第15話 ミリタリーアント

「何かおかしいわ・・・この音、何かいるわ。結衣、前に出て」

結衣が頷き、漆黒の柱を展開。敵の姿はまだ見えないが、雪乃の霜獄結界がじわじわと冷気を広げていく。


突然、星霞たちを囲むように、無数の小さな目が周囲に光り出した。ミリタリーアントの群れだ。ミリタリーアントは、体が1メートルぐらいの巨大なアリだ。口の牙で噛まれれば、遅効性の毒を体内に注入され、徐々に戦う力を低下していく。


しかも、この数えきれないほどの数。


「前方ミリタリーアントの群れだわ!!全員後退!!!!」


「ダメ!後ろもいるわ!おそらく周囲の穴から出てきたんだわ!ミリタリーアントの巣よ!」


「沙羅!注意して接近戦に入らないで!」星霞がすかさず指示を出す。


「了解!」沙羅が後退し、星霞の月光刃が夜空のように輝く斬撃を放つ。ミリタリーアント

を遠距離から一撃で仕留めるその精密さに、暁も感心したように目を見開いた。


しかし、ミリタリーアントの数は多い。仲間が攻撃されそうになると、水城未来が「水鏡幻影」を発動し、全員の姿が水のヴェールに包まれ、一時的に透明化する。ターゲットが消えたことで、ミリタリーアントが戸惑った。その隙に、雪乃が冷気を全体に広げ、敵の動きを鈍らせることに成功した。

「これで少しは動きが制限できたわね」雪乃が冷静に呟く。


一方で、暁は群れを分析し弱点を探そうとしていたが、見当たらない。

「まずいな・・・突破口がない」


「沙羅、再度索敵をお願い!」星霞が指示を飛ばすと、沙羅が頷き、風のように空中に飛び出した。


空から見えるミリタリーアントは、50匹ぐらいの大群だ。星霞璃月たちの探索隊は、精神的に混乱に陥りそうになっていた。


星霞璃月は冷静に指示を出していたが、無数に湧き出るアリたちの波に押され、戦線を維持するのが困難になっていた。


「神楽、左側の群れを崩して! 篠崎、結界を右側に集中させて!」と叫ぶ璃月。彼女の「月光刃」は遠距離から次々と敵を仕留めるものの、その数は減るどころか増え続けている。


神楽沙羅は目にも止まらぬ速さで駆け抜け、「風刃疾走」による連撃でミリタリーアントの防御を突破するが、次々に出てくる敵に追い詰められていた。

「ちょっと多すぎない!? あいつら湧きすぎでしょ!」と軽口を叩きつつも、その表情には焦りが見えた。


一方で、篠崎結衣は「漆黒の守護」で漆黒の柱を出現させ、仲間たちを守っていたが、防御に回りすぎて攻撃する余裕がなくなりつつあった。


神代雪乃は「霜獄結界」で敵の動きを遅らせ、可能な限り状況をコントロールしていたが、それでも押し寄せる敵の勢いは止められない。

「まだ足りない……これじゃ全員を守りきれない……」と冷静に分析しつつも、その声には焦りが滲んでいた。


水城未来は幻影を作り出し、敵の目を惑わせていたが、次第にその効果も限界を迎えつつあった。「このままだと全員が……」と未来は呟き、絶望の色を隠しきれなかった。明らかに探索隊全員が追い詰められ、絶体絶命の状況に陥った。


暁は背負っていた大きなバッグから魔道具を取り出しながら、低く呟いた。

「ここで何もしなければ、全滅だな……」


彼の手には、青白い光を放つ「烈風の小手」と「烈氷の短剣」が握られていた。魔核を装着するたび、魔道具が響き渡る音と共に力を解放していく。


「烈風の小手」

種類: 小手

属性: 風

スキル

F. 風速の刃範囲攻撃小手を使って風を操り、前方に風刃を発生させる。短距離で鋭い斬撃を繰り出し、敵に風属性のダメージを与える。範囲内にいる複数の敵にダメージを与えることが可能。(1)

E. 広範囲の全方位に風刃を発生させ、敵に風属性のダメージを与える。範囲内にいる複数の敵にダメージを与えることが可能。(1)

D. 強力な風のバリアを展開し、物理攻撃や遠距離攻撃を防ぐことができる。(1)

C. 嵐の一撃特殊攻撃小手から強力な風のエネルギーを放ち、前方に大きな嵐を巻き起こす。(1)

B. ????

A. ????


「烈氷の短剣」

種類: 短剣

属性: 氷

スキル

F. 氷の一刺し:短剣を突き刺すと、氷のエネルギーが対象に注ぎ込まれ、内部から凍結させる。敵の動きを一時的に遅くし、凍結状態にすることで行動を制限できる。(1)

E.強力な氷の衝撃を敵に与え、ダメージを与えるとともに、触れた敵に凍結を引き起こす。(1)

D.短剣を掲げて冷気をまとい、氷の壁を召喚して防御する。このバリアは、物理攻撃を一定量無効化し、氷の力で反撃する。バリアが破れると、周囲の敵に氷のダメージを与える。(1)

C.短剣を空中で舞わせると、周囲に氷の嵐が巻き起こる。嵐に巻き込まれた敵は凍結し、攻撃力が大幅に低下する。このスキルは範囲攻撃となり、複数の敵に影響を与える。(1)

B. ????

A. ????


ランクFスキルしか使ってこなかったのだが、どんどん他のスキルの使用回数も減っていっていた。おそらく、どのスキルを発動させても、魔道具は1回しか持たないのだろう。


(僕一人であれば逃げられるが、彼女たちを置き去りにはできないしな・・・)


そう決断した暁は、魔道具を使い血路を拓くことを決めた。


周囲の空気が変わったのを感じた星霞たちは、一瞬だけ動きを止めて暁に視線を向ける。

「何を……?」「暁君……?」


「全員中央に戻って!!」


その声を聴き、戸惑いながらもジリ貧の状態を抜けられないことは実感していたメンバーたちは、暁の自信のある声に従わざるを得なかった。


全員が中央に戻って来たのを暁は確認した。


「みんな、僕が合図した上空にジャンプして!」


有無を言わなさいその指示に、皆目を見開いた。一体何をしようとするのか?


「今だ!!!」


メンバーたちは上空へと同時に跳び上がった。


スキルレベル7のスキルウィーバーたちであれば、3~4メートルほど跳び上がることは容易なことだった。


彼女たちが上空にいる間、暁が最初に放ったのは、烈風の小手を用いた広範囲風刃攻撃だった。青白い風が荒々しく草原を駆け抜け、前線にいたミリタリーアントを吹き飛ばし、切り刻んでいく。アリたちはバランスを崩し、攻撃態勢を崩した。


「すごい・・・」他のメンバーは口をそろえて、目の前で起きている光景に唖然とした。


「なかなかの威力だろ?」暁は冗談めかして呟いた。次の瞬間、手に装着していた小手が音を立てて粉々になった。


(母さん、ありがとう・・・)


周囲のアリたちは爆風と風の刃で壊滅的な状況になっていた。まだ大量に蠢くアリたちの包囲網の中で、最も薄い所は、2、3匹のアリしかいない。


「あそこだ!!」


暁が指し示す方向を見て、全員が次の行動を察した。


地上に降り立ったメンバーたちはその包囲網の最も薄い箇所に向かって猛然と走り始めた。


周囲のアリたちがその突破口となっている部分に集まってくる。


次に暁は、烈氷の短剣を手に取り、魔核の力を最大限に引き出し、巨大な氷の刃が目の前に出現し超加速しながら、目の前のアリたちを吹き飛ばしていった。飛ばされたアリたちは切り裂かれ、刃の余波により周囲のアリたちは凍りつき、動きを完全に止めた。


「暁君・・・凄いわ……!」星霞が驚きを隠せない声を上げる。


「ぼぉとするな!!逃げるぞ!!!」暁が叫ぶ。

「未来、雪乃、結衣!!バフ、デバフをお願い!!」星霞が即座に号令を飛ばす。


結衣が「漆黒の守護」で周囲を固め、未来が「水鏡加護」で自分たちを周囲を覆う。雪乃が「霜獄結界」で周囲のアリたちの動きを停めていく。


アリの群れは攻める切ることができず、6個の獲物を逃してしまう。


必死に食い下がるアリたちだが、突破口を抜け出せる所まで来た。


「やった……!」未来が安堵の声を漏らす。


「立ち止まれ!!!!!!!」


暁が叫ぶと、皆反射的に訳も分からず止まった。


そして目の前には巨大な粘液が通り過ぎていく。


暁は、周囲を警戒しながら走っていた為、横にいた巨大なアリが、何かを飛ばす仕草が見えたのだ。


しかし、目の前に巨大な粘液は、ジュワジュワと音を立てて地面を溶かしていった。さながら、マグマが地面を抉っていくような光景だった。


そして、巨大な女王アリが星霞の目の前に立ちはだかった。


「だ・・・ダメだ・・・逃げられない」


周囲には追い付てきたアリたちが再び包囲網を敷いた。

「暁君、さっきのは・・・?!」


「もうダメだ。さっきの一撃が最後なんだ」


「こ・・・こんなところで終わるなんて・・・」


「マ・・・ママ・・・」


「まだ!!まだよ!!諦めないで!!!」


メンバーたちは口々に泣きそうになっていたが、星霞は必死になってみなを鼓舞した。しかし、目の前の巨大な女王アリが粘液を飛ばす姿勢になっていくのがスローモーションで見える。


(くそ!!!!俺の聖域はみんながいる中では発動しない!!!僕一人だけで逃げるのか?!見捨てるのか??!!くそ!!!!)


その時――


明後日の方向から、鋭い金属音とともに何かが飛来し、巨大な女王アリの頭部が吹き飛んだ。続いて、男の怒声が響き渡る。

「全員伏せろ!」


星霞たちがとっさに伏せると、アリの包囲網の奥から一団の兵士たちが突入してきた。彼らは鋼鉄製の盾を構え、一糸乱れぬ動きでアントの群れに突進していく。


「誰か来た……?!」未来が驚きの声を漏らす。


その中心に立つのはリーダーらしき人物。鋭い眼光を放ち、手に持つ長槍を振るうたびに、アリたちが次々と吹き飛ばされていく。彼は星霞たちに向かって叫んだ。

「防御を固めろ!ここは俺たちが引き受ける!」


星霞たちは一瞬躊躇したが、護衛部隊の統率された動きを見て決断した。

「みんな、防御を固めて!!結衣!!」


結衣は直ぐに漆黒の守護を発動させ、柱を6人の周囲に立てた。


隊員たちは防御の陣形を崩さず、リーダーは冷静な表情を保ちながら、槍の先端から青白い光が周囲を照らし、次の瞬間、強烈な雷撃が槍の先から放たれた。雷光がアリたちの間を駆け巡り、アリたちを次々と焼き尽くす。


雷撃の余韻が消え静けさを取り戻す中、護衛兵士たちのリーダーが歩み寄ってきた。その姿は整然とした装備と落ち着いた雰囲気から、ただの冒険者ではないことを物語っていた。


「みなさん、大丈夫ですか?」

星霞はまだ荒い息を整えながらも、深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございました。まさか救援が来るとは思いませんでした。あなたたちはどこから?」


リーダーは一瞬、迷うように星霞たちを見渡し、それから小さく頷いて言葉を選びながら話し始めた。

「私たちは……あなた方の御両親の依頼で動いています」


「両親……?」星霞たちの目が驚きに見開かれた。


リーダーは続ける。

「あなた方が塔に挑む際、何かあった時のために陰から護衛するように任されていました。普段は気づかれないよう距離を取っていますが、今回のような危機があれば、直ちに救出に向かう指示です」


星霞だけでなく、他のメンバーたちも驚きを隠せなかった。未来が思わず口を開く。

「じゃあ、私たちが知らない間にもずっと見守ってくれてたってこと……?」


リーダーはうなずいた。

「はい。ですが、ここまでの危険な状況に陥るのは初めてでした。これほどの数のミリタリーアントに囲まれる事態は想定外です」


雪乃が少し険しい表情で尋ねた。

「でも、どうしてそのことを私たちに黙っていたの? 私たちが気づいていなかったなんて……」


リーダーは静かに答える。

「これはご家族の強いご意向です。あなた方の成長を妨げず、かつ万一の危機を防ぐ。それが我々の役割です」


星霞はリーダーの言葉を受け止めながら、両親の顔を思い浮かべた。

「お父様、お母様が……私たちを見守るために」


リーダーは少し表情を和らげ、言葉を続けた。

「これ以上、ここに留まるのは危険です。私たちが神々の塔の出口まで護衛します」


星霞は仲間たちを見渡し、みんなの無事を確認してから大きく頷いた。

「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」


こうして星霞たちは、護衛兵士たちの助けを得て、一路神々の塔の出口へと向かった。


その道中、彼女たちは親の想いの深さを改めて知るとともに、自らの力不足を痛感していた。星霞は心の中で誓う。


「もっと強くなる……いつか、私たちだけでこの塔を探索できるように」


そして、仲間たちもまた、それぞれの心に新たな決意を刻みながら、次の挑戦への準備を進めていった。


神々の塔の出口に向かう途中、護衛兵士たちのリーダーがふと足を止め、後方を歩く暁に声をかけた。


「君、暁と言ったね。先ほどの戦闘、見事だった」


暁は少し驚いた表情を見せたが、すぐに軽く肩をすくめた。

「ありがとうございます。でも、僕がやったのは足止め程度です。皆がいなかったら突破できなかったです」


リーダーは頷きつつも、真剣な目で暁を見つめた。

「謙遜しなくていい。包囲された状況で冷静に指揮を取り、突破口を作り出した判断力と実行力――どれも並外れている。」


兵士の一人がリーダーに続いて声を上げた。

「それに、君が使ったスキル……烈風と烈氷の合わせ技だろう? あれは並の冒険者ができるものじゃない」


暁は苦笑しながら答えた。

「まあ、魔道具頼みです。烈風の小手も烈氷の短剣も壊れてしまったので、もう使えませんけどね」


兵士たちの間から小さな笑いが漏れるが、リーダーの表情は変わらなかった。

「それでも、あの場面で瞬時に正しい判断を下したのは君だ。しかも、メンバー全員を守り抜いた。私たちが駆けつけるまで時間を稼いだのも見事だった。君に我々が保有する魔道具を渡せば、大きな戦力になるに違いない。もしよければ、私たちの部隊で働いてみないか? 君の力があれば――」


その言葉を遮るように、暁は笑いながら手を振った。

「いえいえ、僕はただのポーターですから。それに、こう見えて自分のやるべき仕事は分かっているつもりです」


リーダーは少し残念そうな顔をしたが、それでも微笑を浮かべた。

「そうか。だが、いつか必要になった時は声をかけてくれ。君のような人材を放っておくのは惜しい」


兵士たちの間からも「また会えるといいな」「君の活躍、感心したよ」といった声が次々に上がり、暁は少し居心地が悪そうにしていたが、それでもどこか満足そうだった。


その様子を見ていた星霞が小さく笑い、近づいてきた。

「暁君、すごい人気じゃない?」


暁は苦笑いを浮かべた。

「そういう星霞さんだって、護衛兵士がつくくらい大切にされてるんだから、大したものだよ」


星霞は頬を少し赤らめ、視線をそらした。

「そ、それは……両親が心配性なだけ。それに私たちの力不足が決定的な理由よ。情けなくなっちゃうわ」


そのやり取りに、周囲が少し和やかな雰囲気になった。


出口に着き、護衛兵士たちと別れ、無事に塔の外にたどり着いた。ほっと息をつく間もなく、女性陣が次々に暁に声をかけた。


最初に未来が目を輝かせて話しかける。

「暁君、本当にありがとう! あの風と氷の攻撃、すごかったわ。あれがなかったら、絶対に逃げ切れなかったもの!!」


雪乃も少し照れくさそうに頷く。

「私も……。正直、あんな状況で生きていられると思ってなかった。あなた、すごいわ」


結衣は珍しく感情を露わにして笑みを浮かべた。

「本当に感謝してるわ。今、私たちが生きているのは、あなたのおかげよ」


星霞は改めて暁に向き直り、深々と頭を下げた。

「本当にありがとう、暁君。あなたのおかげでみんな無事でいられる」


暁は皆からの感謝に少し戸惑い、軽く頭を掻いた。

「いや、僕がやったのはただのその場しのぎだよ。それに、魔道具があったから何とかできただけだし」


星霞が興味津々な様子で聞き返す。

「その魔道具、どこで手に入れたの?魔道具はそんな簡単に手に入るものじゃないはずよ」


暁は少し驚いたように目を丸くし、ため息をついた。

「あれはね……僕の両親がギルドメンバーだった頃に使ってたものなんだ。」


未来が目を輝かせる。

「えっ、ギルドメンバーだったの?!」


暁はうなずきながら続けた。

「母さんも父さんも昔はそれなりに名の知れた探索者だったらしい。あの烈風の小手も烈氷の短剣も、父さんと母さんがギルド時代に手に入れたものなんだ」


雪乃が疑問を挟む。

「でも、ランクE魔核なんて普通、手に入らないわよね。どうやって?」


暁は肩をすくめ、少し自嘲気味に笑った。

「家にあったんだよ。倉庫みたいなところで埃を被っていたよ。実際にはほとんど使われていなかったんだ。君たちのようなスキルウィーバーには必要ないものだもんね」


結衣が首をかしげた。

「それだけのものがあるなら、今でもお母さんは冒険者として活動してるの?」


その質問に、暁の表情が一瞬だけ曇った。少し視線を落として、静かな声で答える。

「母さんはね……失踪してしまったんだ。」


失踪―――


暁の言葉に、一瞬その場の空気が張り詰めた。


「失踪」とは、探索中に行方不明になったりすることを指す言葉としてよく使われる。


誰もが何かを言おうとしたが、言葉を選ぶ余裕がないような雰囲気だった。その中で、一番最初に声を発したのは未来だった。


「……そうだったのね。辛かったでしょう?」


未来の声は優しく、暁の心に静かに染み込むようだった。だが暁は首を軽く横に振る。


「ううん。僕にとっては、これが普通のことなんだ。お母さんがいなくなってからずいぶん時間が経ったし、今は自分のやるべきことを見つけられてるから、そう悲しんではいないよ」


彼の落ち着いた態度に、仲間たちはますます彼の芯の強さを感じた。


暁の顔に一瞬影が差したが、すぐに落ち着いた声で答える。 「父さんは僕が小さい頃に亡くなって、母さんも冒険中に失踪してしまった。それからは家の中にあったものを整理しながら生きてきたんだ。魔道具も魔核も、僕が使わなければただの飾りで終わる。それなら活用した方がいいと思ったんだよ」


彼の言葉に、星霞たちは胸の中に複雑な思いを抱えた。暁の過去を知れば知るほど、その強さと冷静さの裏にある孤独と努力が垣間見えた。


「暁君、本当にありがとう。あなたがいなかったら、私たちはきっと……」星霞が深く頭を下げる。


「感謝してくれるのは嬉しいけど、僕はポーターだから。お荷物運びが本業で、戦うのは本来の役目じゃないんだよ」と暁は微笑む。その微笑みはどこか寂しげだったが、彼の強さを物語るようでもあった。


未来がそっと言葉を添える。 「でもね、暁君。あなたはただのポーターじゃないわ。私たちはこれからもっと強くなるつもりだから、また力を貸してくれたら嬉しい」


暁は少し困ったように頭をかきながらも、静かに頷いた。 「その時はまた考えるよ」


未来が優しく問いかけるように話を切り出す。

「それにしても、暁君が使ってた魔道具……すごく強力だったわね。でも、あれってもう壊れちゃったのよね?」


「うん、烈風の小手も烈氷の短剣も、さっきの戦闘で限界を超えちゃった。元々古いものだったし、使い方も荒かったからね」暁は肩をすくめながら答えた。


結衣が少し申し訳なさそうな顔で言う。

「でも、それって本当に貴重なものなんでしょ? お母さんたちが使っていたって聞いて、私たちのためにそれを犠牲にさせちゃったのは……やっぱり心苦しいわ」


璃月も頷いて力強く言う。

「だから、弁償させてほしいわ! さっきの戦いは、暁君がいなかったら私たちは絶対に無事じゃ済まなかったもの!」


暁は慌てて手を振る。

「いやいや、そんな必要ないよ! 僕が勝手に使ったんだから、君たちが気にすることじゃない。それに、母さんが残してくれたものを活用できたんだから、それでいいんだ」


星霞が一歩前に出て、真剣な眼差しで暁を見つめる。

「それでもダメ。暁君が無償で助けてくれたことには本当に感謝してる。でも、だからといって私たちが何も返さないわけにはいかない。ギルドの誇りにも関わることよ」


雪乃も腕を組んで力強く付け加える。

「それにね、私たちはいつかまた暁君に助けをお願いするかもしれない。だから今のうちにちゃんとお礼をしておかないと気が済まないわ」


暁は困惑しながら、目を泳がせる。

「うーん、そんなに言われても……僕、今すぐ必要なものがあるわけじゃないし。そもそも魔道具を買い直すなんて簡単じゃないし……」


星霞たちの視線が痛いほど真剣で、暁は観念したようにため息をつく。

「わ、わかったよ……じゃあ、もし使っていない魔道具があったら、お願いするよ。これでいい?」


「わかったわ!絶対に探すわ!」星霞は力強く頷いた。


未来も安心したように微笑む。

「じゃあ約束ね」


暁は苦笑いしながら頭をかく。

「そんなに大袈裟にしなくても……本当に、僕が必要な時だけだからね」


星霞は、一息つくと真剣な表情で暁に向き直った。


「暁君、一つお願いがあるの」


「お願い?」暁は首をかしげながら返したが、星霞の視線の鋭さに気圧されたように一歩引いた。


「私たちの闘技祭のチームに入ってほしいの。ノンスキルウィーバー枠で」


暁は一瞬目を丸くした後、すぐに両手を振って答えた。

「いやいや、それは無理だよ。僕はポーターだし、戦うなんてとんでもない。そもそも継戦能力もないし……」


未来が急いで言葉を挟む。

「それは良い案だわ、璃月!!絶対に良い案よ!さっきの戦闘を見ればわかるけど、暁君の能力は普通じゃないわ。ノンスキルウィーバーとしても、絶対に頼れる存在になるはず!」


雪乃も力強く頷く。

「それに、戦うだけがノンスキルウィーバーの役割じゃないわ。全体の戦略を考えたり、私たちのサポートに徹したりするだけでも十分役に立つ」


「いや、そう言われても……」暁は困惑した表情で視線を彷徨わせたが、結衣が諭すように話を続けた。

「暁君、さっきも私たちを救ってくれたじゃない。それに、君の判断力や戦術は私たちにとって必要なものだと思うの。闘技祭ではその力が大きな武器になるわ」


星霞が一歩前に出てきて、さらに言葉を強める。

「私たちは本気でお願いしてるの。さっきも命を助けてもらったのに、今度は頼らせてほしいなんて図々しいかもしれない。でも、暁君がいなければ、このチームは勝ち進めないかもしれない。それくらい重要だって思ってるの」


暁は何度も断ろうとしたが、全員の真剣な視線に根負けしてしまい、深いため息をついた。

「……わかったよ。でも、試合には出ないからね。僕はあくまでポーターだし、戦うのは君たちの役目だ。それだけは譲れない」


星霞たちは一瞬顔を見合わせたが、やがて星霞が微笑みながら言った。

「それでもいい。アドバイスだけでも受けられるなら、十分助かるわ!」


「わ、わかったよ……そういうことなら協力するよ。だけど、本当にアドバイスだけだからね?そんなんでいいの?」暁は釘を刺すように答えたが、その声には若干の諦めも混じっていた。


未来が満面の笑みで暁の肩を軽く叩いた。

「ありがとう、暁君!」


雪乃も嬉しそうに頷きながら言葉を添えた。

「これで闘技祭の準備がますます楽しみになってきたわね」


結衣は少し恥ずかしそうに微笑む。

「私たちも頑張らなくちゃね」


星霞は改めて真剣な表情になり、暁に手を差し出した。

「約束よ、暁君。これからよろしくね」


暁は一瞬迷ったが、最後には星霞の手をしっかりと握り返した。

「……よろしく」


こうして、暁は正式に星霞たちの闘技祭チームのサポートとして参加することになったのだった。


「ちなみに、私たちの初戦の相手は鷹沢たちになったから」


「は?鷹沢たち・・・よりによって・・・」

暁は星霞の爆弾発言に頭を抱えて、鷹沢たちをどう圧倒するか考えた。



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