第34話 戦士の里の真実
俺たちはドワーフの戦士に連れられて、戦士の里の長に会いに向かっていた。
周りのドワーフたちからは、奇異な目で見られているが、とりあえず無視する。
俺たちはドワーフの女性と人間の姿をした女性、人間に近い獣人の女性と人間の男性というパーティだ。
ドワーフの男性ばかりである戦士の里の中では、とても目立つ存在になる。
「……ランゲツ。こいつらは何者だよ?」
歩いていれば近くにいたドワーフの男性が、俺たちをこの里に入れたドワーフの戦士に話しかけていた。
話しかけてきたドワーフは明らかに、俺たちのことを歓迎していないようだ。
「……こいつらは俺が認めた奴らだ。
里長に紹介する。詳しく知りたければ、後ほど里長から聞けばいいだろう」
俺たちを案内しているドワーフの戦士、ランゲツと呼ばれたドワーフは不機嫌そうに話しかけてきたドワーフの男性の相手をしている。
ランゲツも、話しかけてきたドワーフもどちらも不機嫌そうだ。
俺たちは招かれざる客という事なのだろう。
早く用件を済ませて、こんなところから出ていきたいと思う。
「……そうか。分かった。
後で里長に聞いてみることにしよう。
話しかけて悪かったな」
「いや、問題ない。
気にしないでくれ」
そうして話しかけてきたドワーフが離れていく。
「……何か手を忙しなく動かしていたようですが、戦うつもりですか?」
マリアが鋭い目つきでランゲツと呼ばれたドワーフを見る。
「そんなつもりはない。
里長のところまでは、安全に行ける。これは嘘ではない」
「なるほど。里長に会った後は、どうなるか分からないという事ですか?」
「……里長次第だ。
後のことについては責任は持てんよ」
「……信じることにしましょう」
マリアが息を吐くと、少し緊張していた空気が和らいだ。
どうやら里長には安全に会えるらしい。
その後の安全は保障されていないようだが。
「とにかく向かうぞ。
ここで話していても何も解決しない」
「……それについては賛成します。
さっさと案内してください」
トモエは冷たい眼差しをランゲツへと向けている。
ランゲツは自然と人を怒らせることのできるドワーフだ。その上、何か企んでいそうな気がする。
俺たちはランゲツを脅しているし、用事が済めば殺害するかもしれない。
これについては状況次第だが、俺たちはそのことを隠していない。
そのためもあり、俺たちとランゲツの間には信頼関係が全くない。
俺たちは警戒を強めて、里長の元へ向かうこととなった。
******
里長の屋敷は周りと同様に煙突のある建物になっていた。
恐らく鍛冶の工房を兼ねているのだろう。
「少し待ってろ。
中の様子を見てくる」
そういうとランゲツは建物の中へと入っていく。
俺たちは建物の外で待つことになった。
「……主様。念のために回復をお願いします」
マリアに言われて、俺は全員に回復をかける。
体力の回復からのどの渇きや空腹についても回復で済ませていく。
更に魔力の回復まで、完全に行い戦いに備えておく。
何があるかは、全く予想ができない。
とりあえず俺を取り囲むようにして、トモエとマリアとコガネは警戒をしていた。
「……待たせたな。
中に入ってくれ。里長がお前たちに会うそうだ」
そういってランゲツが建物の中から現れた。
俺たちはランゲツに付いて行き、建物の中へと入ることにした。
建物中は様式としては西洋の様式になる。つまり靴などを脱ぐ必要はない。
通路を抜けて部屋に入れば、少し引く机があり、そこに一人のドワーフが座っていた。
そのドワーフは中年に見えるランゲツよりも、さらに年上のように見えた。
どちらも髭面だが、ランゲツの方は黒い髪と黒い髭だ。
里長はどちらも白くなり、かなり年がいっているように見える。顔にも皴が目立つ。
ただどちらも俺たちに比べると背は低く、これがドワーフの特徴なのだなと思った。
「よく来たな。
サイズが合わないかもしれないが、掛けてくれ」
ドワーフは背が低いためか、少し足が低い椅子に腰かけた。机は長方形で、里長の隣はランゲツが座っている。俺は里長の目の前に座り、その隣にトモエ。トモエはランゲツの向かいに当たる。マリアは長方形の机の別の辺になる。俺と里長側の辺にマリア、コガネはトモエとランゲツ側の辺に座った。上座とかはよく分からないので、適当に座っている。
「それで……その嬢ちゃんが戦士になりたいというドワーフか?」
里長がトモエの方を見た。トモエのことを値踏みしているようだ。
「はい。私はトモエと申します。
私はドラゴンと戦うために、強くならなければなりません。
ですので戦士となり、強さを手に入れたいのです」
「ふむ……。ドラゴンか……」
里長は自分の長い髭を撫でている。少し考え込んでいるように見える。
「……お主等は少し勘違いをしているようじゃな。
まず戦士とは何か、戦士の里とはどういうところかから話すとしよう」
里長は机の上にある飲み物を口に含んだ。俺たちの前にもあるが、まだ誰も口を付けていない。
別に毒とかを疑うわけではない。ただ先程渇きも回復魔法で回復させたため、純粋にのどが渇いていなかっただけだ。
俺は里長が飲んだのを見て、出された飲み物を口にするのが礼儀かと思い、よく分からない飲み物を口にする。
苦い!美味いとか不味いとか以前に苦い。
……でも飲めなくはない。俺が感じる限り、毒もない。念のために回復魔法を使っておくが、実際は特に問題がないと思えた。
「さて簡単に説明しよう。
戦士の里とは何か?それは妖精に守られたこの国の中で、唯一魔物が出現する場所になる。
エルフの場合は精霊じゃな。
妖精によって敢えて魔物が生まれる環境になっている場所が、戦士の里じゃ」
俺たちは黙って里長の話を聞いている。ドワーフの戦士ランゲツが何か言いたげだが、里長によって、発言を封じられていた。
「そして戦士とは魔物と戦い、魔物の死骸を扱う者たちのことを指す。
何故魔物と戦うか分かるか?」
「資源を得るためですよね。
戦士がもつ武器の材料が、魔物の死体なのでしょう。
あなたたちは鍛冶の材料を手に入れるために、魔物をあえて生み出してもらい戦っている。
そういうことではないのですか?」
横を見ればマリアが饒舌に里長の質問に答えていた。
「そちらの娘さんの言う通りじゃ。
魔物の死骸は魔力を秘めた上質の素材になる。そのために戦士の里で魔物を生み出してもらっている。
エルフとは生み出してもらう魔物の種類は違うが、あちらの戦士の里も同じようなものじゃ。
さてそれで戦士じゃが、戦士は戦士の里に住むことを認められたものを指す。
しかしそれが目的ではないのじゃろう?
目的は強くなること。つまり……戦士の試練が目的という事か」
「戦士の試練?」
俺は疑問をそのまま口に出した。里長は再び苦い液体を口に含む。
この飲み物は少し癖になるのかもしれない。
「そうじゃ。戦士の試練とは妖精と戦うこと。
自らの力を妖精に認めさせること。
それが戦士の試練じゃ。これは別に戦士になったからといって必須というわけではない。
むしろ行っている者のほうが少数といえる。
だがお主等の目的はそれじゃろ?」
里長がニヤリと笑っている。悪趣味な爺だな。
俺は直感的にそう感じる。
「いいじゃろう。
トモエというドワーフを戦士と認めることは反対が多く、今はまだ認めることは出来ん。
ドワーフというのは頭が固いものが多いからな。女の戦士というのを認めることが、難しいんじゃ。
しかし戦士の試練を受けることは、認めてやろう。
これは他のドワーフにもいい刺激になるかもしれんからのう。
それは認めてやる。……それでいいかのう?」
里長は相変わらず悪趣味な笑みを浮かべていた。
しかしそれは俺たちの目的に沿う。俺はトモエを見る。トモエは頷いている。マリアとコガネも特に依存はなさそうだ。俺もトモエに対して頷くと、トモエが口を開いた。
「戦士の試練を受けさせていただきます。
よろしくお願いします」
そういってトモエは里長へ頭を下げた。
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