第33話 ドワーフの里への潜入
俺の回復魔法のかいもあり、ドワーフの戦士はすぐに目を覚ました。
「……ここは?どうして俺は寝ていたんだ?」
ドワーフの戦士が辺りを見渡すと、そこには笑みを浮かべたトモエとマリアがいる。
それを見て状況を把握すると、ドワーフの戦士は苦虫を潰したように顔を歪ませた。
その後で自分の体を確認する。
「……どうやらあなたに回復をしていただいたようですね。
感謝します」
ドワーフの戦士が俺に頭を下げる。
「それで戦士の里の場所について、教えていただけますか?」
トモエが戦士に詰め寄ると、表面上は丁寧な口調で問い掛ける。
しかし実際は両手で胸倉を掴んで質問しており、完全に暴力も辞さない構えである。
「……あれは貴様の力ではない」
「私が聞きたいのは、教えるか教えないかのどちらかです。
聞き方を変えましょう。
私に戦士の里の場所を教えますか?
イエスかハイで答えてください」
トモエは戦死を睨みつけながら、質問を行う。
質問の答えはどちらを選んでも、同じ意味である。
「…………」
「もう一度言います。
戦士の里の場所を教えろ!」
トモエはコガネを見て、合図を行った。コガネは右手を突き出し、戦士の頭に標準を合わせている。
「?……妖精が逃げている?」
コガネの実力は妖精の守りを突破する。更に本気を出せば、妖精を殺すことも可能なほど強力な魔法だ。
妖精がドワーフの戦士から逃げても、仕方がないことだと言える。
「答えろ。戦士の里はどこにある?」
トモエは戦士に対して詰問する。戦士の方もトモエの顔と、妖精が逃げている事実からやがて大きなため息をつき、ゆっくりと話し始めた。
「……戦士の里は別の山の中腹にある。
そこへは特殊な転移陣を使ってしか、行くことはできない。
転移陣は戦士と戦士が認めたものしか、利用できない。
……儂の負けだ。戦士の里へ案内しよう……」
それを聞くと、トモエは胸倉をつかんでいた手を放す。コガネに合図して、コガネも手を下ろして集めていた魔力を分散させた。
ドワーフの戦士は素早い動きをするタイプの戦士ではない。そのため不意打ちでこちらを全滅させることは困難だろう。
特にマリアやコガネは戦士から俺を守るような位置にいる。そのため俺を殺すことはできないはずだ。そうなれば俺がいる限り、仲間はすぐに回復させることが出来る。
例え一度命の灯が消えていても、すぐに灯し直せる。
俺たちは戦士に対する警戒をしながら、戦士の案内でドワーフの里の外を歩くことになった。
「……たしか、トモエという名前だったか?
何故戦士になることを望む?
鍛冶がしたいのか?」
歩いている途中で戦士がトモエに対して話し掛けてきた。
トモエは少し戦士のことを睨みつけたが、最終的には答えることにしたようだ。
「……強くなりたいからだ。
私は強くなって、ドラゴンに復讐する。
鍛冶には興味が無い」
「そうか……。
変わったドワーフの娘だな……」
戦士のその言葉は、トモエにとっての地雷だ。トモエは元々『風』と『水』の属性の妖精の力しか借りられない。
『火』や『土』といった普通のドワーフがもつ力が無いから、戦士として認められることでドワーフとして認めてもらいたかった。そんな過去がある。
だから戦士のその言葉は、トモエの逆鱗に触れた。
「殺すぞ!」
トモエはいきなりブチ切れていた。トモエの過去を知っている俺たちからすれば、当然のことだ。
しかし何も知らないドワーフの戦士は、いきなりのことで面食らっている。
「なっ、なんだ?
何故怒っている?何か変なことを言ったのか?」
トモエは包丁を抜いて斬りかかろうとしていたが、流石にまだ死なれると困るため、マリアがトモエを両手で抑えていた。
「トモエ!ダメです!
まだ!ダメです!
もう少し待ってください!!」
その言葉を聞いて戦士は武器を構えようとしたが、コガネが狙いをつけているのを見て、武器を下ろした。
やがて覚悟を決めた顔をすると、トモエに対して頭を下げる。
「何か気に障ることを言ったのなら、謝罪しよう。
すまんかった」
トモエもその様子を見て、包丁を鞘に納める。落ち着いた感じになったため、マリアがトモエから離れると、トモエは一度大きく深呼吸をした。
「……構いません。
私も少し大人気が無かった気がします」
「ん?嬢ちゃんは子供だろう?
子供が癇癪を起こすのは当たり前のことだ。
気にするようなことじゃない。
まぁ儂が悪かったという事で収めてくれ」
ドワーフの戦士は笑顔でトモエを見ている。
それに対してトモエは、怒りで顔が引き攣っている。
……どうやらこのドワーフの戦士は、悪意無く人を怒らせることが出来る人物のようだ。
出来るだけ早く用事を済ませて、こいつから離れたほうがいいな。
俺は心の中で、そう誓った。
******
その後は特に問題もなく、進むことが出来た。
ドワーフの戦士は、色々話しかけていたようだが、トモエはすべて無視することにしたようだ。
これ以上話をすると、どれだけ怒っても怒り足りないだろう。
そのうち誰も話すことが無くなり、静かに進むことになった。
「……ここだ」
そういってドワーフの戦士が立ち止まった。
目の前には何もない。
どういうことだ?
「何もないように見えますけど?」
警戒を強めながら、マリアが戦士に対して問いかけていた。
「そう見えるだけだ。
ここは妖精の力によって、隠されている。
戦士以外のものは、戦士がいなければ入ることが出来ない」
そういうと戦士が右手を挙げて。何度か横へと振った。
するとそれを合図に、隠されていた転移陣が目の前に現れる。
「この場所を知っていても、戦士以外の頼みで妖精が転移陣を出すことは無い。
これは太古の昔の戦士と妖精との契約らしい。
戦士のみが、この転移陣を出すことが出来る」
なるほど。先程の戦士の動きを真似ても無駄という事か。
恐らくは戦士の紹介で妖精に登録することで、戦士として認めてもらえるという事なのだろう。
俺たちは謎の文様で光輝く円の中へと、足を踏み入れる。
転移陣は円になっており、せいぜい20人くらいが限界の大きさだ。
そういう意味では普段なら問題ないだろうが、突然の事態が起こった場合は不便そうだなと思う。
特殊なエレベーター。俺は転移陣をそう解釈することにした。
「全員乗ったか?
……なら発動させるぞ」
ドワーフの戦士の声で、転移陣から強い光が発せられる。
光が収まれば、そこは先程までとは全くの別の場所らしい。
正直言えば、周りの景色に違いが感じられない。
……本当に移動したのか?
「着いたぞ」
そういってドワーフの戦士は、転移陣の外に出る。
俺たちもそれを追いかけるようにして、転移陣から出るがやはり違いが感じられない。
俺体が不思議そうにしていると、ドワーフの戦士は手を挙げて横に振っている。
それと同時に隠されていた外の様子が分かるようになった。
どうやら転移陣の外に出るのも、戦士が必要なようだ。
そこは一見すると、多くのドワーフがいて、ドワーフの里と変わりないように見える。
しかしそこには男性のドワーフばかりで、女性の姿が見当たらない。
明らかに人工的に作られた建物がある。煙突から煙を出す建物が多くある。
これらのことはドワーフの里では考えられないことだ。
自然に溶け込んでいない。人工的な建造物があり、空気を汚している。
ここは戦士の里だと確信した。
「ついて来てくれ。
まずは里長に会ってもらう。
それがここのしきたりだ。悪いが従ってもらうぞ」
俺たちは顔を合わせて、全員が頷く。ここでこいつを殺しても、何の意味もない。
自分たちの立場を悪くするだけだ。
ここはまだドワーフの戦士に従うことにした。
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