第13話 魔道具

暁が家に戻ると、部屋の中には凛が疲れた様子でベッドに横たわっていた。周囲には家の様々な物が散らばっており、どうやら一つ一つを丁寧に鑑定していたようだ。驚いた暁は「凛、こんなに鑑定してたのか? 」と凜に話しかけた。


凛は薄く笑って、暁に手を振った。「少し気になっちゃって。この家にあるもの、何か特別な力が眠ってるかもって思ったの。だけど、予想以上に疲れちゃったかな」


暁は、凛の言葉を聞いて驚き、そして温かいものがこみ上げてきた。「凜、こんなにも頑張ってくれてたのか。俺が学校に出てる間に、いろいろ見てくれてたんだな」と、優しく彼女の頭を撫でた。


凛は小さく頷き、少し照れたように笑った。「うん。お父さんやお母さんが残した物の中にも、今後役立つものがあるかもしれないから…」と、かすれた声で答えた。


暁はしばらく無言で彼女の小さな手を握りしめた。「でも、無理はするなよ。凜もまだ体力が完全に戻ってるわけじゃないし・・・、って、もうほとんど普通に話せるようになったんだな」


凛は目を閉じ、幸せそうに微笑んだ。「うん、ありがとう。お兄ちゃん。あのね、ずっと一日中、一人で話していたら、いつの間にかこんなにも言葉が出てくるようになったの。この感覚、本当に懐かしいわ」


凜が言葉を失ったのは、10年前にかけられた呪いが原因だった。明るい笑顔がトレードマークだった凜が、突然、言葉を発することができなくなった時、時雨家は深い悲しみに包まれた。しかし、凜が今、ようやく昔のように、暁と会話ができるようになったのだ。


そっと暁は、目頭を拭った。


そして暁は、凜のベッドの横に丁寧に置いてある小手と短剣に気付いた。「凜、あの小手は?短剣は母さんのだよね」


凜は静かに頷き、あの2つの武具について語り始めた。




凛は家の中を歩き回り、次々と物を鑑定していた。その手に取るのは、普段何気なく家にあった道具。だが、その一つ一つに刻まれた過去の記憶が、今、凛の心に鮮やかに蘇っていた。


「これも…」彼女は一振りの短剣を手に取る。それは、どこにでもありそうな、ただの短剣だった。しかし、『時の刻印』を発動させた瞬間、彼女の視界が赤く染まり、耳には剣がぶつかり合う音が響き渡った。その記憶の中で、かつてこの短剣を使っていたのは、彼女の母親だった。若き日の母は、血まみれの戦場で必死に剣を振るっていた。その目は、恐怖に震えながらも、どこか強い意志に満ちていた。


次に手にしたのは、皮の小手。凛が小手を手に持ち、『時の刻印』で見ると今度は父の記憶が蘇ってきた。風を切り裂くような音と共に、父が軽やかに動き回る姿が目に浮かぶ。その姿は、まるで風そのものだった。「速さこそ、戦場では命を守るものだ」父の力強い声が、凛の心に響き渡る。


それぞれの武具を手にした凛は、父母の記憶と重ね合わせ、自分自身と向き合っていた。これらの武器は、単なる道具ではなく、父母の愛と勇気、そして家族を守るという強い意志が込められた宝物だった。そして、その想いを引き継ぐのは、自分自身なのだと思った。


「お父さん、お母さん。私は…必ず、この武器を使って、家族を守ってみせます」そう静かに決意を固めた凛は、家の中の一つ一つの物に触れ、その記憶を胸に刻んだ。そして、深呼吸をして、これからの未来へと踏み出そうと決意した。


スキルの中には『錬金術』と呼ばれるスキルに覚醒した人々がいた。その人々は、素材を錬成することで、「魔導具」と呼ばれる特別な武具を製造できるようになった。


魔導具は、単体ではただの道具に過ぎませんが、魔核と呼ばれる魔力の源となる結晶と組み合わせることで、強力な力を発揮するようになる。


魔核には、FからSまでの6つのランクが存在し、ランクが高いほど強力な魔力を持っている。魔導具に魔核を装着することで、その魔核に対応したランクのスキルを発動させることができる。


例えば、 ランクFの魔核を剣型の魔導具に装着した場合、剣からランクFの火球を発射するなどの効果が得られるのだ。


「烈風の小手」

種類: 小手

属性: 風

スキル

F.小手を使って風を操り、前方に風刃を発生させる。短距離で鋭い斬撃を繰り出し、敵に風属性のダメージを与える。範囲内にいる複数の敵にダメージを与えることが可能。(99)

E.広範囲の全方位に風刃を発生させ、敵に風属性のダメージを与える。範囲内にいる複数の敵にダメージを与えることが可能。(30)

D. 強力な風のバリアを展開し、物理攻撃や遠距離攻撃を防ぐことができる。(10)

C. 嵐の一撃特殊攻撃小手から強力な風のエネルギーを放ち、前方に大きな嵐を巻き起こす。(3)

B. ????

A. ????


「烈氷の短剣」

種類: 短剣

属性: 氷

スキル

F. 氷の一刺し:短剣を突き刺すと、氷のエネルギーが対象に注ぎ込まれ、内部から凍結させる。敵の動きを一時的に遅くし、凍結状態にすることで行動を制限できる。(96)

E. 強力な氷の衝撃を敵に与え、ダメージを与えるとともに、触れた敵に凍結を引き起こす。(44)

D.短剣を掲げて冷気をまとい、氷の壁を召喚して防御する。このバリアは、物理攻撃を一定量無効化し、氷の力で反撃する。バリアが破れると、周囲の敵に氷のダメージを与える。(10)

C.短剣を空中で舞わせると、周囲に氷の嵐が巻き起こる。嵐に巻き込まれた敵は凍結し、攻撃力が大幅に低下する。このスキルは範囲攻撃となり、複数の敵に影響を与える。(3)

B. ????

A. ????


烈氷の短剣と烈風の小手は、それぞれ異なる属性と戦闘スタイルに特化している。烈氷の短剣は、高速で動き回りながら氷の力で敵を制圧し、戦術的に相手を無力化するスキルが多い。一方、烈風の小手は風の力で素早さを上げ、相手を圧倒する攻撃と防御のバランスを取るための道具として、軽快な戦闘スタイルに最適だ。


凛がこれらを発見したことにより、今後の戦闘において彼女の選択肢は一層広がり、戦局を大きく変える力を持つ武器が手に入った、と思った。しかし、それぞれのスキルには回数制限があることを示していた。烈風の小手であれば、ランクFスキルは99回使える事がわかる。ランクFスキルを使う為にはランクF魔核を1つ使用しなければならない。


だから、父と母はこの魔道具を使わなかったのだろう、と凜は思った。なぜなら同じような効果を自分のサージポイントを使いスキルを発動できるのだから、手に入れた魔核をわざわざ攻撃に使う必要はない。


以前に母親が持っていた短剣と父親が持っていた小手は両方、烈シリーズと呼ばれる業物の武器であり非常に高価なものであった。


凜は、これらを発見した時に『時の刻印』で鑑定した内容と自分の決意を暁に伝えた。


暁は凛に、まずは自分のスキルをさらに磨いてから戦闘に挑むように説得した。「すぐに戦うのではなく、まずはスキルレベルを上げることから始めよう。俺がダンジョン内で魔核を手に入れて、凛と僕のスキルレベルを上げる。そのうえで戦いの余裕が見えてきたら、聖域結界を残したまま、僕が一時的にダンジョンを離れる形で、凛が単独で入り口付近でモンスターと戦ってもいいかもしれない」


凛は一瞬驚いた表情を浮かべた。


「僕が聖域の絶対防御結界を張る時に気がついたことがあるんだ。この結界がずっと続くためには、僕が『ダンジョンの中に誰もいない』って状態が続かないといけないみたいなんだ」


「と、いうと?」


「つまりさ、僕がダンジョンから出ていけば、僕だけダンジョンの中にいなくなるだろ?そうすれば、結界は消えちゃうことなく、ずっと維持できるんだ。僕はダンジョン内で誰ともいないからね。だから、僕がいない間も、凜も安心してダンジョンで戦える!」


暁の真剣なまなざしに、妹は静かに頷いた。「私も、お兄さんのように強くなって、ダンジョンで役に立ちたい。だから、この方法で、少しずつでも強くなるよ!」


「そうだな」


こうして、二人は計画通りにスキルの強化を開始した。


暁は地下室のドアをゆっくりと開けた。その瞬間、肌を刺すような重いプレッシャーが彼を包み込んだ。まるで「神々の塔」の内部に足を踏み入れたかのような感覚に襲われる。自宅の地下室であるにもかかわらず、そこには明らかに異質な気配が漂っていた。


「まさか…地下室がダンジョンと繋がっているのか。」

暁は短剣を握りしめ、静かに足を踏み入れる。


中に入ると、空間は塔そのものと見紛うばかりだった。壁には青白い紋様が浮かび上がり、床は鏡面のように光を反射している。漂う魔力の濃度は異常なほど高く、彼はスキルが発動できる手応えを感じ取った。


「やっぱりだ…。ここは塔と同じだ。」

暁は警戒心を高めつつ、奥に進む。視線の先には地下室の床に空いた大きな穴があり、その上には透明な防御結界が張られていた。


暁は慎重に結界を解除し、穴の中へと降りていった。斜めに続く通路が続き、その穴の床面には小さな魔核が無数に散らばっていた。


「ここで結界にぶつかって死んだモンスターの魔核だな」

暁は膝をつき、魔核を拾い始める。死骸そのものは塔から発生する浄化物質によって完全に消滅しており、残されているのは魔力の塊である魔核だけだった。その数はざっと見積もっても百個近い。


「これだけで稼げるのはありがたいけど…このまま拾ってるだけじゃ、俺の実力は上がらない」

彼は溜息をつきつつも、今後のためにひとつひとつ丁寧に魔核を回収していった。


拾い続けていると、突然、鋭い音が響き渡った。


バーンッ!!


穴の奥から飛び出してきた昆虫型のモンスターが防御結界に衝突し、その場で力尽きていた。暁はその光景を見て軽く肩をすくめる。


「まったく…考えなしに突っ込んできてどうするんだ。こんなスピードで動けば死ぬのは分かるだろうに」

彼は苦笑しながら落ちてきた魔核を拾い上げる。


モンスターたちは次々と現れ、防御結界にぶつかって消えていく。そのたびに魔核が新たに生まれ、暁の手元に積み上がっていった。


「まぁ、おかげで助かるけどな…。自分で戦うより効率が良いのは、ちょっと複雑だが・・・」

そう呟きながら、彼は拾った魔核を整理しつつ、さらに奥へと足を進めていった。そこには、より大きな謎と危険が待ち受けている気配が漂っていた。


暁がさらに奥へ進むと、空気が一段と重くなった。魔力の濃度が急激に高まり、周囲の温度すら下がったように感じる。耳を澄ませると、かすかな羽音が聞こえてきた。


「来たか…!」

彼は短剣を構え、周囲を見渡す。暗がりの中から飛び出してきたのは、先ほどの魔核を生み出していた昆虫型モンスターとは明らかに異なる大型の個体だった。鋭い前脚を持つその姿は甲虫に似ているが、背中に不気味な目玉のような模様が浮かび上がっている。


ガシャガシャ…バチッ!

モンスターの前脚が地面を削りながら、暁に向かって突進してきた。


「巨大カマキリか・・・たしかランクEのジャイアントマンティスか!」

暁は短剣を握り直し、軽く呼吸を整えると、自分の目の前に防御結界を展開した。モンスターの攻撃は暁に向かって鎌を繰り出してきたが、全て結界によって防がれた。


「この結界はどれ程凄いんだ・・・全くビクともしない」

鎌の威力はあまりに凄い。しかしそれ以上に結界の防御力は遥かにその膂力を凌駕する。


モンスターが高速で何度も何度も結界に攻撃を繰り出してきた。


「さぁ、試してみようか!」


防御結界を解き、その結界に向けて攻撃をしていたジャイアントマンティスは空振りして、バランスを大きく崩し、前に倒れた。


暁はジャイアントマンティスに向かって飛び掛かり、短剣を振り抜いた。その刃は甲虫の頭部を捉えた。


バキッ!!


短剣が甲虫の外殻を貫いた。そこから『氷一刺』が発動した。氷のエネルギーがジャイアントマンティスの頭部に注ぎ込まれ、内部から凍結させた。


ギシャァァ…!

モンスターが断末魔の叫びを上げると、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

暁は肩で息を整えながら短剣を引き抜き、慎重に後方へ跳んだ。


しばらくその場でジャイアントマンティスの動向を観察する。だが、それは微動だにせず、完全に絶命していることが明らかだった。


「ようやく終わったか…」

暁は静かに近寄ると、その巨大な死骸の上に飛び乗り、外殻の硬い表面を短剣で切り開き始めた。モンスターの体内から、予想通り魔核が姿を現す。それは先ほど拾ったランクFの魔核よりも一回り大きく、青白い光を放っていた。


「こいつはちょっと厄介だったけど、その分だけ報酬も悪くない。」

暁は魔核を手に取り、軽くひねると、核が砕けてエネルギーが彼の体内に吸収されていく。体がじんわりと温かくなり、スキル経験値が着実に上がっている感覚を得た。


「こんな場所が普通のダンジョンだったら、もう引き返しても十分だろうな。でも、ここは塔と同じ…。まだ先がある。」

彼は短剣を軽く振って血や汚れを振り払い、さらに奥へ進むために足を踏み出した。重々しい空気に包まれる中で、次なる試練に向けて気を引き締める。


周囲には再び静寂が訪れたが、暁の胸には新たな戦いへの警戒が宿っていた。


暁が奥へと進むにつれ、空気がさらに重くなり、魔力の濃度が高まっているのを感じた。足音が冷たい石の床に響くたびに、周囲に何かが潜んでいる気配が強まる。


「次はどんなやつが出てくるんだ…」

彼は短剣を握り直し、視線を周囲に巡らせた。


ブーン


ダンジョンの奥から低く不気味な音が響いた。


「やばい!」


暁は即座に前方に結界を展開しながら床に身を伏せた。


バー―――ン!!


耳をつんざく轟音と共に、モンスターの体が結界に激突し、激しい衝撃が周囲に広がる。瞬間的に結界に跳ね返されたモンスターは四散し、濃厚な体液とバラバラになった肢体が辺り一面に飛び散った。


「ふぅ…間一髪だったな。」


暁は額の汗を拭いながら慎重に立ち上がる。結界は無傷だが、外側の床や壁にはモンスターの痕跡がべったりと付着している。


「この音とこの速度…今のはまた飛行系か。こんな狭いところで飛び回られると厄介だな」


暁は周囲を警戒しながら、床に落ちているランクEの魔核を拾って、次の行動に移る準備を始めた。


突然、前方の闇の中から低いうなり声が響いた。それは大地そのものを震わせるような重厚な音で、暁の心臓が一瞬、跳ねる。


「熊型モンスターか・・・これは厄介だな。ランクEのレッドベアか」

暗闇から姿を現したのは、巨大な熊のモンスターだった。黒い毛並みに青白い光が宿り、目は獰猛に輝いている。その巨体は暁の数倍もあり、一撃で致命傷を与える力を持っているのは明らかだった。


「グルルルル…」


モンスターが前足を踏み鳴らすと、地面がわずかに揺れた。暁は冷静に距離を取る。熊型モンスターは狭い場所での突進が得意だが、その反面、方向転換は遅い。この地形を活かせば、少なくとも一撃で倒される状況は避けられるはずだ。


「さぁ来いよ!!」

暁は熊の視線を捉えたまま、前面に結界を展開した。次の瞬間、熊型モンスターが雄叫びを上げながら突進してきた。その巨体が地面をえぐりながら迫ってきた。しかし、壁に激突したが、衝撃波が周囲に波及し、粉塵が舞う。


「さすがにこの程度じゃ倒れないよな」

粉塵の中から、レッドベアが再び姿を現した。傷を負ったものの、その怒りはさらに激しさを増している。


レッドベアは見えない壁に向かって何度も爪撃を繰り返しているが、全て跳ね返れていく。暁は次の攻撃の準備をしながら、熊の動きを観察した。


レッドベアは一旦後ろに下がり、再び突進を仕掛ける姿勢になった。そして、その巨体を利用して、猛烈な突進を始めた。


ド―――――ン!!!!


防御結界にぶつかるも、結界は微動だにしない。


「すごいな・・・これほどの攻撃に耐えうる防御結界なんだな・・・」


レッドベアは防御結界の前で二本足を踏ん張り、嵐のような猛攻撃を始めた。


「グオォォォォオオオオ!!!!」


しかし、防御結界は全く微動だにせず、レッドベアの猛烈な攻撃を全て受け切っている。


攻撃を続けるレッドベアを見ていると、その巨大な前足はすでに血まみれになっていた。絶対防御の壁に全力で打ち続けたため、自らの肉厚な手がダメージを受けているのだ。


人間がダイヤモンドのような超硬鉱石を素手で叩き続ければ、手が潰れるのと同じ理屈だ。


「グルルゥルルルル…」


低く唸りながら、レッドベアは血走った目で暁を睨みつけた。獲物である人間の子供が目の前にいるにもかかわらず、一切手出しできない悔しさが、その表情から滲み出ていた。


しかし、それでもレッドベアは一歩も引かない。分厚い筋肉が力をみなぎらせ、次の攻撃のタイミングを狙っているのが明らかだった。


「しかし…ここまでしても、まだ諦める気配はないか」


暁は静かに息を整え、短剣を構え直した。視線を鋭くし、意識を一点に集中させる。『烈氷の短剣』のFスキルを発動すると、刃が青白い光を帯び、冷気が周囲に漂い始めた。短剣を握る手に力を込め、投擲の構えを取る。


今から攻撃をしてくるなら迎え撃つ、との気迫がレッドベアからひしひしと伝わってくる。


「全く当たる気がしないな・・・」


そう思いながら、暁はレッドベアを睨み続けた。そして、左に装着している『烈風の小手』

Fスキルを発動させた。洞窟の中の空気が動き始め、強烈な風が吹き始めた。前方に風刃が発生し、鋭い斬撃がレッドベアを襲い掛かった。


しかし、細かい切り傷が無数にできたぐらいで、レッドベアは巻き起こる風の攻撃より、俺の投擲しようとしているナイフの攻撃の方がより危機感を感じていたようで、微動だにしなかった。


それでも風は吹き続け、更にレッドベアの体を切り刻んでいく。地面は血だまりができていた。


「お前、相当根性があるのか、僕をそんなに喰らいたいのか、どちらかだな」

そう苦笑して、暁は投擲の姿勢のまま、烈風の小手を発動させながら、小ダメージを積み重ねていった。


とうとう、レッドベアは後ずさりしながらこの場から退却しようとする。少なくないダメージが蓄積されていったのだろう。このままジリ貧だと判断したようだ。


「しかし、このままお前を帰したら、こっちの魔核とスキルだけが消費されて、赤字なんだよ。狩らせてもらうぜ」


暁は今まさに投擲しようとしたその瞬間、レッドベアは大きく横に跳躍しようとしているのが視界に入る。烈氷の短剣から逃れようとしていた。


「くそっ!!」


最後の一瞬でもさすがに気を抜かない。そう思っても、既に投擲のモーションに入ってしまっているので、もう止められない。結界は既に消して、できるだけ早く投げるしかない。


「おりゃぁぁああぁああぁぁあ!!!」


投げ切ったのだが、そこにはレッドベアはいなかった。既に横に高速で移動しており、こちらに向かっていた。


「ま、まずい!!」


レッドベアは手負いといっても、暁のような子供を一撫ですれば、体をかき消す事ができる力は残っている。少しでもレッドベアの手に触れれば致命傷だ。


暁は両腕を上から下に振り、両手が接触する空間に防御結界を展開するのが早いか、レッドベアの伸びる手が暁に到着するのが早いか。


暁は必死で後方に体を倒しながら、できるだけレッドベアの間合いから離れるようにして防御結界を展開していった。


ザシュッ!!!!


暁は地面に倒れた。全身が血まみれになっていた。


その血は全て、目の前のレッドベアの腕から吹き出る血であった。


全力で振るわれた腕が、暁の細く展開された防御結界に接触し、剃刀のようにレッドベアの左腕を切り裂いた。


レッドベアも一瞬何が起こったか分からず、無くなった腕と噴水のように吹き出る血を見た。そして


「ギャァァァアアアァァァァァア!!!!!!!!!」


レッドベアが咆哮を上げ、怒りの形相で更にその場から逃げることなく、更に右腕を振りかぶり、倒れる暁に追撃を与えようとしてきた。


暁はその間に立ち上がり、迎撃態勢を整えようとしたが、立ち上がるだけで精一杯だった。


襲ってくる右腕は瞬く間に暁に襲い掛かってくる。すでに2枚の結界を発動させていたので、もう結界が出せない。


暁は冷静に右腕が通る軌跡と攻撃箇所を予測しようとして、レッドベアを凝視しようとしたが、目が見えない。


(しまった!血が眼に入って見えない。ここじゃなかったら、お終いだ・・・)


暁は頭の前で、両手を右腕が通る箇所に置いた。


ザン!!!!!!!


暁の両手に発動した可動式結界に接触し、レッドベアの左腕も見事に切り取られていた。左腕が暁の左後方に超高速で飛んでいき、それに続くレッドベアの激痛を訴える叫び声が聴こえてくる。


「ま、まだだろう!!」


目の前のレッドベアは絶対に諦めない。


その確信があり、目の見えない中、暁は2枚の固定式結界を解除して、再度目の前に展開した。それが間に合った。


ズガッ!!!


展開された固定式結界が噛みつこうとしたレッドベアの目の辺りぶつかり、結界が頭部へとめり込んでいった。


悲鳴をあげることなく、レッドベアは暁の目の前で倒れていった。


「うおおおぉぉぉぉ!!!」


暁は後方に全力で退避して、地面に突っ伏しているレッドベアを凝視した。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」


どうやら死んでいるようだ。あの執念で最後の最後まで攻撃を止めなかったレッドベアだ。今も生きているなら、まだ攻撃をするつもりでこちらに向かっているだろう。


「はぁ!はぁ!はぁ!・・・少しでも今の戦いにミスがあれば・・・確実に死んでいた・・・間一髪だったな・・・」


息を切らしながらも、暁は目を拭き、すぐに魔核を探し始めた。また違うモンスターが出現するとも限らないので、早くレッドベアの魔核を確保したかった。


レッドベアの胸元を裂き、中から輝く魔核を取り出す。その光はさっきのジャイアントマンティスの魔核よりもさらに強く、暁の手の中で温かなエネルギーを放っている。


「これだけの相手を倒せるようになったか…。でも、まだまだだな。」

暁は静かに短剣を振り、血を払いながら呟いた。彼は倒したモンスターから魔核を回収し、破壊してスキル経験値を吸収する。その後、目の前に広がる深い闇を見据え、さらなる挑戦を求めて足を踏み出した。

ダンジョンの奥へ進むにつれ、空気は重く、危険な気配がますます濃くなっていく。



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聖域の彼方へ カフェラテ @kaferate

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