第14話 ポーター
「そっちに行ったわ!」
「逃がさないわよ!」
「楽勝! やぁぁぁぁぁああああ!!!」
闘技祭の正式な日程が発表されて以来、スキルウィーバーたちの鍛錬はますます激しさを増していた。特に実力のあるチームは、神々の塔の探索に積極的に挑み、魔核を確保しながらさらなる力を手に入れていく。
今日、暁は星霞チームのポーターとして同行し、神々の塔を探索していた。
「なんでこうなってんだか……」
深いため息をつき、暁は目の前で繰り広げられている少女たちの戦闘を眺めた。彼女たちはランクFモンスターを相手に互いのスキルを駆使し、連携攻撃で順調に討伐を進めている。
暁がポーターの仕事を引き受けたのには、やむを得ない理由があった。自宅の地下に突然発生したダンジョンの存在を公にするわけにはいかず、そこで得た素材や魔核を売却するための「表向きの理由」を作る必要があったからだ。
「家の地下で討伐したモンスターの素材です」などと正直に言えば、間違いなく家を追い出され、場合によっては国家の管理下に置かれるだろう。それだけは避けたかった。今は、今後必ず訪れるであろう霧夜との決戦に備え、地盤を固めておく必要がある。
そこで暁は、ポーターとして手に入れた戦利品をギルドに売却するという体裁を整えた。素材を確保するため、彼はシルバーウルフのギルドを訪れ、仕事を探していた。その様子を受付嬢セリア・フォーレンは眺めていた。
セリア・フォーレンは20代半ばと思われる年齢で、淡い金髪の髪を肩の少し下まで流し、前髪を軽く斜めに流していた。彼女の髪は柔らかな波状で、光が当たると細い糸のように輝く。目は澄んだエメラルドグリーンで、常に優しげな光を湛えている。薄い桃色の唇と整った鼻筋が上品さを引き立てており、誰もが一度は見惚れてしまう美貌の持ち主だ。
彼女の家族は元々ヨーロッパ系の家系で、日本には旅行で来ている時に、彼女の祖父母が塔の出現に巻き込まれ、この世界での生き残りとなったのだった。この世界で生きていくのに必死で、祖父母はかなり苦労をした。しかし、自分たちの子供、セリアにとっては父親、を何とかスキルウィーバーにすることを奇跡に可能にし、その時から彼らの人生は大きく変わった。
セリア・フォーレンの父親は、スキルウィーバーとしての道を切り開き、セリアをスキルウィーバーへの覚醒に導いた。しかし、父親は塔の探索に命を懸ける危険な仕事が日常だった。彼は家族のため、特にセリアに安定した生活を与えるために尽力し続けたが、その道半ばで命を落とした。彼の死はセリアにとって深い傷となったが、同時に彼女の人生における大きな転機でもあった。
父の遺志を継ぎ、セリアは強く生きることを決意した。直接的な戦闘能力には恵まれなかったものの、人々をサポートし、導くことで自分の役割を果たすと心に誓ったのだ。そして彼女は、受付嬢という立場からスキルウィーバーや冒険者たちを支える道を選んだ。
ギルド「シルバーウルフ」の受付嬢として働くセリアは、その美貌と落ち着いた物腰で人々に愛される存在となった。しかし、彼女の内面には、家族を失った痛みと、この世界で人々が生き抜くための強い使命感が宿っている。
「私は父が守ろうとした人々のためにここにいる。誰かが彼のように家族を失わずに済むなら、どんなに小さな力でも役に立ちたい」
セリアの仕事ぶりは丁寧そのもので、ただ受付業務をこなすだけでなく、冒険者の特徴やスキルを瞬時に把握し、適切な仕事を割り振る能力に長けていた。そのため、彼女が担当する探索チームは他の探索チームに比べて成功率が高かったため、彼女は信頼されていた。
彼女が特に目をかけているのが、時雨暁という高校生だった。セリアは暁の中に他の冒険者とは異なる何か、父のような強い意志と可能性を見出していた。暁がギルドを訪れるたびに、彼女は笑顔を浮かべ、適切なアドバイスや支援を惜しみなく与えた。
「時雨さん、あなたはもっと遠くまで行ける人です。ただ、少し助けが必要な時もあります。私たちがその助けになれればいいんです」
セリアのその言葉は、暁の胸の奥に小さな灯火をともすようだった。彼女の存在はただの受付嬢以上のものであり、探索者たちにとっての心の支えとなっていた。
セリアの姿は、まるで塔の中の希望の灯火そのものだった。彼女の父が遺した意志は、セリアを通じて、多くの探索者たちの背中を押し続けていたのだ。
セリアはいつものギルドの公式制服を着ていた。淡いクリーム色のチューニックのトップスに、刺繍が施された青いベストを合わせている。スカートは膝丈で動きやすいデザインだが、彼女の姿勢の良さと気品がその装いに凛とした印象を加えている。制服の胸元には、ギルドの紋章を模した樹液で染色した鮮やかな青色の模様が見える。
「時雨さん。仕事を探しておられますか?」
「はい、何か案件がないか探しています。1日以内で帰ってこられる探索はありますかね?」
「最近は、長期間の探索には参加されないんですね」
この質問に少しドキッとしたが、セリアはいつも鋭い所があるので、あまり多くの情報を与えないように気を付けながら暁は「勉強もありますので・・・」と濁すように答えた。
「では、これなんかどうですか?今週土曜日の午前半日ぐらいで終わるような探索ですね。ランクF魔核をできるだけ集めたいとのことですね。塔1階のみの探索となっています。探索チームは・・・」
「は、はい!それでいいです。登録をお願いします!」
暁はセリアと話をしているとドギマギしてしまうので、勢いで了承をしてしまった。内容的のもそれほど常軌を逸したわけでもないし、正直、最悪自分一人でもできるような探索だった。とにかく暁にとってのポーターの仕事は、自分が獲得しているモンスターの素材を売却する為の「表向きの理由」でしかないので、簡単な探索であればあるほど良かった。
そうあまり考えずに決めてしまったことが、この後の暁の人生を大きく変えてしまうとも知らないで。
◇◇◇◇
「良かったわ、暁君が私たちのポーター依頼を受けてくれて」
星霞は楽しそうに微笑みながら、軽やかにモンスターを蹴散らしていた。
「ははは・・・あまり依頼書を見なかったからね・・・」
暁は乾いた笑いをしながら、ぼそりと呟くが、その言葉は戦闘音にかき消された。
星霞璃月をリーダーとする、星霞チームは未来有望な探索者チームだった。スキルレベルは7前後の実力を持ち、彼女のリーダーシップのもと、チームの動きには無駄がなく、モンスター討伐は極めて効率的だった。
「次、あの丘の辺りね。暁君、しっかりついてきてよ!」
「わかってるよ。僕は運搬係ですからね」
暁は軽く肩をすくめながらも、戦利品が次々と増えていくことに内心で感謝していた。
探索が進む中、塔の内部は色んな風景に変わっていく。丘の頂上に到達した途端、鈍い振動音が響き渡り、周囲の植物から無数の棘が発射された。
「伏せて!」
星霞が鋭い声で指示を出すと、全員が一斉に身を伏せる。後方の暁も素早く反応し、軽く攻撃を躱した。
棘の雨が止むのを待つ間、星霞が地面に身を伏せたまま鋭く周囲を見回し、次の行動を指示した。
「雪乃、冷気であの植物の動きを止めて! 結衣は防御の準備、未来は全員にバフを!」
「了解!」雪乃は素早く立ち上がり、指先から冷たい霜を纏わせた。目の前の茂みに潜む植物に向かって冷気を放つと、たちまち周囲の空気がひんやりとし始め、植物の動きが鈍くなった。
「よし、これで少しは攻撃が遅くなるはず。沙羅、突っ込む準備はできてる?」
「任せて!」沙羅が腰を低くして構え、一気に前方の茂みに向かって駆け出した。
風を纏った彼女の姿は一瞬で植物の間を駆け抜け、次々と茎を切り裂いていく。植物が抵抗しようと棘を再び発射するが、未来が放った水の膜が彼女を覆い、棘を弾き返していく。
「結衣、盾で雪乃を援護して!」
未来の声に反応して、結衣が漆黒の柱を召喚し、雪乃の周囲を囲むように配置した。これにより雪乃は安全な位置から次々と冷気を放ち、さらに植物の動きを封じ込めることができる。
その間、暁は後方からチームを観察しつつ、星霞に近付き声をかけた。
「星霞さん、植物の根元を狙った方が良いと思うよ。茎を切っても再生してくる。あの奥にあるのが本体だ」
「・・・!!??」
星霞は暁に突然言われて、目を見開いた。そしてよく切られた茎を観察すると、再生を始めており、確かに暁の言う通り、根元に植物の本体があるようだ。
暁の指摘にすぐ反応し、月光刃を発動させた。彼女の手元に淡い光を纏った刃が現れると、彼女は素早く植物の根元に向かって正確に斬撃を放つ。
「行くよ!」
月光刃が飛翔し、植物の根元を一閃する。その瞬間、植物全体が震え、棘の攻撃がぴたりと止まった。
「やった……!」未来が安堵の声を漏らす。
「まだだ」暁が冷静に指摘する。彼の目は既に次の潜む危険を探していた。
すると、切り倒された植物の背後から巨大な影がぬっと現れた。倒したように見えたのは、それは植物そのものが生み出した防御の罠であり、本体はさらに奥に潜んでいたようだ。
「ここからが本番だな」と暁が低く呟く。
星霞がチームを見渡しながら声を張り上げる。
「みんな、もう一息よ! 一気に畳み掛けるわよ!」
戦場に再び緊張が走る中、チームは息を整え、それぞれの役割を果たす準備を整えた。
巨大な影が完全に姿を現した。植物の本体は、幹のような太い触手を幾つも広げ、その先端に鋭い棘を備えていた。闇に輝く目のような光が幹の中央にあり、周囲をじっと見渡している。
「結衣、前に出て! 雪乃と未来はサポートを!」星霞が即座に指示を飛ばす。
結衣は漆黒の柱を召喚し、仲間たちを覆うように配置する。巨大な触手が振り下ろされるが、柱に阻まれて攻撃が届かない。
「今のうちに仕掛ける!」星霞が月光刃を発動し、刃を幹の付け根に向かって飛ばす。鋭い光が闇を切り裂き、幹の一部を斬り落とした。
「沙羅、触手を切り払って!」
「了解!」沙羅が風を纏いながら突進し、触手の一本を鋭く斬り裂いた。触手が切り落とされると、植物の本体が激しく揺れて怒りを表したかのように唸る。
その隙に雪乃が冷気を放ち、植物の根元を凍りつかせる。冷気が幹全体に広がり、動きが鈍くなる。
「未来、結衣にバフを!」
未来が水鏡加護を発動し、結衣の漆黒の柱をさらに強化する。水の膜を纏った柱は、植物の棘を完全に弾き返し、絶対的な防御となった。
その間に暁は隙を見て、星霞に提案する。
「目だ!あの中心の光だ!あれが弱点だ」
星霞は一瞬だけ彼に視線を向け、力強く頷く。そして仲間たちに声を張り上げた。
「全員、あの光を狙う! 私の最大火力を撃ち込むから援護して!」
星霞が月光刃を全力で発動する準備を始めると、他のメンバーが一斉に本体の動きを封じるための行動に出た。
沙羅は触手を切り裂き続け、雪乃が冷気で本体をさらに凍らせていく。未来のバフで全員の動きが軽快になり、結衣の柱が最前線で防御を固めている。
星霞は力を込め、月光刃を極限まで収束させた。刃は鋭い光を放ち、闇の中でも鮮やかに輝く。そして彼女は叫ぶように宣言した。
「結衣!!私に影を!」
「わかった!!」
結衣は星霞の周囲に闇の柱を作り、影の中に星霞を入れた。
この影の中で、月光刃の威力は数倍にもなる。
「行くわよ!」
彼女が放った月光刃は、猛烈な勢いと轟音を立てて、一直線に弱点である目に向かい、正確に命中した。植物の本体が激しく震え、触手が一斉に動きを止める。
「やった……?」沙羅が息を切らしながら呟いた瞬間、巨大な本体が崩れるように地面に沈み込み、動かなくなった。
塔の中に静寂が戻り、全員が一瞬だけ放心状態になる。未来がふっと息を吐き、静かに呟いた。「みんな、無事……だよね?」
星霞が振り返り、満足そうに微笑む。
「よくやったわ、みんな。本当に最高のチームよ!」
暁は少し離れたところで静かにその様子を見ていたが、星霞の視線が彼に向けられた。彼女は軽く手を挙げて声をかけた。
「暁君もありがとう。あなたがいなかったら、あの弱点に気づけなかったわ」
彼は少し気恥ずかしそうに肩をすくめて答えた。
「まぁ、他の探索の時も出くわしたことがあるモンスターだったからだよ。たまたまだよ」
星霞の微笑みに、暁は僅かに顔を緩ませ、再び周囲を警戒するように塔の奥へと目を向けた。
星霞は周囲を警戒しながら、暁が魔核を取り出すのを待っていた。
(しかし、この子たちは・・・、本当にここまで来てよかったのか・・・?まだこれでもランクFモンスターの弱い方だぞ。まだ奥にはランクFでも強いモンスターはいる。大丈夫か?)
暁は内心で呟きながらも、ランクFの魔核を背負った荷物を入れて、星霞たちに出発の合図を送った。
星霞のチームは慎重に塔の奥へと足を踏み入れていた。今までは林のフィールドだったが、だんだんと大きな岩が多くなり、細かい砂や砂利が多くなっていくフィールドになっていった。その中に入っていくと、霧が立ち込め、どこか湿った冷気が漂う空間になっていった。岩の裏に敵がいるかもしれず、全員が自然と警戒心を高めていた。
「全員、散らばらないように。結衣、前を頼むわ」
星霞璃月が手にした槍の刃を軽く振り、周囲を警戒しながら指示を出す。
「了解。私が前衛を固めるから、安心して」
篠崎結衣は少し前に出て、漆黒の柱が展開されるのを意識しながら盾を構えた。
「沙羅、右の岩の裏を風で探れない?怪しいものがないか確かめたいの」
星霞が小声で頼むと、神楽沙羅が軽く頷いた。
「任せて。風の動きで罠やモンスターがいるか感知するわ」
彼女は静かに前方へ走り出し、その動きに合わせて微かな風が岩の周囲に吹き抜ける。その風が何かに反応を示した瞬間、沙羅は緊張した面持ちで目の前の岩を睨みつけながら、「何かいる・・・」と皆に伝えた。
次の瞬間、突然、正面の大きな岩の裏の方から低い咆哮が響き渡った。その音に反応するように、霧の中から複数のランクFモンスターが現れた。それは甲殻に覆われた「鉄鎧の猟犬」だった。
「敵だ!全員、陣形を整えて!」
星霞の指示で全員が即座に動き出す。
「霜獄結界!」
神代雪乃が静かに呪文を唱え、冷気が足元から広がり始める。それは瞬く間にモンスターたちの脚を凍らせ、動きを鈍らせた。
「いいデバフ、雪乃!結衣、押さえて!」
星霞の言葉に応じて、結衣が漆黒の柱を展開。迫り来る猟犬たちを防ぎながら、その攻撃を柱が吸収していく。
「風刃疾走!」
沙羅が高速で敵の側面に接近し、風をまとった刃で連続攻撃を加え、即その場から離脱。そして再び高速で近付き攻撃を加える、ヒットアンドアウェイでダメージを蓄積していく。そのスピードと鋭さに、猟犬たちは応戦できずに次々とダメージを受けていく。
「月光刃!」
星霞も槍を振り、鋭いエネルギーの刃を飛ばしてモンスターを次々と撃破していく。その動きは無駄がなく、まるでダンスを踊るかのようだった。
その間、水城未来はチーム全体を見渡しながら、「水鏡加護」を発動していた。
「これで防御が強化されるわ!」
彼女のスキルで展開された水の膜が、敵の攻撃を軽減し、モンスターが攻撃を外しやすくしている。
連携したチームの攻撃で、鉄鎧の猟犬たちは、何の反撃をすることもできずに、全滅した。完封だった。荒い息を整えながら、星霞が槍を収める。
「ふぅ、やったわ」
星霞の声に全員が微笑む中、暁は死亡したことを確認しながら、鉄鎧の猟犬に近付き、魔核の回収を始めた。
「このチームは良い連携もできているし、攻守のバランスも良いね」
暁が笑顔で言うと、星霞が軽く肩をすくめて答えた。
「今日はより戦いやすいかな。暁君のおかげで、効率よく戦えてると思うよ」
「そうなのかな?」
暁は肩をすぼめて答えた。
一瞬の静寂が訪れ、チーム全体に和やかな空気が広がった。それは、次の戦いへ向けた束の間の休息だった。
少しの休憩の後、星霞のチームは更に神々の塔の1階層の奥を探索し始めた。
神楽沙羅が先頭に立ち、素早い動きで敵がいないか確認しながら進む。彼女の「風刃疾走」のスキルは、周囲を駆け抜けながら索敵を行うのに非常に役立つのだ。
「敵影なし!このまま進めるよ。」
沙羅の明るい声が響くと、篠崎結衣が後ろからゆったりとついてきた。結衣は守護の役割を担い、万が一の襲撃に備えて漆黒の柱を展開する準備をしている。
暁はフィールドを観察し、メモ帳に何かを書き込んでいた。
「ここ数日の記録と比べると、この地形での魔物の活動が少ないな。後で報告に使えそうだ」
「へぇ、そういうことをしているんだ~。凄いね」星霞が軽く微笑む。
「まぁ、どれだけやっても次に来る場所で出るから、意味はないかもしれないけどね。まぁ、何かしらの記録だね」
「へぇ~」
次に目の前に現れたのは草原のフィールドだ。周囲を警戒しながら進んでいると、カサカサと微かな音が、風に運ばれてくる。神代雪乃が立ち止まり、冷静に目を細める。
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