第4話 星霞璃月

暁が下足室に入ろうとしたとき、星霞璃月(ほしがすみ りつき)は一歩前に出て、彼を呼び止めた。彼女の目は真剣そのもので、少し緊張した様子が見て取れた。


星霞は昨年、暁のスキルウィーバー科の教室で学級委員を務めていた優しい女の子だ。特に高校に馴染めない同級生たちの面倒をよく見ており、彼女の優しさは周囲の生徒たちに安心感を与えていた。暁の苦境や内面的な葛藤に気づいた星霞は、彼を支えようと努力していた。彼にとって、彼女は助けを必要とする特別な存在だったのだ。彼の困難な状況に敏感であり、彼の感情に寄り添うことで彼を理解しようとしていた。しかし、暁が常に閉ざされた態度を取るため、星霞は彼の心の壁を打破したいと願い、ノンスキルウィーバー科に転入してからも彼のことを気にかけ続けていた。


「あぁ、星霞さん。先ほどはありがとうございました。保健室に連れて行ってくれたんですね」


「暁君、さっきは本当に大変だったわね。大丈夫だった?」


暁は一瞬戸惑いを覚えた。先ほどの不良グループとのやり取りが、心の中で波紋を広げ続けていたのだ。苛立ちを振り払おうと必死になり、「大丈夫です。ありがとうございます」と言葉を絞り出したが、その声は思いに反してぎこちなく響いた。


「けど、さっきのは…」

星霞が話を続けようとするのを見て、暁の感情が高ぶっていくのを感じた。彼女の問いかけにイライラが募る。


「ありがとうございます、でももう大丈夫です。今から友達のところに行くので」


彼の言葉は意図せずぶっきらぼうに響き、星霞は思わず目を大きく見開いた。


「暁君…」

彼女の目には心配の色が濃く映っていた。しかし、暁の心の中では、彼女のしつこさが不快感を生んでいた。彼は下履きを床に無造作に落とし、履き替えようとした。その時も、星霞の強い視線に思わず足が止まった。


「星霞さんにはわからないよ…」と小さく呟き、校舎から外へと出て行った。


星霞は少し距離を置き、彼の気持ちを理解しようとするかのように静かに、しかししっかりとした声で暁の背中に呼びかけた。


「それでも、私はあなたのことが心配なの。無理をしないでね、暁君」



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