第16話 偵察

帰り道に暁は学校に寄った。暁が聴いた噂では、鷹沢たちは学校の施設の模擬戦道場で、自分たちの親から手配してもらったプロの探索チームと練習に励んでいるとか。


「今日もまだやってんのかな~」


そう思って、模擬戦道場の方へ歩いて行ってみた。


ド――ン!!!ド――ン!!!ド――ン!!!ド――ン!!!


模擬戦道場からは大きな音がしていた。


模擬戦の練習場に到着した暁は、同乗の中を見ると、鷹沢チームが他の学生チームと戦っていた。その戦いは、一言でいえば圧倒的だった。


「すごい……」


暁は素直に感嘆の声を漏らした。鷹沢チームは、開始直後から相手の生徒チームを翻弄し、完全に試合の主導権を握っていた。


前衛の鷹沢は、強力な剣技を駆使して相手の陣形を一瞬で崩す。後衛のメンバーも息の合った連携でサポートを行い、相手の攻撃をことごとく封じ込めた。


「ここまで動けるのか・・・圧倒的だな」暁は冷静な表情を保ちながらも、心の中では驚きを隠せなかった。


生徒チームが全て戦闘不能になったので、鷹沢は「次!!」と叫んだ。


次の相手は学生ではなく、実際にギルドで活動している探索チームようだ。


「本気か……?」


プロの探索者たちが学生相手に模擬戦を行うのは極めて珍しいことだ。


「あれが、鷹沢の親が手配した探索者たちか・・・ギルド所属の探索者相手でも勝てるのか?」


試合開始の合図とともに、ギルド探索チームが動き出す。彼らの動きは洗練され、圧倒的だった。通常の学生チームでは到底太刀打ちできないほどのスピードと正確さで鷹沢チームを追い詰めていく。


だが、鷹沢チームも負けてはいなかった。鷹沢の指示の下、チームは絶妙な連携を見せる。前衛が敵を引きつけ、後衛がカウンターを狙う。一見劣勢に見える場面でも、彼らは冷静に状況を立て直していく。


「これがギルド探索者相手にここまで戦えるとは……」暁は腕を組みながら、じっとその戦いを観察していた。


試合の中盤、鷹沢が一気に勝負をかけた。前衛で敵を押さえ込んでいた彼が、力強い斬撃を繰り出す。その一撃はギルド探索者たちの防御を突破し、流れを大きく引き寄せた。


「まさかここまでやるとはな……」探索者たちのリーダーが唇を噛みながらつぶやく。その声には焦りすら感じられた。


最終的に、鷹沢チームは模擬戦を制した。


「やっぱり鷹沢さんはすごいですね!」「プロ相手に、俺たちここまでできるなんて!」


鷹沢のチームメイトたちは、鷹沢の周囲の集まり、自分たちのチームリーダーを褒め称えていた。


しかし、暁は鷹沢のチームメイトとは違う視点で戦いを見ていた。


(鷹沢たちの連携は確かに見事だ。ただ、探索者チームが全力を出していたとは思えない……いや、全力を出せなかった、と言うべきか。さすがに自分のギルドの上役の子供を叩きのめせないよな)


プロの探索者たちを相手に圧倒的な力を見せつけた彼らは、自信と興奮に満ちた顔でいた。


模擬戦も終わり、探索者たちも何か鷹沢たちと話をして、早々に退散していった。

(もう終わりだな・・・)


その場の片隅、影に隠れるようにして戦いを見ていた暁も、静かに退散しようと動き出した。


そのときだった。


「おい、そこのノンウィーバー!」


振り返ると、鷹沢が険しい表情で道場の中心に立っていた。


「……?」暁は自然を装いながらも、状況を冷静に分析していた。


「おい。お前が何故ここにいる?」鷹沢が大声で暁に向かって叫んだ。


どうやら暁が柱の後ろから隠れてみていたのを見つけたようだ。もう既に見つかっていたので、降参したように暁は柱から身を出した。


「何って、偵察だよ。僕は星霞さんたちのチームに入ることになったから、君たちの動きを確認してただけだ」暁はあっさりと事実を述べた。


「偵察だと?」


暁は少し肩をすくめて言った。「単純に、君たちの邪魔をするつもりはなかったから僕の事は気にしなくていいよ。君たちも学校の施設を使っているんだ。誰かが見ても文句はないだろ?」


「おいおい。ノンウィーバー、お前態度が大きいなぁ。偵察だから見に来たって言ったよな?」鷹沢が声を張り上げる。「だったら、直接感じてみろよ。俺たちの攻撃がどんなものかを!」


チームメイトたちも不敵な笑みを浮かべ、周囲に陣を作り始める。暁を囲むように立ち回り、その意図は明らかだった。


「……攻撃を感じろって?」暁は眉をひそめ、面倒そうに問い返した。


「そうだ。言葉じゃなくて身体で理解させてやるよ!俺たちがどれだけ強いかをな。お前の姿が、星霞たちにとっていい参考になるといいなぁ!!!」鷹沢がそう言い放つと、チームメイトたちも戦闘態勢に入った。


「おいおい、本気か?」暁は少し後ずさりしながらも冷静な口調を保っていた。「俺はノンウィーバーだぞ。戦闘は専門外だ」


「そんなこと関係ないだろ!俺たちの視察に来たんだ、歓迎してやるぜ!!」一人のチームメイトがすでに突進を開始していた。手にした模擬戦用の剣が暁を狙って振り下ろされる。


「ったく、仕方ないな」暁はその瞬間、わずかに体をひねり、剣の軌道をギリギリで回避した。


「おいおい。様子見はいいぜ。本気でやってやれよ」と、鷹沢は初撃を繰り出したチームメイトに言った。


次々と鷹沢チームが攻撃を仕掛けてくる。しかし、暁は巧みな動きで全ての攻撃を避け続けた。


「おいおい、お前たち遊び過ぎだぜ!」鷹沢が笑いながら叫ぶ。「もう当てていいんだぜ!」


しかし、鷹沢のチームメイトたちは段々と焦り始めた。


(おいおい、まじかよ。全く当たんねぇぞ)

(こいつ、本当に暁か・・・?動きの切れが違い過ぎる)

(全部スレスレで避けてやがる・・・こっちの動きを見切っているのか?)


暁は相手の動きを観察しながら、余裕を持った声で答えた。「十分わかったよ。お前らの連携がいかに見事かってな」


鷹沢たちはさらに攻撃の手を強め、暁を追い詰めようとする。


「おい!!お前ら!!もういい加減にしろ!!」鷹沢が苛立ちを隠さずに叫ぶ中、暁は冷静に周囲の状況を見ていた。


(連携は確かに素晴らしい。ただ……)


暁は一瞬の隙を見つけた。攻撃のリズムが一瞬乱れた瞬間だった。


「そろそろ終わりにしようか」暁は小さくつぶやき、軽やかな足取りで攻撃の軌道を完全に外しながら、鷹沢のチームメイトたちの間をすり抜けた。


「なっ……!?」鷹沢たちは全員が驚愕の表情を浮かべる。暁が攻撃をかわしただけでなく、攻撃の届かない位置に完璧に移動していたからだ。


「お前らがどれだけ強いかはよくわかったよ」


「逃がすかよ!!おらぁぁぁ!」そこに鷹沢が猛スピードで接近し、鷹沢の全力の一撃が、ついに暁に直撃した。


暁の体は吹き飛ばされ、模擬戦場の壁を突き破った。大きな音を立てて壁の破片が散らばり、鷹沢のチームメイトは活気で湧いた。「さすが鷹沢さん!!」


「やったか……?」鷹沢は額の汗をぬぐいながら、息を整えつつ壁の穴を見つめる。


穴の先からは何の反応もない。あの一撃を喰らい無事でいるはずもない。


「おーい、暁ー、まだ終わりじゃねぇぜ」


ニヤニヤとした鷹沢のチームメイトたちはゆっくりと穴に近づき、穴の向こうを覗き込んだ。だが、そこに暁の姿はなかった。


「消えた……?」

「どこだ、暁!」鷹沢は模擬戦場を飛び出し、辺りを探し回っていた。

「逃げやがったのか……!」その声には苛立ちがにじみ出ている。

「けどよぉ、あの鷹沢さんの一撃を喰らってまだ退避する力が残っていたのか?」

「そんなバカ・・・」


「俺もどこかで手を抜いてしまったんだろう」

鷹沢は自分の拳を見て、暁に当たった時の感触を思い出して、思ったより殴った感触が無かったことを思い出した。


「気味の悪い奴だ・・・」



◇◇◇◇



壁の向こうに倒れていると思われた暁は、すでにその場を退避していた。攻撃がクリーンヒットする直前に、体を少しだけひねり、衝撃の力を利用して安全圏まで飛び出したのだ。


(ふぅ……やっぱり無茶をする奴らだな)


暁は息を整えながら建物の裏手に身を隠し、周囲を警戒した。


(まぁ、これ以上やり合っても無意味だ。適当に身を引くとしよう)


暁は軽く頭を振り、足音を忍ばせながらその場から立ち去る準備を整えた。


遠くから鷹沢たちの声を聞きながら、暁は建物の影から姿を消した。


(あいつら、大した執念だな)


暁は軽く微笑みを浮かべると、空を見上げながら歩き出した。


(これで少しは俺の役目も果たせたってもんだろう。さて、明日にでも星霞さんに話をしにいくか)


静かに姿を消した暁の背中は、どこか楽しげだった。


______________________________________


レビュー★★★をよろしくお願いしますm(_ _)m

今後の創作活動の励みになります(><)

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