第26話 闘技祭初日①
「間に合わなかったなぁ」
暁はアイリスとダンジョン探索を続けていた。すでに今日は闘技祭の初日。暁は、アイリスとダンジョン探索をしていた。
時雨暁
スキルレベル25(1321/2500)
サージポイント500/1200
発動条件
・塔内であること
・パーティメンバーがいないこと
スキル
①固定式絶対防御結界
・結界範囲:接触箇所
・結界同時発動数:50枚
・結界発動時間:48時間
・消費サージポイント:1
②可動式絶対防御結界
・結界範囲:接触箇所
・結界同時発動数:30枚
・結界発動時間:10分
・消費サージポイント:10
③・・・
アイリス・シフト
スキルレベル10(568/1000)
サージポイント300/400
発動条件
・翼を発現していること
・牙を発現していること
スキル
①物体創造
・物体の種類:視認経験、理解の範疇である物
・物体の質:オリジナルの1/10
消費サージポイント:100
②空中高速機動
・最大速度:通常走力3倍
・空間認識:周辺地形を音波認識
消費サージポイント:1ポイント/分
③・・・
固定式防御結界が2日間展開可能になったことで、これまでのように約半日進んだ地点ぐらいで折り返さなければならない制約がなくなった。以前は、24時間しか結界で入口を塞ぎ、家へのモンスター侵入を防がなければならなかったため、どうしても早めに戻らざるを得なかった。しかし、固定式防御結界維持期間が2倍になった今では、かなり奥深くまで探索できるようになり、今回は12時間ほど進み、ランクC帯が出現する地点まで到達していた。
アイリスの物体創造や空中高速機動の能力は驚異的だが、それ以上に暁に衝撃を与えたのは、アイリスと一緒にいる状態でも防御結界を展開できることだ。地下室にアイリスと入り、一番最初に気付いたのがこのことだ。
「なぜ??パーティメンバーがいないことが条件なのに・・・アイリスは僕のパーティメンバーとして認識されていない・・・?いや、おそらく、アイリスは半人半獣であるから、もしかしたら、パーティメンバーとしての認識ではなく、使役獣枠としての認知なのだろう」
確かにスキルウィーバーの中には、獣を自分の使役獣として扱い、戦闘に参加させている例は聞いたことがある。おそらくこの場合でも、この使役獣は、自分のパーティ「メンバー」として、スキルは認知していないのだろう。
暁は防御結界を展開しながら、アイリスに視線を向けた。アイリスは不思議そうに首を傾げているが、特に異変を感じている様子はなかった。
「アイリス、君は何か感じるかい?僕の防御結界が展開されてるのに、君がいることで条件が崩れてないみたいなんだ」
アイリスは少し考え込んでから答えた。「特に違和感はありません。ただ、もし私が『使役獣枠』として扱われているのだとしたら、それが暁様のスキルの認識なのかもしれませんね」
暁は頷きながら、さらに深く思考を巡らせた。「そうだな……もしかしたら、スキルの条件が僕の意識や解釈によって柔軟に変化しているのかもしれない。僕は君をワイバーンとして認識しているから、僕のスキルである『パーティメンバー』という制約を回避できる存在になっているのかもしれないな…」
「それは、良いことなのでしょうか?」
アイリスが慎重に尋ねると、暁は肩をすくめて笑った。「これはすごい発見だよ。正直言って、僕たちは最強になった可能性があるね」
「最強……ですか?」
アイリスは目を輝かせて尋ねる。暁はにっこり笑いながら続けた。
「ああ、例えば、僕の可動式防御結界とアイリスの高速機動を組み合わせてみるとしよう。君がその結界を身にまとい、超高速で自由に動き回り、相手に突撃する姿を想像してみてほしい。そうすれば、誰もアイリスの攻撃を止められないと思う。これは、この聖域使いのスキルの盲点を突いている気がするんだ。一人でも規格外の力を持つ者が、使役獣を使って攻撃することを想定していないように思うからね。僕がアイリスと出会い、まさか主従の誓いを交わすなんて、誰が想像することができるのか。奇跡的だと思うよ」
アイリスは軽く頷き、体を人間の姿のままで維持しつつ、背中から翼を生やし、口元に少し牙が見えるようになった。アイリスは局所的に翼と牙を出すことで、半人半獣の状態となり、自分のスキルを使って空中に浮かぶことができる。
アイリスはスキルを発動し、空中に浮かぶ。暁はアイリスの手を取り、結界の調整に集中し、アイリスの体全体を結界で包み込んだ。そして、アイリスが自由に飛び回れるか試すことにした。アイリスが自由に飛び回れることを確認した暁は、満足げに微笑んだ。
「凄い・・・」
暁は感嘆しながら言い、彼らの新しい力の可能性に暁は少し興奮を覚えた。
「暁様、これならどんな敵が来ても圧倒するのではないでしょうか?私もこの力には凄い可能性を感じます」
「そうだよな・・・。とにかくこの力を使ってダンジョンを探索していこう」
暁とアイリスは皮の袋に食糧や水などの補給物資を詰込み、ダンジョンに深く潜って行った。
そしてランクC地帯に到着した。
アイリスは基本索敵をしながら前に進み、警戒しながら着実に進んで行った。
「何かいます」アイリスは暁に低くつぶやき、2人はその場で身構えた。
暁とアイリスが気配を感じたその直後、ダンジョンの奥から現れたのは、ランクDモンスターである「鋼甲獣」だった。体長は3メートル近く、全身を分厚い鋼のような甲殻で覆われたその姿は威圧的で、鋭い爪が地面を削りながらゆっくりと近づいてくる。
「鋼甲虫か……ちょうどいいな」
暁は低くつぶやきながらも、冷静な視線をモンスターに向けた。一方、アイリスは翼を大きく広げ、爪を光らせて準備態勢に入る。
「暁様、どのように動きますか?」
「まずは僕の防御結界が鋼甲虫の装甲を貫けるか試してみる。鋼甲虫は鈍重だけど防御力はランクD内では最上位クラスだ。もし僕の防御結界が奴の装甲を貫けたら、アイリスの高速機動を使って突進だ。アイリスの速度を活かして一撃で決める」
アイリスは頷くと一瞬で宙に舞い上がった。彼女の翼が風を切る音がダンジョン内に響くと、鋼甲虫はその巨体を揺らしながらキチキチキチと威嚇音をたてた。
暁は、手の中に手裏剣の形に結界を発現させ、鋼甲獣に投擲した。
「いけぇぇぇえええええ!!!」
結界は空中で煌めきながら鋼甲虫に向かっていき、鋼のように硬い装甲に当たった。そして、結界が装甲に小さな亀裂を作り、鋼甲虫の体内へとめり込んでいった。その衝撃が鋼甲虫の巨体を揺さぶり、一瞬動きを止めた。
「奴の装甲は破れる!!いけるぞ!アイリス、突進だ!」暁は声を張り上げた。
アイリスはその指示に即座に反応し、風を巻き起こして、次の瞬間、鋼甲虫の前に姿を現した。彼女の目は冷静で、その瞳には決意が宿っていた。瞬く間にその速度を限界まで引き上げ、アイリスはまるで空気を裂く矢のように鋼甲虫に突進していった。
鋼甲虫は必死に反応しようとしたが、その巨体の鈍重さが仇となり、アイリスの攻撃を避けきれなかった。彼女が体当たりの一撃は、鋼の装甲を一瞬で粉砕し、獣の内部に深く突き刺さった。鋼甲虫は音を立てることもなく、その場に崩れ落ちた。
暁は息を呑み、アイリスが無事に戻ってくるのを見守った。アイリスはそのまま鋼甲虫の前に立ち、冷ややかに一度その姿を見下ろしてから、振り返って暁に向かって微笑んだ。
「凄まじい威力ですね。暁様の力でどんな敵も粉砕できるように思います」
暁はその言葉に肩をすくめた。「まぁ、この戦法で破壊できる限りは敵無しだけど、全てのモンスターが同じような鈍重ではないだろうからね」
暁は結界を解除し、アイリスの隣に歩み寄った。鋼甲虫は完全に沈黙していた。
「暁様、これがランクDモンスター……信じられないです。昔の私であれば絶対に倒せない相手でした」
「そうだな。でも、僕と君がいればこの程度の相手なら問題ない、ということが分かったね」暁は微笑みながらアイリスの頭を軽く撫でた。
その時、アイリスが何かに気づき、再び警戒を強めた。「暁様、気をつけてください。近くにまだ別の気配が……!」
暁は眉をひそめながら辺りを見回した。「どうやら、この戦いはまだ終わってないみたいだな」
二人は新たな敵に備えて緊張感を高めた。
次の瞬間、遠くから無数の羽音が響き渡った。ダンジョンの奥に広がる暗闇の中、羽虫たちの群れが見え隠れしている。数は数百、いや、数千匹にも及び、小さな体に鋭い足と光沢のある黒い羽を持つそれらはランクEの個体だが、集団で襲いかかることでランクCの脅威をもたらしていた。
「これは厄介だな…」暁は息を呑んで辺りを見渡し、自身の周囲に防御結界を展開し、アイリスに新たな可動式防御結界を纏わした。透明な結界が空気を震わせ、羽虫たちが超高速で衝突するたびに次々と倒れていった。しかし、羽虫たちはそれに屈することなく、さらに押し寄せてきた。
「アイリス、飛び回れ!結界の持ち時間はあと10分だ!時間を意識して動いてくれ!」暁は声を上げた。アイリスは素早く反応し、暁の周囲を旋回しながら羽虫たちを次々と破壊していった。しかし、次々とぶつかる羽虫たちの衝撃で、アイリスの飛行速度も徐々に落ちていく。そして、暁の結界も羽虫の死骸とその体液で真っ黒になっていた。また羽虫の羽音でダンジョン内は響き渡っていた。
「暁様!!周囲の虫がもっと多くなってきています!」アイリスが声を上げ、辛うじて暁はアイリスがどこにいるかが分かる。暁の周りの結界がどれだけ羽虫を弾き飛ばしても、羽虫たちが押し寄せる勢いは衰えなかった。
どれだけ殺しても、それを上回る勢いで羽虫が増えていく。この羽虫の一撃一撃は、今奴らの飛び回るスピードで防御結界なしで当たれば致命傷になる。
時間が経つにつれて、暁は焦り出した。
暁の結界は1日持続するが、アイリスの防御結界の持続時間には限界があるため、暁は次の手を考えなければならなかった。
(まずい、そろそろアイリスの防御結界を張り直さないと!!)
そう思い、暁はアイリスに向かって叫んだ。
「アイリス!!!聞こえるか!!!!こっちに来い!!結界を張り直す!!」
「わ・・・か・・・り・・・た」
羽虫が出す羽音が爆音で響く中でも、かすかにアイリスの声が聞こえた。
アイリスは周囲を見渡して敵の動きを分析した。羽虫たちにぶつかる度に、アイリスの飛行軌道はズレていく。
「アイリス急げ!!!」
「・・・くっ!!」
アイリスは暁に向かって移動するが、辿り着けない。
アイリスは一瞬だけ動きを止めてその場所に蹴りを入れるような動作を見せた。羽虫たちはその動きに驚き、一部が乱れ飛んだが、すぐに新たな群れが形成され、攻撃の手を緩めなかった。
一瞬アイリスの姿が視認で来た。もう少しの距離だが、まだ遠い。
(まずい、この状況下で彼女結界が解除されたら、彼女はハチの巣だ・・・)
アイリスは羽虫たちにぶつかり、弾き返される度に暁から遠ざかりそうになる。依然として続く数の圧力にアイリスは必死に抗った。
羽虫たちの数は依然として多く、結界に当たっては弾き返されるものの、次々とその群れは押し寄せてきた。暁は冷静にその状況を分析した。
よく見ると羽虫たちは低空飛行してはいない。
「下だ!!!地面だ!!」
アイリスは、正確に暁の指示を理解し、自分の位置を分かるようにダンジョンの床に猛スピードで激突。ド―――ン!!!!という音が聞こえ、暁はその音の方向にアイリスがいることが分かった。
暁は自分に可動式防御結界で覆って、自分の固定式防御結界を解除し、匍匐前進をしながらアイリスに近寄った。
「アイリス!!!!」
アイリスは這いつくばりながら手を伸ばし、暁はアイリスの手を掴むことができた。
「展開!!!」
暁はアイリスの可動式結界を張り直すことに成功した。
アイリスは再び空中に舞い、周囲の羽虫を蹴散らしていった。暁もそこら中に固定式防御結界を張りまくり、激突して殺していける羽虫の数を飛躍的に増やしていった。
アイリスは羽虫たちが集中して集まっている場所を見つけると、そこに向かって素早く突進した。アイリスの動きにより、群れの一部が混乱し、他の羽虫たちもその動きに驚いて飛び散った。
暁の固定式防御結界に、羽虫は次々と衝突し自爆していった。その間にアイリスはさらに猛烈な勢いで動いて群れを削っていった。
その後、数度アイリスの防御結界を張り直した。
「暁様、あと少しで全てを片付けます!」アイリスは勢いよく声を上げ、最後の一撃を決めるような動きを見せた。彼女は羽虫たちが集まっている中心地点に急速に移動し、その一瞬を狙って強烈な回転を始めた。アイリスの周りに空気が渦を巻き、羽虫たちがその圧力に押しつぶされていく。
一瞬の静寂の後、羽虫たちが空中で消え去り、その群れの中にいたすべての個体が崩れ落ちた。アイリスは軽く息を吐き、穏やかな表情を見せた。暁も結界を解除し、彼女の元に歩み寄った。
「やったな、アイリス・・・。最強とは思ったけど、敵によってはしっかりと戦法を考える必要があるな・・・危ない所だった。アイリスとの連携攻撃は、まだまだ考える所が多い。けども、アイリスのおかげでこの戦いも無事に終わったよ。ありがとうね」暁は微笑み、アイリスの頭を撫でた。アイリスは少し顔を赤らめながら、柔らかく微笑み返した。
「暁様、次はもっと大きな敵にも対応できるように、訓練を重ねますね」アイリスの目は力強さを宿していた。
暁もその言葉に頷き、「それなら、僕もさらに鍛えておこう。二人でどんな敵にも立ち向かえるようになろう」と言った。
戦場に静けさが戻り、二人は床に散らばっている無数のランクE魔核を拾い始めた。
「アイリスもまずは凜の分の魔核を袋いっぱいに集めてくれ。それが終わったら、後は自分で吸収して構わない」
「はい!!」
そう言って、袋をいっぱいにした後は、拾わずにただ足で魔核を踏み砕いていった。辺りは濃密な魔素が発生し、暁とアイリスの体に吸収されていく。
「こんな・・・こんなことが可能なんて・・・暁様・・・」
黙々と踏み砕きながら、力が満ちていくのを暁とアイリスは感じていた。
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