第31話 病んでる気持ちとドワーフの戦士



俺たちはゴーレムカーに乗って、エルフの里から別の場所へと向かっている。

傍で眠るコガネの胸を撫でながら、もう片方の手で尻尾を撫でる。

完全に事案である。


「……それで今はどこに向かっているんだ?」


ゴーレムカーはマリアの指示で行き先が決まっていた。だから俺はマリアに尋ねる。


「行き先はドワーフの里です。

 エルフドワーフ連合国はエルフとドワーフで住むところが全く違います。

 基本的にエルフは森に住み、ドワーフは山に住みます。

 そのため今は木がほとんどない岩山へ向けて進んでいます」


「それで……トモエが強くなるのはどうするんだ?」


俺は気になっていることについて、尋ねる。

トモエを見ると自分のことかと気が付いて、トモエが俺へ向き直る。


「結局のところ戦士の強さというのは、精霊または妖精に認められるということです。

 つまりエルフに弟子入りする必要はありません。

 私が妖精に向き合うことで強くなればいい。

 やり方についてはドワーフの戦士に聞けばいいでしょう。

 流石に同族ですのでやり方を隠すということは無いはずです」


つまり重要なことは妖精(精霊)と向き合うこと。

属性は関係ない。だからエルフに聞く必要はなかった。

同族のドワーフのやり方で強くなればいい。

こういうことか。


「なるほど。それでドワーフの里に向かっているわけだな」


「ええ、そうなります。

 同族に出会うのも久しぶりです。

 実は少し楽しみにしています」


トモエはそういって微笑んだ。



******



緑がほとんどない岩山に俺たちは到着した。

どうやらこの岩山にドワーフは住んでいるらしい。流石に舗装もされていない山道である。

ゴーレムカーの出番はここで一旦お休みになるようだ。

俺たちは山登りをする割に軽装な装備で、岩山に臨んでいる。

いざとなれば俺の回復で何もかも、ごり押しすればいいだろう。


「……ご主人様。

 岩山に上る際の注意点です。

 谷底に落ちないように注意してください」


トモエは真面目な顔をして、俺に注意をしてきた。


「ご主人様が谷底に落ちて戻れなくなりますと、私たちの命が危険にさらされます。

 まず第一に私たちと決してはぐれないように、注意してください」


トモエは俺の心配というよりも、俺がいなくなることに対する心配をしているようであった。

ツンデレとかではなく、真面目に自分たちの心配しかしていない。

俺のことは便利な道具扱いになっているのではないだろうか?


「……なぁトモエ。

 俺のことをどう思っている?」


俺は少し心配になり、直接トモエに尋ねた。


「ご主人様はご主人様です。

 私にとっていなくてはいけない存在です。私の命よりも大切な方です。

 ご主人様のためなら、何でもすると誓っております」


目が黒く濁り渦を巻いている。病んでいる。

たまに急に病むから、トモエは少し怖い。


「トモエ。少し落ち着け。

 お前の俺に対する気持ちはよく分かった。

 大丈夫だ。大丈夫だから、落ち着け」


俺はトモエの頭を撫でながら、トモエを落ち着かせる。


「……何をやっているんですか?」


マリアが呆れた眼差しで、俺たちを見ている。


「いやっ、これは……」


「主様は自覚が足りません!」


急にマリアによって断言される。


「私たちは主様のことを必要としています。

 ハッキリ言えば依存しています。

 中毒になっています。

 主様が私たちには必要です。

 能力という意味ではなく、主様という存在が私たちが生きていくために必要なんです。

 下手に疑いをかければ、取り乱すのは当然でしょう?」


マリアはこの程度のことも分からないのかというような目つきで、俺のことを見ていた。


「使徒様。僕は使徒様のものです。

 だから僕に何をしてもかまいません。

 弄んでもかまいません。悪戯してもかまいません。

 性欲処理に使ってもかまいません。

 ですが捨てることだけは止めてください。

 僕が生きているのは使徒様がいるからです。使徒様に必要にされているから、僕は生きています。

 僕たちは生きています。

 それだけは忘れないようにお願いします」


コガネが俺に対して頭を下げている。

表情は見えないが、声の感じからして病んでいるのだろう。

……それにしても。


「もしかして、寝ているときに触っていることに気が付いている?」


「当然です。

 僕は並列思考が出来ます。

 いくつかの僕が寝ていても、常に何人かの僕が起きています。

 寝ているからだに何が起きているのか、観測しています」


「……じゃあ、もう触らないほうがいいのか?」


「どうしてそうなるんですか!

 僕は少しも嫌だと言っていません。むしろ嬉しいです。

 使徒様に必要にされて嬉しいのです。

 だからもっと大胆に触ってください。使ってください。

 ……僕のことを必要としてください」


コガネの声が震えている。俺はトモエを撫でるのとは反対の手で、コガネの頭を撫でている。

岩山を登る前に大変なことになってしまった。


「主様。

 自業自得ですよ」


マリアがにっこりと笑っていた。



******



回復魔法を使いながら、俺たちは山を登った。そしてドワーフの里に到着している。

ドワーフの里もエルフの里と同様に、人工物があまり目立たないようになっている。

確かに家などもあるのだが岩山の中に作られており、岩山と一体化していた。


「……トモエ。ここがドワーフの里か?」


どう質問して分からないため、抽象的な質問をトモエにしていた。


「はい、ここが一般的なドワーフの里です。

 ドワーフの里は妖精によって管理されています。

 妖精は人工的な建物を嫌がります。精霊も同じで、エルフの里も人工物は分からないように建っていたでしょう。

 ドワーフの里でもそれと同じように、人工的な建物は目立たないようにして建てられています」


トモエは俺が何を聞きたいのかを察して、詳しく説明を行ってくれる。


「……そういえばドワーフは鍛冶を行うと聞いたことがあります。

 そういうなのは、どこで行っているのですか?」


マリアがトモエのほうを向いた。


「ああ、鍛冶ですか。そういったものは別の場所で行っています。

 基本的に鍛冶が出来るのは『戦士』だけです。

 『戦士』だけが鍛冶を行うことが出来るのです。

 戦士は別の場所で暮らしています。そこで家事を行っているはずです」


戦士について話すトモエは、少し楽しそうに笑っている。


「エルフの戦士と話して分かりました。

 『戦士』だけが家事を行うという意味について。

 つまり妖精の加護から抜けたドワーフだけが、妖精の意にそぐわない鍛冶を行うことが出来るのでしょう。

 私も戦士の里の位置は詳しく知りませんので、適当に戦士の里の場所を聞いてみようと思います」


なるほど。ここで戦士の里の位置を確認して、目的地は戦士の里ということか。


「ならコガネに聞いてこさせましょう。

 コガネは雰囲気が柔らかく、この中では比較的穏やかに話を勧められると思います」


マリアはコガネに指示を出すと、コガネは俺たちから離れて走り出した。


「……大丈夫なのか?」


子供がはぐれたような感覚を味わったため、俺は少し心配になりマリアに問い掛ける。


「大丈夫です。コガネは魔力的に妖精を焼き殺せるくらいの実力を持った魔法使いです。

 それでいて中身は子供で可愛らしい。

 質問をすれば問題なく答えてもらえるでしょう」


自信満々で答えるマリアに対して、俺は少し不安を覚えるのであった。



******



コガネが一人のドワーフと共に戻ってきた。そのドワーフは背が低いが筋肉質で髭面の男であった。

自分の体よりも大きな斧を担いでいる。


「おぬしらがこの子の保護者か?」


ドワーフの男は俺たちのことを、睨むような目つきで見ている。

何か問題が起きたようだ。


「はい、どうかしましたか?」


こういう時の対応はマリアが行っている。


「どうもこうもない。この子は戦士の里を探していた。

 何の用だ?」


「私が戦士になりたいからです」


「おぬしは?」


ドワーフの男がトモエを見る。


「私は強くなりたい。だから戦士になる。

 そのために戦士に会いたい。それだけです」


トモエは少し早口で口上を述べた。

ドワーフの男はトモエの体中をジロジロと見回す。


「……おぬしがか。

 分かった。ついてこい。

 戦士の里に入る資格があるか試してやろう。

 儂はこれでも戦士の端くれ。

 この儂が試してやるんだ。ありがたいと思うがいい」


横柄な態度をするドワーフの戦士は、そのままドワーフの里の外へと歩いていく。

俺たちはそれを全員で顔を見合わせて、見送っていった。



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