第27話 闘技祭初日②

暁がアイリスを伴ってダンジョンの奥へ探索している頃・・・


デュアル高校では、闘技祭の開会式が進行中で、いよいよ1試合目が始まろうとしていた。


星霞璃月とそのチームメイトたちは、学校のグラウンド中央に設置された直径50メートルの巨大な特設闘技リングの上に立っていた。


このリングは魔道具で作られており、非常に高い耐久性を誇る。万が一破損した場合でも、自己修復機能が働き、元の状態に戻るという優れものだ。この闘技祭は財閥ギルド全体が支援している大規模なイベントであり、次代を担う若者たちのために、惜しみない金銭的支援が行われている。


リングの上では、星霞チームと鷹沢チームが準備を整えていた。グラウンド全体が緊張感に包まれ、観客席には大勢の生徒や保護者、ギルド関係者が集まり、会場は熱気に満ちていた。


「いよいよね」星霞は静かに呟いた。「打ち合わせ通りいくわよ」

「了解よ」「滾るねぇ~」「後悔させてあげましょうか」「殺す勢いね」


出場者には、学校の規定に従い、決められた武器を使用することが許可されていた。


星霞璃月は、木製の片手剣。 神楽沙羅は、木製の二刀流の小太刀。 篠崎結衣は、木製の棍。 神代雪乃は、革製の鞭。 水城未来は、木製の槍。


それぞれが普段使い慣れている武器に近いものを選び、装備していた。


星霞たちは、気合十分に戦いの準備を整えている。


一方、鷹沢たちは星霞たちを見ながら不敵に笑っていた。鷹沢は、身長を遥かに超える巨大な木剣を片手で軽く振り回し、他のメンバーたちは木斧、木槌、木槍などを手にしていた。


「おい、星霞! よく逃げなかったな!」

鷹沢は大きな木剣を振り回しながら、大声で星霞に話しかけた。


「試合前にあなたと話すことはないわ。静かにしていなさい」

星霞は冷静に返答したが、鷹沢はニヤリと笑い、大剣の切っ先を星霞に向けた。


「おい、星霞!お前、ほんとに勝てると思って来てんのか? ただのオタク女子が、俺たちみたいな本物のバトルに勝てるなんて思ってんじゃねぇよ! ははははは!!!」


彼の言葉には、明らかな侮蔑が込められている。星霞はその挑発を敢えて無視した。しかし、それがさらに鷹沢を激怒させる。


「お前みたいな奴が、俺の前で屈服する姿が楽しみだぜ。お前ら、ただで負けられると思ってんじゃねぇぞ。くくくく…」


星霞たちは相変わらず鷹沢を無視し、冷静に準備運動を続けている。鷹沢は星霞をじっと見つめながら、言葉を続ける。


「試合前に結果が決まったようなもんだが、少し戦いにスパイスを加えてやるか。星霞、俺と賭けしないか?」


「賭け?」


星霞は、予想外の言葉に思わず反応してしまった。


「そうだなぁ。俺が勝ったら、お前たちは俺たちのチームに入れ。お前らは外見と体だけは大したもんだからな。俺が全部再調教して、男を喜ばせる方法を教えてやるよ」


「はぁ? 気持ち悪いわ。何を言ってんの?」

「げぇぇええ、あんなチームには入らねぇよ」

「頭でも変になったのかしら?」

「きっしょ」

「身の毛がよだつわ」


星霞たちは、鷹沢の発言に強い苛立ちを覚えた。


「あなたの賭けなんかに乗るわけ…」 星霞璃月がそう言い終わる前に、鷹沢は続けた。

「お前たちが勝ったら、そうだな…お前たちがご執心の時雨暁には、もう近づかないでやるよ。それだけじゃない。この学校での問題を、これからは一切起こさないようにしてやる。どうだ?」


ピクッ。


星霞璃月は、思わず反応してしまった。

(鷹沢がこんな腐った性格になった背景には、こいつの親が財閥ギルドの幹部だってことがある。こいつが学校内で傍若無人に振る舞っているのは、親の影響が大きい。学校や生徒の親に圧力をかけて、問題を揉み消してきた。何人もの生徒が、この不良グループに泣き寝入りしてきた。私のところにも、泣きながら相談に来た子が何人もいた…。今後、暁や他の生徒たちが安心して学校生活を送れるのなら、この賭けも悪くないかもしれない。でも…)


そう思いながら、星霞璃月は後ろを振り向いた。


四人の仲間たちが、星霞と同じような複雑な表情で見返してきた。


(でも、私たち五人があいつの玩具みたいになる可能性を考えると、私たちの人生を賭けるにはあまりにもリスクが大きすぎる…)


その時、鷹沢は金属製の筒を取り出した。「俺がこの試合に負けたら、金輪際、学校内でトラブルは一切起こさない」と言いながら、その筒が青く光りだし、星霞璃月たちに向かって放り投げてきた。


コロンコロンと音を立てて、筒状の金属が星霞璃月の足元に転がって来た。


星霞はその筒状の金属を見て、驚愕の表情を浮かべた。「これは…『誓約の瓶』!!」


「そうだ。それが『誓約の瓶』だ。中にはランクCの魔核が入っていて、超絶高価な代物だ。これにそれぞれが誓うことを吹き込めば、誓約は必ず履行される。もし破ったら、ランクC魔核の力で体内に大爆発が起きるんだ。絶対に避けられない攻撃だ。凄いだろ? 俺の親父からもらったんだ。俺の好きな時に使えってな」


「なんで…そこまで?」


「お前らをグチャグチャにしたいからに決まってんだろ? あぁ、お前らを好きにできるなら、どれだけ楽しいか。親父からもらったノンウィーバーの女の玩具も面白いが、お前らの方がよっぽどそそるぜ!なぁ!」


鷹沢とその仲間たちは、卑猥な笑い声をあげながら、今まで自分たちが蹂躙してきた女性たちの末路を思い出して楽しんでいた。


「さぁ、お前たちもここに誓約を吹き込めよ。そうすれば、この戦い、もっと面白くなるぜ」


その言葉が発せられると、周囲の空気が一瞬で引き締まり、緊張が走った。


星霞は冷徹に言い放つ。「あなた、心の芯からゲスね・・・私5人を要求するなんて厚かましいわ。割に合わないわ。でも、私一人ならやってあげてもいいわ」


「璃月!」

「りっちゃん!!」

「ダメよ、こんなの全く割に合わないわ!」

「止めなさい!」


「いいの。どうせ、私たちが勝つんだから。これでこいつらが大人しくなれば、私たちだってもっとマシな学校生活を送れるでしょ?みんな、勝つ自信ないの?」


「いや…あるけど」

神楽沙羅はじっと星霞璃月を見つめ、言葉を続けた。


「じゃあ、大丈夫よ。あいつらをコテンパンにしちゃいましょ★」


「おい!!どうすんだ!?しないなら、その瓶はこっちに返しな。お前たちみたいな奴らが持つような高価なものじゃないんだよ!」


「待って。この瓶、誰が保管するの? あなたたちが負けて誓約を反故にされても困るじゃない」


「ははははは!気の強ぇ女だな。だからグチャグチャにしたくなるんだよ。はははは!そうだな、そいつは、あそこにいる教員にでも渡しておけ。そしたら安心だろ?」


「えぇ、いいわ。『私、星霞璃月はこの試合に負けたら、鷹沢のチームに入る。』これでいいわよね?」


星霞璃月が瓶に向かってそう言うと、瓶が青白く光りだした。星霞璃月は周囲を見渡し、リングの横に回復要員として立っている漣(さざなみ)先生を見つけた。


「漣(さざなみ)先生、この筒を持っていてもらっていいですか?」


「いいわよ。何?この筒は?」


「大切な筒なんです。大切に保管していただけませんか?」


「ん?わかったわ」

漣(さざなみ)は星霞璃月から渡された筒を慎重に自分の側に置いた。


「はははは!!!星霞!!これで面白くなってきたなぁ!!いいね、いいね!!」


その後も鷹沢たちは罵詈雑言を星霞たちに浴びせかけてきたが、星霞たちは無視を決め込んで、ただ開始の合図を待ちながら臨戦態勢に入っていた。



審判が拡声器を使い、ルールの確認を会場に行い始めた。


「皆さん、注目の闘技祭がいよいよ開幕です!1試合目は、鷹沢チームと星霞チームの試合です。試合が始まる前に、試合のルールを簡単にご説明しましょう。


まず、闘技祭はチーム戦の形式で行われます。それぞれの参加者が腕に装着する特別な魔道具が、この試合の重要なカギとなります。この魔道具は攻撃のダメージを自動で計測し、ライフポイント、略してLPを減少させる仕組みになっています。


各選手に与えられるLPは100ポイント。攻撃を受けるごとにLPが減少し、最終的にLPが0になった場合、その選手はラウンドから退場となります。また、リングの外に出た場合も退場扱いとなります。


ヒーラーが回復を行えば、LPは回復することが可能です。ただし、状態異常によって視界を奪われるなどしてもLPは減少せず、あくまでダメージを受けた際のみLPが減少します。


LPが0になるまで、選手は身体的な苦痛を感じることはありませんが、LPが0になった後は通常と同じようにダメージが通るようになります。そのため、LPが0の選手に対する攻撃はルール違反となりますので、ご注意ください。


ラウンドの制限時間は20分間です。時間切れとなった場合は、LPが多い方が勝者となります。ただし、判定が難しい場合には審判団が勝敗を決定することになります。その際の審判の判断に異議を申し立てることはできません。


もし試合参加者にダメージがあった場合は、ラウンド終了後にはヒーラーによる治療も行われますので、ご安心ください。


以上が闘技祭のルールです。皆さん、ルールをしっかりと守って、全力で戦い抜いてください!」


そして、パーティ戦の開始を告げるホイッスルが鳴り響き、両チームはスタート地点から一気に動き出した。


「やるぞ、お前ら。いつも通りだ。蹂躙だ!!!」

「「「「おう!!!」」」」



______________________________________


読んでいただいて本当にありがとうございます(TT)


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