第3話 保健室にて
気がつくと、暁は保健室のベッドに横たわっていた。頭がぼんやりとしていて、喉の奥が乾いている。声を出そうとしたが、かすれた呻き声しか出てこない。
「う…う…」
「ここはどこ?」と尋ねたかったが、まともに話せる状態ではなかった。ただ、保健室の独特な消毒の匂いと白いカーテンが揺れるのが視界に入る。次の瞬間、優しい声が耳に届いた。
「目が覚めたか?」
暁が薄目を開けると、そこには保健室の常勤である漣弥生(さざなみ やよい)先生が立っていた。漣(さざなみ)は30代の綺麗な女性で、多くの男子学生からも熱い視線を送られ、また女子生徒からも、姉のような存在と慕われている。漣(さざなみ)はサバサバした性格をしており、その距離感がとてもいい、と生徒間では評判だ。
彼女は落ち着いた表情で、暁をじっと見つめている。長い髪を後ろで束ね、淡々とした態度が印象的だが、その目にはわずかに心配の色が浮かんでいた。
「…ここは、保健室だ。分かるか?」
漣(さざなみ)は、穏やかな声で言いながら、暁の顔を覗き込んだ。
暁はゆっくりと頷いたものの、体は重く、全身がまだ痛む。先ほどのいじめの光景が、鮮明に頭の中に蘇ってきた。
「時雨、大丈夫か?どこか痛むところはあるか?」
「は、はい。少し…頭が痛いですけど・・・」
「ある女子生徒が君を運んできたんだ。いじめられていたんだってな」
「いじめられてた・・・そ、そうですね。けども、大丈夫です」
「時雨、これは大事なことだ。君はどうしたんだ?」
「別に何も。もっと強ければいいなとは思いますが」
「強さか・・・、人間にはそれぞれの『強さ』というものがあるんだ」
「漣(さざなみ)先生は治癒使いですよね。僕にはスキルもないし…」
「まぁ、この年齢になって分かるが、スキルが全てではない。私も一度は探索者として戦ったこともあるが、仲間を亡くしてしまってな。その日のトラウマでもう神々の庭では戦えなくなったんだ。それでも、今は治癒という形で人を助けられる。強さは、戦うことだけではない」
「それは、漣(さざなみ)先生には力があるから、そんなことを言えるんです。僕には発動条件がわからないスキルを持っているし、あの連中から逃げることしかできない」
「何ができるかを一緒に考えてみよう」
「できることはありません。僕はただノンウィーバーとして生きていくのみです!」
「時雨暁、いるか?」
昨年の担任、桐生雅人(きりゅう まさと)が保健室に入ってきた。彼の後ろには、不良グループのメンバーが連れられてきているのが見えた。
桐生は熱血漢の50代の男性教員で、身長は2メートルほど。がっしりとした体格の巨漢であり、体育の教員として活発な生活を送っているため、常に健康的な体型を維持している。普段はシンプルなジャージを好み、時にはスポーティな服装を取り入れてアクティブな印象を与える。鋭い目つきを持ち、生徒たちに対して真剣な眼差しを向けることが多い。
教育に対する姿勢は非常に熱心であり、生徒たちの成長を心から願っている。時には厳しく、また時には優しく接することで知られ、生徒一人ひとりの気持ちに寄り添う姿勢を大切にしている。困っているときにはすぐに手を差し伸べるため、彼の熱意は生徒たちに良い影響を与え、信頼を集めている。「努力こそが成功の鍵だ」と信じ、常にその重要性を教え続けている。失敗しても諦めず、挑戦し続ける姿勢を大切にする彼の言葉は、多くの生徒たちに励ましを与えている。
不良グループの面々は明らかに緊張していたが、彼らの表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・。ちょっと頭はまだ痛いですが・・・」
嫌な予感をしながらも、暁は桐生の質問に答えた。暁は、桐生の熱い視線と言葉が苦手だった。
「おい、お前たち、何か言うことはないのか?!」
不良グループの一人が前に出て、心からの謝罪を口にした。
「すまんな。お前のことが不憫で、何かできないかと思ってやってしまったんだ。」
別の一人も続ける。
「ごめん、やり過ぎた。お前のために思ったんだ。許してくれ」
そう言って、6人とも頭を下げた。
桐生は彼らの言葉を聞いて微笑み、暁に向かって言った。
「なんて友達思いなんだ!俺は感動している。こんないい奴らがいるとは!暁、彼らもこう言っているんだ。許してやれ」
暁はその言葉を聞いて冷静さを失った。教員の横では、不良たちが殊勝な姿を見せているが、その笑みは明らかに白々しかった。彼らの真意を疑いながら、暁は静かに反論した。
「桐生先生、多分、こいつらは反省していないですよ」
桐生は一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにイラっとした顔になった。
「なんてことを言うんだ!これは意見の相違だ。お前にとっては不幸な出来事だったかもしれないが、こいつらにとっても不幸な出来事だったんだ」
「こいつらは楽しんでいたんだ!俺を傷つけることを」
桐生は暁の肩に手を置き、宥めるように言った。
「暁、それを意見の相違と言うんだ。お前も大人にならないと、人の気持ちは理解できない。これもお前が成長する過程だと思って受け止めろ。わかったな。今はお前も混乱しているかもしれないが、こいつらがとにかく反省している事だけは伝えに来た。これからは仲良くすることだ。漣(さざなみ)先生、すいません。失礼します」
そう言い放ち、教員と不良グループは保健室を去っていった。
暁は唖然としてベッドの上に佇んでいた。
漣が近づき、優しく声をかけた。
「大丈夫か・・・?」
しかし、その言葉は暁にとって何の意味もなさなかった。彼は暗い顔をして保健室を出て、校舎の入り口へ戻ることとした。
漣はその後ろ姿を見送りながら、自分がどうにかして彼を助けたいと思ったが、どうすればいいのかはわからなかった。
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