第10話 私立デュアル高校

魔核によってスキルを手に入れた一部の人々が、他の人々を圧倒する力を持った。スキルを得た「スキルウィーバー(スキルを組み立てる者)」たちは「神々の庭」で更に力を獲得・強化し、権力を握り、「ギルド」として組織化する。ギルドは魔核を手に入れ、スキルの覚醒者を増やすために、戦闘員を雇い、魔核の確保を依頼し合うのだ。


主要なギルドとして、シルバーウルフ、レッドバード、イエロータイガー、ブルーキャットなどが登場し、塔周辺の地域を実質的に統治する自治政府を形成している。ギルド長たちは権力を持ち、塔の周囲に居住する膨大な数の市民を管理・保護しつつ、塔内の探索を進めるのだ。


魔核を得てスキルを発現させた者は一般人よりも圧倒的な戦闘力を持ち、ギルドに雇われて活動することができます。ギルドに所属する者やその家族は手厚い保護を受けられる一方、スキルを持たない者や力を持たない市民は低い階級に属し、貧困や危険な生活環境に置かれることも多いです。


魔核や塔の探索の成功で新たなスキルが次々と発現するため、スキル保持者と非保持者の格差が拡大し、ギルドの力と影響力がますます強固になっています。ギルド間での権力争いもあり、その結果、塔周辺の地域は暴力的な支配や紛争も頻発しています。


時雨暁は、高校2年生。彼の通う学校は、スキルウィーバーとノンスキルウィーバーが通える、異能力学校。学校名は『デュアル学園』。社会はスキルウィーバーとノンスキルウィーバーで明確に分かれているのだが、この学校では両方の子弟達が通う珍しい学校だ。


暁は元々はスキルウィーバーとして入学し、将来のスキルウィーバーとしての飛躍に心躍らせていたが、今では「聖域使い」は暁にとっては呪いの言葉でしかなく、ノンスキルウィーバーの兵站学科に編入し、将来のスキルウィーバーを支える企業への就職を目指している。


この学校は、スキルウィーバーとノンスキルウィーバーが共に学ぶ特異な教育機関であり、異なる能力を持つ生徒たちが互いに協力し、理解し合うことを目的としている。校長は、スキルの有無に関わらず、全ての生徒が将来の人類を救うために重要な役割を果たすことができると信じている。


暁は、将来はスキルウィーバーとして生きることへの希望を失わず、しかし現実的にノンスキルウィーバーとしての人生を歩む必要があることを理解して、兵站学科で学んでいた。

戦略的思考、チームワーク、戦術の分析など。スキルウィーバーはスキルを使った実践演習を行い、ノンスキルウィーバーは体力や知恵を駆使して協力する棲み分けできているようであるが、実際はウィーバーたちはノンウィーバーたちを心の底から戦闘でのパートナーとしては見ていない節がそこかしこで見られ、それが社会における小さくない歪みを作っている。


兵站学科では複数のグループに分かれ、実際のシミュレーションを行う。スキルウィーバーは自身の力を駆使し、ノンスキルウィーバーは他の生徒との協力を重視するのだ。


また、学園では魔核学を学び、魔核の特性や収集方法、利用法について学ぶ。スキルウィーバーは魔核を使った実践的なスキルの向上を目指す。また、ラボの時間もあり、実験が中心となる。生徒たちは協力して魔核を分析し、それぞれの能力に基づいた研究を行う。


他にも倫理学・社会学を学ぶ。校長が必ず導入したいとの熱を込めて語り実現した授業になっていたが、スキルウィーバーの生徒達からあまり重要視されていなかった。スキルの持つ意味や社会的責任について学ぶ。生徒たちが自らの立場を理解し、他者を尊重することが重視される。ディスカッション形式で進められ、さまざまな背景を持つ生徒たちが意見を交わし、理解を深める。


そして何より重要視されていたのは、実技演習だ。


戦闘技術や自己防衛技術を学ぶ。ノンスキルウィーバーもスキルウィーバーも共に実践し、技術を一緒に学んでいた。一年生の時は基本的な戦闘の考え方や動きを学び、2年生以降は、生徒達の希望に沿い、少人数パーティ戦闘訓練、大規模戦闘訓練、単独戦闘訓練、戦闘補助の四つの種類で生徒達は分かれていく。


生徒達の中で、スキルウィーバーたちは、自信に満ちた態度で行動することが多いが、時には優越感から他者を見下すこともある。しかし、学校の理念の影響で、ノンスキルウィーバーとの協力を学び、相互理解を深めようとしている者もいるが、それでも守る守られる関係があるため、自然とスキルウィーバーが上、ノンスキルウィーバーは下との関係性が出来上がってしまっている。


ノンスキルウィーバーたちは自分たちの立場を理解し、努力を重ねている。スキルウィーバーとの協力を通じて、自分の力を発揮する機会を見つけており、特に兵站学科では彼らの知恵が重要視されることが多いが、それでもスキルウィーバーがノンスキルウィーバーを上役として見ることはできなく、現実的には実現できていない。


階級社会の厳しさを肌で感じながら、暁はいつも周囲の目を気にしていた。金持ちの子供たちは、魔核を豊富に手に入れ、強力なスキルを持つ一方、彼のような境遇の者は、もはや生き残るための道すら見えなかったのだ。


神﨑仁雅(かみざき じんが)は、引き締まった体格と威厳ある佇まいを持つ中年男性だ。黒髪には少し白髪が混じっているが、その艶やかさは年齢を感じさせない。彼はいつも整然としたスーツを纏い、知性と品格が漂っている。鋭い目つきは、彼の強い意志と洞察力を象徴しており、優雅に振る舞う姿は誰の目にも自信と余裕を感じさせた。


その一方で、穏やかな笑顔を絶やさない神﨑は、生徒たちから絶大な信頼を寄せられている。彼はどんな時も生徒を見守り、彼らの成長を支えることを何よりも大切にしているのだ。


神﨑は非常に思慮深く、慈悲深い性格だ。スキルウィーバーとしての力は並外れているが、彼はその力を誇示することなく、すべての生徒を平等に扱う。「能力があるかどうかではなく、すべての人に潜在する可能性が大切だ」と信じており、その理念を実現するために心血を注いでいる。


彼の教育方針は、厳しさと優しさを兼ね備えたものである。生徒の成長のためには、時には厳しい決断を下すこともあるが、その背後には常に深い愛情と信頼がある。神﨑は、スキルウィーバーとノンスキルウィーバーの間に横たわる深い溝を目の当たりにしてきた。そして、社会がスキルの有無で人を評価し、貧富の差がさらにそれを広げている現実に心を痛めていた。


数年前、神﨑は自身の探索者としての豊富な経験を活かし、異なる能力を持つ者たちが互いに学び合える場所を作る必要があると強く感じた。資金集めから教員の確保、教育プログラムの策定に至るまで、数多くの困難が立ちはだかった。しかし彼は、決してその信念を曲げなかった。特に、スキルウィーバーとノンスキルウィーバーが互いに尊重し合える環境を作ることは、最も難しい挑戦だった。


神﨑は地域の協力を得るために何度も足を運び、反対意見にも耳を傾けた。彼の情熱と信念は、少しずつではあったが人々に伝わり、最終的にデュアル異能力高校が設立されることになった。こうして、生徒たちがスキルとノンスキルの垣根を越えて学び合う場が誕生した。


神﨑は今も校長として、教室の前で生徒たちを静かに見守り続けている。彼の願いはただ一つ――すべての生徒が自らの可能性に気づき、未来を切り拓いていく力を得ることだ。その成長を見届けるたびに、神﨑は自分の選んだ道が間違っていなかったことを確信している。


そんな神崎にとって、時雨暁が不憫でならなかった。


神﨑は時折、教室の隅でひとり黙々と課題に取り組んでいる時雨暁の姿を見て、心の中でため息を漏らすことがあった。彼の過去や家庭環境を知る者は少なかったが、神﨑にはその傷が深いものだと感じていた。暁は元々スキルウィーバーとして入学したものの、結局スキルを発動することはなく、失意の中でノンスキルウィーバー科に転科し、勉強を続けている。その姿を見て、神﨑は彼がどれだけ心の中で葛藤しているのかを理解していた。


暁は周囲との関わりを避け、常に一人でいることが多かった。表面上は冷静で理知的に見えるが、その内側には重い闇を抱えているように見えた。スキルウィーバーとしての自分を失ったことで、どこか自信を失っているようで、他者との関わりを恐れているようにも見えた。神﨑はその姿に深い思いを抱き、何とか彼が自分を取り戻せるように支えになりたいと感じていたが、その方法が見つからず、ただ静かに見守ることしかできなかった。


神﨑がいつものように校門で生徒たちに挨拶をしていると、登校してくる時雨暁の姿が目に留まった。彼の表情には、普段のバイトの影響だろうか、目の下にクマをつけ、疲れているように見える。


神崎はいつものように明るく暁に声をかけた


「おはよう、時雨さん。なんだか疲れているようじゃないか。何かあったのかい?」


暁は立ち止まった。「あ…おはようございます、神﨑先生。実は・・・」


それから暁は、神崎に母親が『失踪』したことを伝え、現在元々母親が所属していたシルバーウルフギルドの捜索依頼をしたことを伝えた。


神﨑はその言葉に、大きな衝撃を受けた。『失踪』とはつまり、探索中に行方不明になったことを指すことが多い言葉だ。つまり、死んでしまったということだ。


神﨑は無言になった。たしかにこの世界では、死ぬことが身近にあり、それほど珍しい事でもなかった。


「大丈夫なのかい?」


「はい・・・とにかく、今はお母さんの無事を祈るのみです」


「そうか・・・何か分かったら教えてくれ。私も何かできることがあればやるから」


力無く項垂れ、暁は校門を通って校舎に入っていった。


神﨑は世の中の不条理に胸を潰される思いがした。「どうして、この世界はこれほど辛いものになっているのか・・・」悲しい目で暁を見送りながら、心の中で彼が困難に負けない人に成長することを強く願った。



教室の前で待っていた星霞璃月は、やってきた暁の暗い表情に驚いた。


「暁くん…今日、なんだかいつもと違うね。何かあったの?」と、思わず問いかける。


暁は努めて明るい表情をしながら「ああ、別に大したことじゃないんだよ」と微笑んだ。


星霞はその様子に心配そうな顔でうなずいた。「そうなんだ。それならいいんだけど。最近ずっと一人で悩んでいるようだったから…」


暁は一瞬驚いたように璃月を見つめたが視線を逸らした。「心配かけてたならごめん。でも、星霞さんのおかげでここまで来られたと思うよ」


星霞はその言葉に少し頬を赤らめながら、「私なんて何もしてないけど…ねえ暁くん、本当に何もなかったの?いつもと全然違うよ」星霞は訝しりながら訊ねた。暁の変化の原因が内心では気になって仕方がなかったのだ。


暁は少し困ったように視線を逸らし、軽く肩をすくめる。「うーん、ただの気分の問題かな、別に特別なことなんてないって」とさらりとかわす。


しかし星霞は納得していない。「そうなんだね。けども、暁くんはずっとひとりで抱え込むから、何でも困ったことがあったら話してほしいかな」


暁は少しだけ照れくさそうに微笑んで、星霞に向けて静かに言った。「本当に心配してくれてありがとう、星霞さん。…星霞さんのその優しさがなかったら、きっと僕、今ほど強くなれてなかったと思うんだ。本当にありがとうね」


彼の真剣な言葉に、星霞は思わず顔を赤くしてしまった。普段はひとりで抱え込みがちな暁の、こんな素直な気持ちを聞けるとは思っていなかったのだ。


しかし、暁は心の中で一瞬の葛藤を感じつつも、家にあるダンジョンや自分の聖域スキルのこと、母親の失踪のことは、決して口にしないと改めて決めた。もしこれが漏れれば、霧夜やシルバーウルフに察知され、凜にも危険が及んでしまうかもしれない。


それでも、星霞の温かな視線に揺らぐ自分を感じながら、暁は何とか話題をそらそうとし、やんわりと彼女の問いかけをかわし続けた。


星霞は微笑みながら、「じゃあ、またね」と言って自分のスキルウィーバーの教室へと向かった。少し振り返ると、暁が一人机に座り、窓からの風景を見ている姿が目に入った。


「本当に何があったのかしら…」彼女は心の中でそう呟き、廊下を走っていった。


教室に入った暁は、机に座り外の風景を見ている事にした。周囲の人たちが暁の変化を知られても困るので、何もなかったようにいつも通りに過ごすことにした。



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