第20話 ダンジョン探索③

荒い息を吐きながら、暁は地面に座り込んだ。ここまでこれば安全だろう。


目の前には飛んできた子供のワイバーンがダンジョンの床に降り立ち、こちらに向かって視線を投げかけている。何もないダンジョンの中は静寂が訪れていた。


後方に木霊していた蜘蛛たちの絶叫は消え去り、今は何も聞こえない。


ワイバーンはゆっくりと暁に近づいてきた。そして数歩手前になると、その頭を下げて、自分の頭を見せてきた。


(撫でろってことか??)


そう思い、暁はワイバーンの頭を触り優しく撫でてみた。


ワイバーンは嬉しそうな小さな鳴き声を上げ、とても気持ちよさそうにしていた。そして、彼に感謝しているかのように、キュー、と鳴き、暁を見た。


そして、ワイバーンと暁の体が紫色の光に包まれた。


「な・・・!!??」


攻撃か?と思いつつ、いやこの表情からの攻撃はないだろ、と思いつつ、暁は後ろ飛び退いた。


何事もなかったかのように、ワイバーンはこちらにキューと鳴いているだけだった。その仕草は、まるで人間に感謝を伝えようとしているかのようだった。


「一体何なんだ??」

暁は警戒しながら、そう呟いた。だが、モンスターとの意思疎通が成立するなどという話は聞いたことがない。この世界で、塔のモンスターと人類は敵対する存在であり続けた。それでも、今目の前にいる小さなワイバーンの行動は、確かに感情を持つ生き物のように見えた。


「未知との遭遇……ってやつかもしれないな」

暁は複雑な気持ちを抱えながらも、目の前のワイバーンを観察し続けた。これまで塔の探索で数多のモンスターを見てきたが、このような出会いは初めてだった。


子供のワイバーンは暁の方を向いた。その目はまだ幼いながらも、何か強い決意を秘めているように見える。


「……ついて来るつもりか?」

暁が尋ねると、ワイバーンは「キュピ!」と元気よく鳴いた。


「冗談だろ……」

暁は困惑した。拾ってきた捨て犬じゃないんだ。モンスターを連れての生活なんて考えられない。そう思い、「いや、お前は・・・」と言いかけた時、子供のワイバーンの体が淡い光に包まれた。まるで魔力の波動が周囲に広がるように、温かくも不気味な輝きが辺りを満たした。


「……何だ、これ?」

暁は驚いて後ずさった。そして、次の瞬間、光が収まった時に目に飛び込んできたのは――暁と同じくらいの歳の、銀髪の美少女だった。


目の前の少女は華奢な体つきで、白い服のようなものが体にまとわりついている。彼女の瞳はワイバーンのそれと同じ、深い琥珀色をしていた。


「ありがとう……私たちを助けてくれて」

少女が優しい声で語りかける。


「は……???」

暁はあまりの事態に言葉を失い、思わず硬直してしまった。



(も、モンスターが……人間に化けた?)

彼の脳内には疑問が渦巻いていた。これまで塔で遭遇したモンスターは、異形の姿そのものであり、人間らしい知性を感じたことは一度もなかった。だが、この少女は明らかに知性を持ち、人間としての言葉を話している。


「どうして……お前、ワイバーンだったはずだろ?」

暁は恐る恐る問いかけた。


少女は少し悲しげな表情を浮かべ、手を胸元に置くとこう言った。

「私は『半人半獣』の一族。普段は獣の姿だけど……人間の姿も取ることができるの」


暁は言葉を失った。この塔にそんな存在がいるなど、聞いたことがない。彼女が本当にモンスターなのか、それとも別の何か特異な存在なのか、全く分からなかった。


「私の名前は……アイリス。私はあなたに心の底からお礼を言いたいの。信じてもらえないかもしれないけどね」

アイリスと名乗った少女が、かすかに笑う。その笑顔には純粋さが感じられ、暁は一瞬で何も言えなくなった。


「お礼……?」

暁が思わず返すと、アイリスはこくりとうなずいた。


「あなたがいなかったら、私は命を失っていた。あなたが倒したあの大蜘蛛どもは、私たちの宿敵……父も母も、また私の兄弟姉妹たちも、そのために命を……」


アイリスは悲しげに目を伏せたが、すぐに顔を上げた。


「だから、本当に感謝してるの。私の一族は既にもう私だけしかない。私は私の命を助けてくれた、あなたを私の主としてこれから生きていくことに決めたわ」


暁は混乱しながらも、アイリスの言葉が嘘ではないと直感的に感じた。しかし、彼女が語る『半人半獣』や、『宿敵』という言葉の裏にある真実は、全くの未知だった。


「……とりあえず、単純に君の話を鵜吞みにするわけにもいかない・・・どういう事情なのか教えてくれないか?」

暁がそう言うと、アイリスは小さくうなずいた。


こうして、暁とアイリスの奇妙な関係は始まった。ダンジョンに隠された新たな謎が、今まさに暁の前で明かされようとしていた。


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