撃力は、こちらの戦力を崩す威力を持っています。そのため、彼らの攻撃をしのげるかが、最初の鍵となるでしょう」
星霞璃月は眉をひそめた。「どうやって、彼らの攻撃をしのぐの?」
「とにかく逃げに徹することです。まず、神楽さん、あなたの素早さを活かして、攻撃を避けつつ、鷹沢チームの攪乱を狙う。倒すことが目的じゃない。攪乱です。しかし、鷹沢京介の剣はただの一振りでも破壊力が大きい。奴の烈火刃は客観的に見て、一級品だと思います。だから、正面から打ち合わないで、細かく背後や側面から接近して小さな攻撃を与え続けてください。このような近接戦ができるのは神楽さんだけでしょう」
暁は、鷹沢チームと星霞たちの戦闘シミュレーションを伝えた。
「さらに、鷹沢チームの他のメンバーも、なかなか手強い。木槌や木斧を使ってくる連中は、範囲攻撃に強みがある。つまり、その攻撃範囲に巻き込まれてしまうリスクが高い」
暁は鷹沢チームの行動パターンを次々と示した。「鷹沢たちが攻撃を仕掛けてくるタイミングをうまくずらして、攻撃力を分散する。つまり、彼らが攻撃を仕掛けてきた瞬間に、篠崎さんの漆黒の守護でここを分断するように、奴らの動きを封じる。そして、水城さんの水鏡加護で、その間に奴らから距離を取る。正面からの衝突をできるだけ避けるんです」
神楽沙羅は笑顔で言った「そうね、鷹沢の攻撃力を上手く削いでいくしかないのね」
暁は頷きながら言った。「その通りです。鷹沢が自信過剰であることを利用して、彼が攻撃した瞬間に動きを封じていく。そして、今回の勝利の要は、神代さんの霜獄結界・縛(ばく)です。彼らの唯一の弱点である、圧倒的に低い状態異常耐性です。神代さんの霜獄結界・縛で奴らの攻撃力、防御力、機動力をゼロにしたら、100%こちらの勝利です。問題は・・・」
そう言って、暁は神代雪乃に目を転じた。
霜獄結界・縛の発動に、どれぐらいの準備がかかるか、ということでしょうか」
「直径50メートルのリングよね・・・確実にあいつらにぶつける為にはリングの周囲から霜獄結界を展開しないといけないから・・・10分はほしいわ」
「そうですか・・・試合自体は20分間ですから、試合時間内には発動できますね。じゃあ、その10分間、戦線を維持することができれば、神代さんの霜獄結界・縛で奴ら全体の動きを封じることができる。封じられたら・・・」
暁は一拍置いた。
「それで詰みです」
星霞たちは薄っすらと笑いを浮かべて話を聞いていた。
そして暁は説明を加えた。
「大切なのは、この作戦を鷹沢たちに感ずかれないことです。正面での戦闘を避けながらも、ある程度は戦う意思を見せつけないと、鷹沢たちも星霞さんたちが何かを狙っていることに気付くかもしれない。その塩梅が難しいと思います」
星霞璃月は真剣な表情でうなずきながら言った。「確かに、鷹沢たちに警戒されるのは一番避けなければならないわね。だから、私たちは戦闘のペースをゆっくりと作るべきね。最初は、正面で戦うように見せかけて、鷹沢たちの反応を探る。少しでも相手が隙を見せたら、私は全力で攻撃をし続けるわ」
神楽沙羅が拳を握りしめて言う。「私は前に出る役目だね。最初の接触で強気に見せることで、鷹沢たちが“私たちが攻撃してくる”って思わせることができる。その後、私はうまくリング全体を動きながら距離を取って、攻撃を続けるわ」
神代雪乃は、冷静に考えをまとめてから話し始めた。「私は、霜獄結界の準備が整うまで、うまく立ち回るわ。できるだけ目立たないようにしているわね。結界をかけるタイミングを逃さないように、常に相手の動きに目を光らせておくね」
篠崎結衣は、自信に満ちた表情で言った。「私は、前衛で戦線を支える。鷹沢たちを分断して、攻撃の起点をどんどん潰していく。そして守りをしっかり固める。分かったわ」
水城未来は、静かながらも自信に満ちた口調で言った。「敵の動きに合わせて、間合いを取りつつ、鷹沢たちを水鏡加護で、攪乱していく。それが私の役目ね。あとは、雪乃の結界が完成するまで持ちこたえるわ」
暁は、皆の話を聞いて最後に付け加えた。
「今回の肝はどこまでも神代さんです。神代さんさえ生き残っていれば、後はどうとでもなります。最悪、霜獄結界・縛さえ発動できれば、神代さんだけでも勝てる」
星霞璃月は、にっこりと笑った。「いいわ、この作戦は最高よ。うまくいけば、鷹沢たちもきっと気づかずに罠にかかる。私たちがしっかりと団結して動くためには、連携を取ることが一番大切。少しのずれでも、相手に気づかれたら全てが台無しになるから、慎重にいこう。絶対勝とうね!!」
「「「「「絶対に勝つ!」」」」」
6人が力強く言い、全員が頷きながら、決意を新たにした。
◇◇◇◇
「これで終わりよ、鷹沢。今まで苦しんできた人たちの思いの力と知りなさい」星霞璃月は鷹沢京介を目の前にして冷静に宣言した。
「お前らのような奴らに、俺は負けない!!負けられねぇえんだよ!!!」鷹沢は怒りに燃えながら、最後の攻撃を仕掛けるための体勢を整えた。彼は自らのスキル『烈火刃』を最大限に発揮し、全力で突撃しようとした。
しかし、神楽沙羅は風刃疾風を発動し、鷹沢の後方に姿を現した。鷹沢京介は一矢報いる為に神楽沙羅に大剣を振り降ろすが、既に最初の勢いのない鷹沢の斬撃を軽くいなし、持っていた小太刀で彼を強打した。
ピッ!!「0」
鷹沢はついに膝をつく。「くそ…」鷹沢は悔しさを噛み締めた。「卑怯者共め・・・」
そして、彼のHPゲージはゼロになり、戦闘が終了した。
「何が卑怯よ。バカじゃないの。戦いはどこまでも化かしあいよ。あなたは、その発言を神々の塔のモンスターに言うのかって話よ」
鷹沢京介は親の仇を見るような怒りの形相で、星霞たちを睨みつけた。
観客は大喝采で、星霞チームの勝利を祝った。
星霞たちは勝利の喜びに浸りながらも、鷹沢チームとの対戦を通して、自分たちのチームの弱点がよく分かった。星霞たちにとって決して楽な戦いではなかった。
星霞璃月は、次の戦いに向けてさらなる成長を誓った。
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